きぃちゃんと明石さん

うりれお

文字の大きさ
17 / 48
本編

→おまけ

しおりを挟む

 
 
 
おかしい。おかしい、おかしいおかしい。
名古屋駅にほど近い、印刷会社の経理部に勤める豊橋とよはし由夢ゆめは、ほんの数分前に起こった出来事に混乱を隠せないでいた。


 
「あっ、明石主にぃ~ん♡
  今から休憩ですかぁ~?」

いつも目で追ってしまう背中を、たまたま廊下で見つけて、すかさず声を掛ける。

「ん?あぁ、誰かと思ったら豊橋さんかぁ。」

ん~~、今日も相変わらずカッコイイッ♡

去年の春、落としてしまったハンカチを拾ってもらってから、彼女は柊真に夢中であった。
そして、長谷川にも劣らぬ程、自分に自信があるのであった。

私に会う度にそんな笑顔見せてくれるなんて、気があるって思ってもいいよね?
由夢に落ちないオトコなんていないんだから。

「今から昼だよ。豊橋さんも?」

なになにぃ~、由夢とご飯食べたかったですかぁ~?
ざんねーん。

「今食べ終わっちゃいましたぁ。
  っていうか、いつになったら
  『ゆめ』って呼んでくれるんです?」

付き合うのも時間の問題だと思いますよ? 
由夢は首をコテンと傾けて、上目遣いで柊真を見る。
この位置、この角度、今のわたし、可愛いでしょ♡

この時由夢は、柊真も自分の愛らしさに目が釘付けになると思って疑わなかった。
実際、柊真の目は由夢の姿を映し、微笑みさえ浮かべていたのだが。

……あ、あれ?違う……?
主任……私の事見てない_!?_
目の奥に、由夢じゃない誰かを見てる……?

「ごめんね、豊橋さん。
  ちょっと……下の名前では呼べないかなぁ。
  それは多分、俺の役割じゃないよ。」

綺麗な眉毛を寄せて、申し訳なさそうに、少し疲れたように言った。

「えっ、」

えっ?……なんで?
いつもなら、『んー、そのうちね。』『どうしよっかなぁ』と微笑みながら答えていたはずで、はぐらかされていることは薄々気づいていたが、明確に拒否されたことは無かった。
なのに、今日は何処か様子がおかしくて。

「豊橋さんの彼氏になる人に呼んでもらわなきゃ、ね?」

「あ、いや、私は主任に…っ、」
 
プルルルルル、プルルルルル、
プルルルルル、プルルル……

『彼氏になる人に』という事は、柊真自身は由夢の彼氏になる気が無いということで。
名前を呼んで欲しい、恋人になって欲しいと、喉まで出かかった言葉は、廊下に鳴り響いたコールによって、言うタイミングを逃してしまった。

なんでッ……急に……ッ。

「あっ、俺か。
  誰だろ…………んえっ、きぃちゃん?
  あ、ごめん豊橋さん、ちょっと出てくるッ。」

「えっ、あっ、はい…………。」

おかしい。おかしい、おかしいおかしい。

きぃちゃんって誰?
女?女だよね?
由夢は駄目なのに、その女は下の名前で呼ぶんだ?
しかもなにあの顔。
あんな顔した主任見た事ないっ。
私に見せてた笑顔は偽物だったって事?
なんでこんなにいつもと違うの?


彼女が……出来た……?
会社の人間?
いやそんな噂は聞いてない。
なら他社か。
えっ、最近飲みに来てくれないのはそういう事?
彼女とデートするから来ない…………?
主任の目に、私は微塵も映ってない…………?

まさか、そんな。
 
 
 
 
あまりのショックに、普段もあまり進まない仕事が、さらに進まなくなった由夢に、飲み会尾行作戦が伝えられたのは、週末の事だった。
 














しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...