きぃちゃんと明石さん

うりれお

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本編

ナンパ(?)とか聞いてません!

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「……はい、……はい、……了解でーす。
  テーブル取れたら取っときますねー。
  はーいっ、失礼しまーす。」

通話の相手である明石さんが切るのを待って、通話が終了したのを確認する。
後輩に追っかけられるとか、流石明石さんモテモテやなぁ。
生きづらそう。
きぃがこんな事言うのも失礼か。

モテという、季衣には無縁なものに、うんざりした様子だった明石さんに、表面だけの同情をしながらスマホをカバンにしまった。

「なんの電話だったんだ?」

「うわっ、ビックリしたぁ。」

明石さんとの電話に意識を向けていたため、隣に長谷川がいる事を忘れてしまっており、急にヌンっと顔を近づけてきた仕事の相棒に、過剰に驚いてしまった。

「ごめん長谷川、存在忘れてたわ。」

「はぁ?ひっでぇやつ。
  ……んで?店変えるって?」

なんの電話か聞いといて、ちゃっかり会話を聞いてたんやんか。

「誰かさんと一緒で、
  ついてこようとするやつが居るんだと。
  まぁ、向こうは完全に明石さんに無断で、
  尾行しようとしてるらしいわ。
  んで、後から店に入って
  『あれ?明石さんじゃないですかぁっ!』
  ってやる予定だそうで。」

状況説明のついでに、長谷川への嫌味を載っけてぶつけるも、ダメージを受けた様子は無い。

「俺よりやべえじゃねぇか。」

「やべえ自覚があるなら帰れっ、邪魔者がぁ。」

開き直りやがって。
あー、あかんあかん。
こいつの前やと口が悪くなる。

「んま、とりあえず新清洲の予定やったけど、
  丸の内で降りまーす。定期チャージした?」

季衣と明石さんは、丸の内は定期圏内のため、追加料金なく乗車出来るが、長谷川は名古屋駅から季衣達とは逆方向に家があるため、チャージが必要なはずだ。

「あ、忘れてた。
  悪い、ちょっと待っててくれるか。」

「あーい。」

季衣は改札近くの柱に寄りかかって、長谷川がチャージするのを待つ。
この時間のきっぷ売り場は何かと混んでいて、暫くかかりそうだ。

推しのSNSでも見るかと、スマホをポケットから取り出したとき、ふいにスマホの画面に影が差した。

「おねぇさん、今一人っすか?」 

「…………は?」

顔を上げると季衣と同じくらいか、それよりも若くも見える、短髪でスーツを着た男が立っている。
一瞬、自分に話しかけられているとは思わなくて、驚きと若干のイラつきから、目が合った男に、おもわずガンを飛ばしてしまった。

なにこいつ、近っ。

いきなり話しかけられて、パーソナルスペースに入り込まれて、長谷川以上の嫌悪感から、一歩横に避ける。

「ひとりちゃうけど……、
  なんですか、おにぃさん。」

こんな駅前で、こんなどう見ても仕事終わりのOLに声掛けるとか……、詐欺?
それか…………ホストとか?
いやでも、リクルートスーツ着てるしなぁ。

「いやー、おねぇさん可愛いから、
  一杯どうかなーって。
  まぁ、簡単に言えばナンパっすね。」

…………………………ナンパ?難波じゃなくて?
ナンパ?きぃをナンパ?
しかも、可愛い……?
大丈夫かなこの人…………。

「ひとりじゃないって事はやっぱり
  彼氏待ってるっすか? 
  てか、今彼氏いるっすか?
  ……いや、この可愛さでいない方がおかしいよな。」

いや、こっちに喋らせる気ないやん。
うーーーーん、やっぱり詐欺かな。
はせがわぁ……早く帰ってきてぇ…………。

「やっぱ連絡先だけでも教えてくれないっすか?
  頼んますッ!」

本気なのか、やはり詐欺なのか分からないが、男はパンッと両手を合わせて、季衣に頼み込んでくる。
後でDMとかで変なURL送られてきても嫌やしなぁ。
こんな経験初めてなので、対応に困ってしまう。

「おにぃさん……流石に冗談キツイて……。
  勧誘とかやったら他当たってくれます?」

「違うっすよぉ~。
  一目惚れっす、ひ・と・め・ぼ・れ。」

うわぁ…………、チャラっ。
めんどくさくなってきた…………。
いっそのこと連絡先交換してブロックした方が楽だろうか、なんて考えていると。

「悪いっ、待たせた。
  結構混んでてー………………………………?」

やっっっっっと、来たかお前ぇぇ。
きぃちゃん、キツすぎて、大声で叫ぶところやったぞ。

半泣きになりながら、長谷川に高速まばたきで助けろと訴える。
仕事で、対応しきれなくて困っているが、顧客の前や上司の前で口に出せない時によく使うワザだ。
季衣の顔を見た長谷川はパチパチと二回まだたきを返し、了解の合図を出した。

「お仕事お疲れ様です、お兄さん。
  ところで…………うちの彼女になんか用ですか?」

持ち前の完璧な営業スマイルを顔に貼り付けて、右手で季衣の腰を引き寄せながら、凄む。
助けろとは言ったし、助かってもいるのだが、こいつ本気で怒っていないだろうか。
なんであんたが怒るんや?

「やっぱりイケメン彼氏おったぁ…………。
  なんでもないですごめんなさいッ諦めますッ。」

長谷川の殺気にやられたのか、男はズコズコと逃げていった。

「はぁ~ーーーーーっ、たすかったぁぁ、
  長谷川ナイスっ。」

思わず気が抜けて、その場にしゃがみ込んでから、左手でグッジョブを作る。

「全然状況読めなかったんだが、方向性合ってたか?」

「バッチリ。
  あんたの顔が良くて助かったわ。」

「顔関係ないだろ。
  ってか何だあれ、キャッチか?」

「それがなぁ、自称ナンパやねん。信じられへんやろ?
  あははははっ、絶対、詐欺かホストやんなぁ。
  あーオモロ。」

「は?ナンパ?」

ネタっぽく喋ってみたのに、長谷川は笑うどころか、眉間に深くしわを寄せた。
やっぱりなんか怒ってる?

「そう、ナンパ。
  しかも聞いて、ひとめぼれって言うねんやんか。
  どう思う? きぃって可愛い?」

なーんてなっ、と冗談のつもりで、可愛子ぶって相棒の顔を覗き込んだのだが、

「…………好きなやつは好きなんじゃねぇの。
  ったく、何言わせんだ。」

そこには、口を手で覆って目を逸らしながら、耳を赤くする長谷川の姿があって。

…………なんやそのかおぉぉぉ。
真面目に返すやつがあるかいっ。
照れんなっ、こっちが恥ずいわっ。

「ふ~ん、世の中変わってる人もおるもんやなぁ。」

「おま…はふつ…に……いぃだろ。」

「え?なんて?
  ごめん、聞こえんかった。」

「……はぁ、騙されそうな顔してんだから、
  変なのについて行くなよっつったんだ。」

「なにそれぇ。
  子ども扱いすんなっ。」

「童顔なんだからあながち間違いではないだろ。」

一の宮方面のホームに向かいながら、いつも通り軽口を叩きあって歩いた。














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