ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

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第2章 シャクンタラー対ファウスト

第35話 異能者の蠢き①

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彼女の異能は彼女の精神が安定していれば、暴発しない。

彼女の恐怖心の表れだ。彼女の猜疑心の表れだ。彼女の優しい心の表れだ。

そう思っていた。

 

 

 

「お。南。今日はどうする?本部会議だが。」

「え?ああ。今日はちょっと用事があるから…………まぁ本部に行くのも無理だな。」

放課後、今日も彼女のもとに行こうと考えていると、西京に声をかけられた。

最近は、彼女の異能が暴発することもなくなって、それにより俺の精神も落ち着ていていた。

左腕の傷跡も徐々に回復している。

そのため、西京が俺を問い詰めることもなく、普通に世間話をしたりしているが、彼が俺のことを気にかけていることは彼の態度を見ていれば分かる。

これではあの時と逆だなと考えてしまう。

そう。あの香が俺に見せた記憶と。

西京がなんであんなフウに壊れて、橋から身を投げたのかは分からない。彼の最後の笑顔の意味も分からない。

それでも、何かがあったことだけは分かる。俺の友人の精神を破壊してしまうようなことが起こったことは分かるんだ。

「そっか…………そういえば南、なんか俺に隠してないか?」

「なにかってなんだ?」

西京は少し意地の悪い顔でこちらに問うてくる。それは俺に何か変化があったことを確信しながらも聞いてるようだ。なんだかんだで彼も俺のことを良く見ているのかもしれない。それは俺が彼を理解しているように。

「なんだよ?何もねぇよ。」

俺は照れ隠しにそう吐き捨てる。しかし、彼は未だ俺を怪しんでおり、露骨な笑みを浮かべていた。

「毎日西山さんの処に行ってるんだろ?それでいて、最近お前が他の女子と遊んでいるところも見てないしな。怪しいな。」

「ん?普通だろ?俺が彼女の異能を担当しているわけだしな。」

「それだけか?」

「まぁ。それだけだ。」

「神に誓って?」

「無神論者がこういうときだけ、神を持ってくるなよ。そうだよ。」

「ふーん。」

彼は含みのある笑みで会話を終わらせる。

「お前。そういうところ東に似てきたな。そういう聞くだけ聞いといて、勝手に納得するところだ。」

「うるせぇよ。」

俺と西京はいつも通り下らない会話をしながら、昇降口を目指す。

「今日も西山さんのところか?」

「まぁそんなところだ。」

「彼女の異能はどうなんだ?安定してきたか?」

「まぁどうだろう。そうだな。安定はしてきた。」

「そうか…………。ならよかった。そういえば、本部でも議題に上がっていたが、最近ファウストの異能者が一人、隣町で暴れているらしい。気を付けろよ。」

「そうなのか?…………まぁ、わかった。気をつけるよ。」

「あ、俺はこれから東のところに行くから。」

「おう。」

そこで西京と俺は別れる。彼はこうして東のところに行くが、彼らの関係は今はどうなのだろう。なにか変わったのだろうか。

それを聞くことは出来ても、その問いが彼らの関係に何かきっかけを与えられるなら嬉しいが、逆に変な壁になるかもしれない。そう思うと、下手に彼らのことについて言及することは憚られる。

しかし、俺は逃げることはやめたんだ。

もう怖いものはなくなった気がした。

今までは何かを失う恐怖をずっと背負っていたが、今は一人じゃないから。

これが彼らに変化を与えられるならと俺は一歩踏み込む。

「西京!」

「ん?どうした?」

「俺、西山さんと付き合うことにした。」

「……………………そうか。おめでとう。南にそういう人が出来たのは素直に嬉しいよ。また今度、時間があったら紹介してくれ。」

「おう。」

西京は本当に嬉しそうにこちらに笑いかけると、そのまま同好会の部室へと向かった。

学校を出る頃にはもう夕陽が沈みかけており、下校している生徒もまばらに見える。早く行かなくてはと俺は急いで学校を後にした。


 

 

 
彼女の家に着くと、ちょうど出かけるところだったのか玄関前で香の母が迎えてくれた。

「あら、和樹くん。こんにちは。香なら、いまさっき起きたところよ。もう部屋に行っても大丈夫じゃないかしら?」

「こんにちは。はい。お邪魔します。」

俺が彼女の部屋のドアを破壊したせいで、玄関からそのまま彼女の部屋まで隔てるものがないため、俺はこうして彼女の母に彼女の状態を聞かなくてはならない。

もし何かの間違いで全裸の彼女を見ようものなら、発狂した彼女がどんな異能を打ち出してくるかわからない。

俺は挨拶も終わると早々に香のもとに行こうと彼女の部屋がある二階に行くため階段に足をかけたところで、彼女の母に声をかけられる。

「あ。和樹くん。」

「はい?」

「いえ。ありがとう。和樹くんのおかげで香も部屋から出てきてくれたし、それに最近、ちょっと明るくなったの。だからありがとう。」

「そんな…………礼を言うのは僕の方ですよ。僕も彼女のおかげで毎日楽しいですから。それに…………。」

「お母さん!なに話してるの!?和樹くん来てるなら言ってよ。」

ちょうど部屋から出てきた香が顔を出す。もうちゃんと服を着ており、外に行く準備は万端のようだ。

その服は彼女の好きなブランドの服だった。この間、二人で買いに行ったのだ。

うん。よく似合っている。淡い水色のシャツに、白いボトムス。それに腰まで伸びていた髪も美容院で切ってもらったので、今はちょうどショートボブくらいになっており、前髪も少し眉にかかるくらいになっていた。そこから彼女の澄んだ瞳が見えて、俺は最近、いつも彼女の顔を直視すると顔が赤くなってしまう。なんだが嬉しくて、懐かしさと相まって泣きそうになるくらいだ。

「いや。ちょっと話してただけだよ。うん。今日も綺麗だね。」

「…………えっとそういうこと。母の前で言わないでください。」

彼女は顔を熟れたトマトのように真っ赤にして、こちらを睨む。その様子も可愛いなと眺めていると、彼女は目線を逸らして俯いてしまう。

「母?いつもはママかお母さんなのに。香も大人になってしまったのね。」

香の母が嬉しそうに茶々を入れる。

「お母さん!!ちょっと静かにしてて!」

俺は別に気にしないが、親公認のカップルというものが香は恥ずかしいようだ。その恥ずかしがっているところも俺は愛くるしくて好きだからこういうときは何も言わずに見守るのみだ。

「ふふ。じゃあ。香。私は買い物にいくから。戸締りお願いね。」

「うん。私もこれから出かけるから。えっと夜までには帰ってくるから。」

そうして、俺たちは香の母を見送って、駅前に遊びにいくことにした。

 

 

 

「そういえば、和樹くん。西京さんとはいつもどんな会話をしてるんですか?」

二人で歩いていると、香がふと気になったのか話を振ってきた。

「ん?ああ。大抵、アニメの話とかゲームか、最近の同人誌の話だな。」

「同人誌?」

「ん?まぁ。なんだ…………えっと大人の哲学書みたいなもんだ。」

「そうなんですか。むつかしそうな話もするんですね。」

「そうだね~。香はどう?友人とはどんな話してたの?」

「えっと…………そうですね。すいません。あんまり覚えてなくて。」

「ごめん。話したくなかった?」

少し彼女の顔に翳りが見えたので、俺は心配になり、ついその本心を聞いてしまう。

「いえ。…………本当に覚えてないんです。でも、最近、思うようになったんです。私、一回、田村さんに謝りに行きたいなって。」

「そっか。でも…………」

「分かってます。そんなこと自己満足に過ぎないって。彼女ももしかしたら私になんて会いたくないって思ってるかもしれません。でも…………私は会ってもう一度話してみたいんです。」

「そっか。じゃあ。俺は応援する。その時は俺も付いて行くよ。家の前までだけど。」

「はい。ありがとうございます。」

その後、俺は彼女とこの間、見れなかった映画をみて、また喫茶店に行く。

そんなデートコースは今まで何度もこなしてきたが、今日のデートも昨日のデートもいつもとは違う。
いままでのデートは逆に何を話したかとか、どこに行ったかを覚えていた。
どちらかというと、その行った女性のことよりも場所であったり、トークテーマを覚えて使い回していたのだ。
しかし、彼女とのデート後はいつも家に帰った時、思い出すのは彼女の笑顔や、彼女が楽しそうに話していたことだった。
それを思い返すと嬉しくて、暖かい日差しが心を照らしたように喜びが溢れて、幸せを噛み締めるように思い出をなぞってしまう。

終始、彼女の笑顔に癒される。
それは、子供の頃に見た笑顔だったからかもしれない。

彼女も同じように俺とのデートを楽しんでくれていたら、それは本当に嬉しいことだ。

「そういえば、香は休んでるとき何をしてたの?」

「んーと。ネットを見たり、アニメも見てました。でも大半は寝てましたね。この異能では頭も痛くなりますし。」

「そっか。頭痛薬とかでも痛みがでるの?」

「そうですね。市販薬では効き目は期待できませんね。」

「ならもっと強い奴か。そういえば、友達が一度飲んだら頭がぶっ飛ぶヤバイ薬を見つけたとはしゃいでいたなぁ。」

「でも私がその薬でぶっ飛んだ状態で、和樹くんをお出迎えしたら和樹君引きませんか?」

彼女は苦笑いしながらそんなことを言うので、俺はもっと強い言葉で投げ倒す。

「いや。そんな君も愛するよ。」

「……………………は、はい。私も好きです。」

彼女はキュッと小さく悲鳴を上げると、俯いていた。耳のてっぺんが赤くなっているのは夕日の所為ではない。

「そんなフウに甘い言葉ですぐに動揺していては、俺も不安だよ。」

「でも、これは和樹君に対してだけです。」

「…………そ。そっか。」

俺は彼女の目が見れなくなって、恥ずかしくて目線を逸らした。そして、赤くなった自身の頬を冷ますべく、少し都会のビルの合間に見える空に目をやった。いや反則だ。その上目遣いでその台詞は心に効くんだ。

俺たちはもう距離を空けて歩くこともなくなった。それは香が俺に心を開いてくれている証拠だ。

だから、手を繋ぐのも簡単だ。
しかし、まだ慣れないのか彼女は「汗をかいちゃうので」と離そうとするのを俺は更に強く握りしめた。
彼女は一瞬驚きながらもしょうがないなと少し笑って握り返す。

そこには馬鹿なカップルが一組、幸せを噛み締めていた。

 
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