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第2章 シャクンタラー対ファウスト
第17話 宮姉妹について②
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北条さんと話しているうちに南と宮ちゃんは店から出てくる。
そして、そこから三時間ほど彼女らの買い物に付き合った。
ロリと美女とイケメンと俺。何とも微妙な組み合わせである。まあ、それなりに充実した買い物ではあった。
俺も欲しかった新刊を買えたことで、デパートに来た意味を見出せたわけだ。
それに北条さんと話したことで、頭の中で引っかかっていたものが少し解消された気がする。
その答えは出ていないが、一歩近づいた感覚があった。
それは知れば知るほど荒唐無稽な真実へと変わっていくのかも知れない。
感慨にふけっている中、ふと皆の方を向けば、南は隙を見てはすぐにロリッ子にちょっかいをかけて、北条さんに頭をはたかれていた。
「そういえば、南さんはなんで私に彼氏がいると思ったんですか?」
今日一日いたからか、宮ちゃんはようやく南に慣れてきたようである。
普通に自分から南に話しかける。
その時、彼の服の裾を引っ張っている宮ちゃんの仕草を見た南は気持ちの悪い笑みで鼻息も荒くなっていた。
「ああ。それはこのあいだ話題に上がっていた身体能力向上の異能を持っている奴いたでしょ。あいつが宮ちゃんを病院で見たって言ってて。なんか不良の彼女だったとか宣ってたんだ。とんでもない熟女好きだ。宮ちゃんがそんな不良なんかと付き合うわけないよな。大丈夫。今度会ったら、そんなほら吹きはこの南お兄ちゃんが殴っておくから。」
「いえ。暴力は駄目ですよ。でも…………」
「ん?」
「いえ。多分それってお姉ちゃんかもしれません。」
「お姉さん?」
「はい。私には双子の姉がいるんです。」
「そうよ。容姿もほぼ瓜二つのお姉ちゃんね。しかもその子、ファウストにいるの。」
北条さんが口下手な宮ちゃんの話を補足する。
「え?なんでファウストなんかに?」
「はい。…………それは私との仲たがいが原因なんです。」
宮ちゃんはそう言うと顔を下げてふさぎ込んでしまう。一体何があってそんなことになるのか甚だ疑問であるが、今の宮ちゃんの様子を見るにその原因まで聞くことは憚られる。
「え。何が原因でそんな仲たがいしたの?」
え?
普通、なんかそんな姉妹のナイーブな部分は聞けなくないか?南はアホな顔ですぐに宮ちゃんに質問する。
ちょっとは気を遣えよと南を見るも、すぐに宮ちゃんは口を開いた。
「いえ、本当に些細なことでした。」
一旦、下を見つめて暗い表情をしていたくせにすぐに顔を上げて南に話し出す。
こいつらなんなんだろう。
本当は聞いてほしかったのか?
もういい。早く話せと彼女を見ると、視界に入った北条さんは馬鹿らしいと言った表情で空をぽけーっと見ている。
この人、本当に学校にいるときとは別人のようだなと思いながら宮ちゃんの話に耳を傾ける。
「ある日、私が学校から帰ってくると、お姉ちゃんが冷蔵庫の前にいたんです。」
「うん…………。」
「それである物を手に持っていました。」
「なんだ?もしかして…………。なんかヤバイものとか?」
「いえ。私の名前がマジックで書かれた瓶でした。私のプリンです。私が私のために買ってきた私のプリンです。しかし、あの姉はそのプリンを満面の笑みで食べてました。しかも途中から飽きたのか「亜里沙。プリンに醤油をかけるとウニの味になるんだよ。…………オエッまず。」と吐き捨てまだ中身の入ったその瓶をゴミ箱に投げ入れて自室に帰っていきました。瓶は不燃でごみも区別しなくてはいけません。それに…………いつもバカなことばかりして…………それに」
宮ちゃんは姉に対する恨みつらみを呪詛のように呟いており、俺たちはその様を戦々恐々と眺めるしかできない。
姉の真似をする宮ちゃんの表情はいつもの天使のような笑顔とはかけ離れた悪魔憑きのような醜い顰め面で、俺も南もその顔に引いてしまう。
それでいて、しゃがれた老婆のような声でオエッと声を漏らし、思い出しても苛立つのか目も鋭くとがっていた。
昔見た映画で謎の動物に夜12時以降食べ物を与えるとその動物は豹変するという内容のものがあった。まさにそのように彼女のこの表情の変化に俺はたじろいで、目を背け隣の北条さんと同じように空を見ていた。
二人の高校生はアホな顔で空を眺めていた。
南はその表情を見ても、未だ宮ちゃんの話に付き合っている。
それにしても、本当に些細な問題だった。
プリンくらい、もう一個買って来いよと今言えば、豹変した彼女に何をされるかわからないので下手なことは言うまい。
「えっと…………落ち着いて宮ちゃん。プリンならお兄さんが買ってきてあげるから。」
南は苦笑いで宮ちゃんのご機嫌を取ろうと、宮ちゃんをあやす。
「はい?何を言ってるんですか?そのプリンは一つだけです。私が二駅も離れたデパートに買い行ったのです。それをあの姉は吐き捨てて、知らん顔で自室でゲームをしていました。
これが許せますか?
私は即座に姉のゲームのコードを引き抜き、彼女の口に吐き捨てたプリンをぶち込んでやりました。」
「え?…………宮ちゃん?」
「なんですか?文句ありますか?そのプリンは私のプリンです。どうしようと私の勝手ですよ。」
「あ。そうですね。はい。分かります。」
「南さんならそう言ってくれると信じてました。」
宮ちゃんはまた天使のような笑顔で南の服の裾を掴む。南はそれだけで先ほどの彼女の姿を忘れたようにエヘラエへラと下卑た笑みを見せている。
「あの。北条さん。」
俺は彼らに関わりたくなくて、北条さんに話しかける。
「なに?」
「その宮ちゃんのお姉ちゃんって異能者だよね?」
「そうね。アポートの異能力を使うのよ。ものすごく強いわよ。それに亜里沙はあんな感じでお姉さんと会うとブチ切れて暴走するから今のところ関わらないようにしているわ。特にその姉もなにか悪さをしているわけでもないし。放置している異能者ね。」
「そうなんだ。」
アポートと言えば、任意で好きな物を別の場所から取り寄せたり、逆に離れた場所に送ったりと便利な異能である。
たしかに迂闊に近づくことは出来ない異能者である。
宮ちゃんと南は話し終えたのか、今日はその場で解散となった。
しかし、南は帰り際も終始、浮かない顔をしていた。
そして、そこから三時間ほど彼女らの買い物に付き合った。
ロリと美女とイケメンと俺。何とも微妙な組み合わせである。まあ、それなりに充実した買い物ではあった。
俺も欲しかった新刊を買えたことで、デパートに来た意味を見出せたわけだ。
それに北条さんと話したことで、頭の中で引っかかっていたものが少し解消された気がする。
その答えは出ていないが、一歩近づいた感覚があった。
それは知れば知るほど荒唐無稽な真実へと変わっていくのかも知れない。
感慨にふけっている中、ふと皆の方を向けば、南は隙を見てはすぐにロリッ子にちょっかいをかけて、北条さんに頭をはたかれていた。
「そういえば、南さんはなんで私に彼氏がいると思ったんですか?」
今日一日いたからか、宮ちゃんはようやく南に慣れてきたようである。
普通に自分から南に話しかける。
その時、彼の服の裾を引っ張っている宮ちゃんの仕草を見た南は気持ちの悪い笑みで鼻息も荒くなっていた。
「ああ。それはこのあいだ話題に上がっていた身体能力向上の異能を持っている奴いたでしょ。あいつが宮ちゃんを病院で見たって言ってて。なんか不良の彼女だったとか宣ってたんだ。とんでもない熟女好きだ。宮ちゃんがそんな不良なんかと付き合うわけないよな。大丈夫。今度会ったら、そんなほら吹きはこの南お兄ちゃんが殴っておくから。」
「いえ。暴力は駄目ですよ。でも…………」
「ん?」
「いえ。多分それってお姉ちゃんかもしれません。」
「お姉さん?」
「はい。私には双子の姉がいるんです。」
「そうよ。容姿もほぼ瓜二つのお姉ちゃんね。しかもその子、ファウストにいるの。」
北条さんが口下手な宮ちゃんの話を補足する。
「え?なんでファウストなんかに?」
「はい。…………それは私との仲たがいが原因なんです。」
宮ちゃんはそう言うと顔を下げてふさぎ込んでしまう。一体何があってそんなことになるのか甚だ疑問であるが、今の宮ちゃんの様子を見るにその原因まで聞くことは憚られる。
「え。何が原因でそんな仲たがいしたの?」
え?
普通、なんかそんな姉妹のナイーブな部分は聞けなくないか?南はアホな顔ですぐに宮ちゃんに質問する。
ちょっとは気を遣えよと南を見るも、すぐに宮ちゃんは口を開いた。
「いえ、本当に些細なことでした。」
一旦、下を見つめて暗い表情をしていたくせにすぐに顔を上げて南に話し出す。
こいつらなんなんだろう。
本当は聞いてほしかったのか?
もういい。早く話せと彼女を見ると、視界に入った北条さんは馬鹿らしいと言った表情で空をぽけーっと見ている。
この人、本当に学校にいるときとは別人のようだなと思いながら宮ちゃんの話に耳を傾ける。
「ある日、私が学校から帰ってくると、お姉ちゃんが冷蔵庫の前にいたんです。」
「うん…………。」
「それである物を手に持っていました。」
「なんだ?もしかして…………。なんかヤバイものとか?」
「いえ。私の名前がマジックで書かれた瓶でした。私のプリンです。私が私のために買ってきた私のプリンです。しかし、あの姉はそのプリンを満面の笑みで食べてました。しかも途中から飽きたのか「亜里沙。プリンに醤油をかけるとウニの味になるんだよ。…………オエッまず。」と吐き捨てまだ中身の入ったその瓶をゴミ箱に投げ入れて自室に帰っていきました。瓶は不燃でごみも区別しなくてはいけません。それに…………いつもバカなことばかりして…………それに」
宮ちゃんは姉に対する恨みつらみを呪詛のように呟いており、俺たちはその様を戦々恐々と眺めるしかできない。
姉の真似をする宮ちゃんの表情はいつもの天使のような笑顔とはかけ離れた悪魔憑きのような醜い顰め面で、俺も南もその顔に引いてしまう。
それでいて、しゃがれた老婆のような声でオエッと声を漏らし、思い出しても苛立つのか目も鋭くとがっていた。
昔見た映画で謎の動物に夜12時以降食べ物を与えるとその動物は豹変するという内容のものがあった。まさにそのように彼女のこの表情の変化に俺はたじろいで、目を背け隣の北条さんと同じように空を見ていた。
二人の高校生はアホな顔で空を眺めていた。
南はその表情を見ても、未だ宮ちゃんの話に付き合っている。
それにしても、本当に些細な問題だった。
プリンくらい、もう一個買って来いよと今言えば、豹変した彼女に何をされるかわからないので下手なことは言うまい。
「えっと…………落ち着いて宮ちゃん。プリンならお兄さんが買ってきてあげるから。」
南は苦笑いで宮ちゃんのご機嫌を取ろうと、宮ちゃんをあやす。
「はい?何を言ってるんですか?そのプリンは一つだけです。私が二駅も離れたデパートに買い行ったのです。それをあの姉は吐き捨てて、知らん顔で自室でゲームをしていました。
これが許せますか?
私は即座に姉のゲームのコードを引き抜き、彼女の口に吐き捨てたプリンをぶち込んでやりました。」
「え?…………宮ちゃん?」
「なんですか?文句ありますか?そのプリンは私のプリンです。どうしようと私の勝手ですよ。」
「あ。そうですね。はい。分かります。」
「南さんならそう言ってくれると信じてました。」
宮ちゃんはまた天使のような笑顔で南の服の裾を掴む。南はそれだけで先ほどの彼女の姿を忘れたようにエヘラエへラと下卑た笑みを見せている。
「あの。北条さん。」
俺は彼らに関わりたくなくて、北条さんに話しかける。
「なに?」
「その宮ちゃんのお姉ちゃんって異能者だよね?」
「そうね。アポートの異能力を使うのよ。ものすごく強いわよ。それに亜里沙はあんな感じでお姉さんと会うとブチ切れて暴走するから今のところ関わらないようにしているわ。特にその姉もなにか悪さをしているわけでもないし。放置している異能者ね。」
「そうなんだ。」
アポートと言えば、任意で好きな物を別の場所から取り寄せたり、逆に離れた場所に送ったりと便利な異能である。
たしかに迂闊に近づくことは出来ない異能者である。
宮ちゃんと南は話し終えたのか、今日はその場で解散となった。
しかし、南は帰り際も終始、浮かない顔をしていた。
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