記憶喪失をした俺は何故か優等生に恋をする

プーヤン

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第3話

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彼らの話は新鮮で、ふと自分の中に老いを感じる。

カラオケに行きたいだの、ボーリングやらゲーセン。彼らは楽しそうに遊んだ時の話やら、その当時流行っているゲームの話で盛り上がる。

俺はそんなことよりも、家に帰って寝たい、どっかに行くなら温泉に行って、家帰って寝たいと考えている。

そんな話をしている放課後、俺たち男四人の輪の中に女子が入ってきた。

「上原。朝、岩っちょに怒られてたね………いつもならすぐ悪態をついてたのに、耐えたんだねぇ偉い偉い」

黒髪ロングを靡かせて、上から目線に俺を揶揄うこの女は感覚的に分かった。本田 真美であると。

彼女とは高校一年の時から仲が良く、本田率いる女子グループと俺たちで遊ぶことも多々あった。

というか、前の俺ってそんな短気なやつだったのか?そこらの不良となんら変わらないじゃないか。

俺は納得のいかぬまま彼女の顔を凝視する。

確かに整った顔立ちであり、男が皆、恋焦がれそうだが、笑顔から底意地の悪そうな性格を覗かせる。

彼女の小さな口元が三日月のように曲がり、冷淡な笑みに変われば俺はこの女のことを完璧に思い出していた。

彼女のスカート丈はやけに短く、白い太ももが露わになっている。俺は校則に反しているであろうその着崩した太ももを見ながら、劣情ではなく、お嬢さん、それでは今の季節まだ寒いでしょう?といらぬ心配をしてしまう。

嘘だ。少し劣情も抱いていた。

「いや、なんか寝不足で頭が痛いんだ。それで何の用だ?」

彼女の太ももではなく、話し方や仕草を目の当たりにして、何故か俺は罪悪感を覚える。

久しぶりに会ったとさえ感じる彼女に対し、覚えていた記憶は単なる会話や、遊んでいた記憶ではない。

もっと深く、公然では言えないような記憶。
しかし、現在の彼女の俺への接し方から、俺と彼女がそういった関係ではないことがはかり知れる。

そんな渦巻く記憶の中で、俺は彼女に対してどう接するべきか分からなくなり、図らずも冷たくなってしまう。

「え?冷たくない?なにそれ?」

「そうか………すまん。それで、なんだ?」

俺が真顔で聞き返すと、彼女は逆に俺の顔を神妙な顔つきで見る。そして、眉を顰めて、顔を近づけてきた。

「なんか………上原、老けた?」

彼女の顔が近くに来ると、俺は意識して避けてしまう。
しかし、それは橘の発言により、悟られるこたはなかった。

「な?真美も変だと思うよなぁ。なんか朝からこんな調子なんだよなぁ」

橘が話に加わり、本田と二人して、変なものでも見るように俺を凝視する。イケメンと美女に睨まれるのも不思議な体験であり、俺も負けじと彼らを睨みつける。

俺が闘犬のように「グルルルルッ」と唸っていると、彼女は何かを想い出したようにパチリと指を鳴らした。

「あ!………そうだ。カラオケ。今日の放課後、カラオケ行く予定だったでしょ?恵(めぐみ)と馨(かおる)にも声かけといたよ」

「お、ありがと。美月とショウは行くだろ?ウルシはどうする?」

「うん。今日は部活も休みだし」「ああ。行く」

俺と小西が返事をする。

「俺はパスで。今日は女と飯(めし)に行く予定だからよ」

橘の誘いを漆原はすげなく断った。

そうして、彼はすぐに教室を後にした。その後ろ姿に橘が「たまには来ればいいのになぁ」と俺に同意を求めてきたので、俺は適当に相槌を打つ。

漆原 竜二の人間性は徐々に思いだしてきた。人に束縛されるのを嫌う。しかし寂しがり屋であるという面倒な性格であった。

また無類の女好きである。

先輩、後輩問わず、学内の女子を取って替えひっかえしているらしい。
記憶を掘り起こせど、俺には彼が何故モテるのか疑問であったが、話せば、そのフットワークの軽さや、軽い口調からある種の余裕を感ぜられるのだ。

それは学生の中では珍しい種類の人間に思えて、女子の入る隙を常に開けている状態にも思え、彼を追う女子がいることも一応、納得できた。

俺が漆原を分析している間に、本田は待つのに飽きたのか、足先を揺らし貧乏ゆすりをする。

そうして、恵と馨の帰りを待っている彼女は、えらく苛立っているように見えた。
暇だから先に俺たちに声をかけたのかもしれない。

そんな彼女に橘が優しく声をかける。

「そういえば、その恵と馨は?」

「掃除係。ほらゴミ捨て当番だって………めんどうだし、誰かに変わってもらえば良かったのに………ほら、あそこに残っている宮藤さんとかヒマそうじゃん」

そう言いながら本田は後ろの隅の席で本を読んでいる女子に視線を移す。

俺はちょうど本人に聞こえるか聞こえないかくらいの絶妙な声量に一瞬、ドキリと肝を冷やしてしまう。

それを橘が「まぁ、そう言うなよ。俺等も一緒に待ってるだろ?」と優しく諭していた。

この女、怖いなぁと考えながら、目をその女子に向ける。

その瞬間、俺はその女子生徒に目を奪われた。何故か彼女が他の女子とは違って見えたのだ。

何故、今まで見えなかったのだろう?と不思議に思うほどである。

彼女は確か、宮藤 桔梗(みやふじ ききょう)という。

品行方正、折り目正しい女子生徒。着崩すこともなく、きちんと制服を着ており、スカート丈も他の生徒に比べて長い気がする。
また、長く艶のある濡れ烏色の髪を後ろで一つに束ねており、前髪も目にかからない程度。

切れ長の瞳が本の活字を追うたびに、微かに震える。

幼き日に初めてみた初雪の日を思い出させる、冷たさを纏った白い肌は黒子も傷も一切なく、あまりに綺麗で、その姿は不変的なものに見えてしまうが、ただその純白に這う青い血脈が生を宿していることを知らしめる。

その女子は周りが見えない様子で本の世界に没頭しているように見えた。

しかし、俺は早くも声をかけたい。彼女と話がしたいという衝動に駆られる。もう言葉が喉まで出かかっている。

「ねぇ………ねぇ。美月?」

彼女は鬱陶しかったのか、さらりと耳に、その長く絹のような髪をかけ、本を読む。
それを見ながら、自分のこの不思議な衝動に理由を探してしまう。いや単なる一目惚れか?それとも記憶喪失の弊害か?
結局、それもどうでもよくなり、彼女の元へと一歩踏み出そうとした時だった。

「美月!………恵たちも来たし、行こ?」

それは本田の声であったと気が付く。しかし、俺の心はその後も彼女のことで埋め尽くされていた。

 

 

 
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