記憶喪失をした俺は何故か優等生に恋をする

プーヤン

文字の大きさ
30 / 43

第30話

しおりを挟む
高校生になったからと言って何かが変わるわけでもない。

ただ年齢が増えて、通学する場所が変わって、顔を合わせる奴が変わっただけだ。なんの感慨も抱かない。

中学から一緒だった漆原も同じ高校に行くらしいから、やはり何も変わらない。

また、こいつと馬鹿やって、絡んでくる奴がいれば殴り倒してやれば世界は平和で今までと同じ日常である。

そういえば、漆原と初めて会ったのは中学三年の頃か。

あいつが俺に絡んでくるから、喧嘩になって、奴を殴り倒し、そのまま何故か話すようになった気がする。

それ以来、漆原が俺に喧嘩を売ってきたことはない。

中学といえば、その頃から家族仲は悪くなっていき、妹は俺を怖がっているのか、心配しているのか分からないような表情でいつも俺を見ていた。

それに苛立って何度か怒鳴って脅してやれば、それ以降、話しかけては来なくなったが。

そうして、高校に入り、新たに橘とその子分みたいな小西と話すようになったが、結局、思い返せば高校二年生あたりからは漆原とつるんで馬鹿なことをしていた思い出しかない。

橘は嫌に真面目であったし、小西は小西で面白みの欠片もない人間であった。そうなると、馬鹿なことを平気でやりたがる漆原とつるんでいるのが一番楽しかったのだ。

そのつながりで、本田という女子生徒と付き合っていたが、それも俺の浮気で別れることになり、他の女子の友達も漆原が高校卒業までに食い散らかして、終わりを迎えた。

高校を卒業すれば、適当に働こうと考えていた俺であったが、最後に橘が俺に大学に行ける環境にあるなら行くべきだと何度も力説するものだから行くことにした。

漆原はもっと二人で馬鹿をやろうと俺を誘ってきたが、橘の四年間は好きに遊べるぞという言葉に惹かれたのだ。

そうして、大学に進学した。

そうすると、次第に漆原とは連絡を取らなくなり、橘や小西とも会わなくなった。大学で出会った馬鹿な奴らとまた一緒になって馬鹿なことをしていた。

女遊びに、煙草に酒浸り。高校の時よりは人様に迷惑をかけることは減っていったが、大学に入って馬鹿に拍車がかかったようだ。
自分と同じような人間と無駄な日々を過ごしていた。

そのまま大学をなんとか卒業し、親元を離れて自立し、適当に受かった会社に入った。

会社に入れば、数週間で大学の時の友人など顔も忘れてしまい、抱いた女の数も、その時付き合っていた彼女の顔も嘘のように綺麗さっぱり忘れてしまった。

流石の俺も会社に入れば、適当に覚えた敬語を話し、適当に社会のルールに則って生活をする術を学んだ。

喧嘩なんか強くてもなんの意味もない。喧嘩が強い奴よりも、エクセルを上手く使えるやつ、商談の成立数が多い奴。社会で重宝されるのはそういう連中だ。

ここで初めて俺は人生の挫折を強いられる。

適当に就活をしたのが悪かった。ちゃんと会社を調べていなかったのが悪かった。面接官がやけに血色の悪い肌に、目が明後日の方向に向かっているのも今にして思えば兆候である。

二次、三次と進む面接で出てくる人間がどこか皆、抜け殻のような奴ばかりで皆同じように自社を褒め称える。

それに違和感を覚えなかったのが悪かった。

そうして入った会社が俗に言われるブラック企業であると後になって知った。

退社するのは日が回ってからであったし、泊ることも多々あった。明らかに一人に任せるべきではない業務量を毎日のように回され、机が紙の山で埋まり、視界が山で遮られる光景を何度見てきたか分からない。

そうしてそれを処理しても、次から次へと仕事は回ってくる。

これが入って間もない新人にやらす量かと疑問にも思っていたが、それを上の人間に言う元気もない。
許容範囲を超えればミスは生まれ、不条理な罵声を浴びせられた。

ムカつく上司を殴り倒してやりたいが、そんなことをすればすぐに生活は崩れることをこの時には理解していた。

やりがいも生きがいもとうに見失っていた。そうして、どうにもおかしな感覚に陥ることが増えてきたなと思っていた。

やけに気分が乗る日があれば、何気ない日々に落ち込む自分がいた。そうして、気が付けば、上司を殴っていた。

特に目立ってむかつくこともない。

いつも通り、仕事を処理し、遅れていた仕事のことで頭を叩かれていた時に、何かが切れた音が聞こえた。

気が付けば、上司は前で倒れており、自分の鼻を抑えていた。鮮血が見る間に上司の指の隙間から流れてくる様を見て、俺はやってしまったと理解した。

幸い、上司もそれを問題にはしなかったし、会社もそれを見なかったことにした。理由は分からないが、俺はなんの罪もかぶらず、会社を後にした。

そうして、自分の精神に異常をきたしていることが分かった。

躁鬱とでも言うのか、もう医者が自分にどういう病名を当てがったのかすら覚えていない。しかし、なにやら面倒な名前を宣うものだから、こいつも殴ってやろうかと思ったほどである。

そうして、すべてどうでもよくなり、実家に帰り、また新たに就活をして、また働く日々が帰ってくる。

それがまた憂鬱で、煙草の本数が急激に増えたのはその所為だろう。

いや、今まで吸う時間がなかっただけかもしれない。

 

 

 

嫌だ嫌だと駄々をこねるような年齢でもなく、俺はまた就活をし、なんとか受かった会社に入った。

面接官の男は真面目そうなやつで、一瞬、昔の高校の時の友人を思い出し、嫌な気分になったのを覚えている。

そうして、何の希望も夢もなく会社に入り、また同じように仕事をしていた。今度の会社はブラックではなかったが、俺にやる気なんてものは微塵もなく、ただ毎日を死んだように生きていた。

家と会社を行き来するだけの日々。それに嫌気が指そうが、生きるために仕方なく働いていた。

電車に揺られて、仕事に揺られて、頭が揺られそうになれば、薬かタバコで誤魔化す日々だ。

両親の勧めで実家にいたが、特に話をすることもなく、毎日、無意味な日々であった。金を使う趣味もなく、酒代とたばこ代に消えていった。そうして、毎日を過ごしていた時、俺は彼女に出会う。

俺がその会社に入って一年が経ったある日。

新人がうちの部署に入ってきた。

その子の名は宮藤 桔梗という。

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

イケメン御曹司、地味子へのストーカー始めました 〜マイナス余命1日〜

和泉杏咲
恋愛
表紙イラストは「帳カオル」様に描いていただきました……!眼福です(´ω`) https://twitter.com/tobari_kaoru ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 私は間も無く死ぬ。だから、彼に別れを告げたいのだ。それなのに…… なぜ、私だけがこんな目に遭うのか。 なぜ、私だけにこんなに執着するのか。 私は間も無く死んでしまう。 どうか、私のことは忘れて……。 だから私は、あえて言うの。 バイバイって。 死を覚悟した少女と、彼女を一途(?)に追いかけた少年の追いかけっこの終わりの始まりのお話。 <登場人物> 矢部雪穂:ガリ勉してエリート中学校に入学した努力少女。小説家志望 悠木 清:雪穂のクラスメイト。金持ち&ギフテッドと呼ばれるほどの天才奇人イケメン御曹司 山田:清に仕えるスーパー執事

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...