ワールドメイク 〜チート異能者の最強くん〜

プーヤン

文字の大きさ
45 / 54
第3章 ワールドメイク

第44話 最後の戦い①

しおりを挟む
俺は腑に落ちないといった表情の南と別れ、文学同好会の部室の前にいた。

東は大体、放課後はいつもこの教室で本を読んでいることが多い。彼女は誰にも邪魔されず本を読んでいさえいれば幸せだと思っていた。

だが、この現状を考えるとそうではなかったということだ。

しかし、彼女のその胸の内を聞こうともしてこなかったことから、今この世界が成り立っているなら、俺はとんだ計算違いをしていたことになる。

彼女のことを分かっていると思い込んでいたにすぎない。本当は何一つ理解していなかったのかもしれない。

そう思うと、目の前のドアは酷く重く感じられた。

彼女にすべてを聞くことの意味を軽く感じていたながら、目の前にその壁が迫りくると、途端に逃げ腰になる。自分の意思の弱さを痛感するのだ。

しかし、もうここまできては駄目だ。南が苦しみ、他にも俺が知らないだけで傷付いた人が大勢いるだろう。この世界はもう駄目だ。それを彼女も理解しているからこそ、時を急いているのかもしれない。

そうして、俺は部室のドアを開いた。

しかし、そこには彼女はいなかった。

かわりに亜里沙ちゃんがその部室の椅子でくつろいでいた。澄んだ顔でスマホゲームを楽しんでいる。

「あれ?俺、部室間違えた?」

「え?あ!西京さん!探してましたよ!!」

亜里沙ちゃんはこちらに気がつくと、何やら己の本分を思い出したように、こちらに近寄る。

そして、すぐにスマホゲームの画面を見ると、今、目を離したことでゲームに負けたのか、悔しそうな顔で事の次第を俺に説明する。

「西京さん。大変です。西京さんのお友達のえっと…………東 彼方さん。ファウストに攫われました。」

「は?どういう意味だ?」

「なんでも植木さんが言うには、今日の午後17時半に何者かから連絡を受けたそうです。市立北山高校の東 彼方を預かったと。なんでその東女子を攫ったのかはわかりませんが、それをシャクンタラーのメンバーである西京 肇。南 和樹、両名に伝えろと。」

「…………わかった。とりあえず、シャクンタラーの本部に一度行ったほうがいいか?」

「そうですね。あの人に連絡します。多分、もう南さんは着いてると思いますが。」

「わかった。」

その後、亜里沙ちゃんが連絡し、それを受けた沙代里の異能により、俺はシャクンタラーの本部に瞬間移動された。

あの人って沙代里のことだったのか。この子徹底しているなぁと思いながらも、着いて早々、植木が着々と練っていく東奪還作戦について聞いていた。

それは平たく言えば、これからファウストの本部に乗り込んで、東を奪還するというだけの内容だった。

北条に亜里沙ちゃん、そしてシャクンタラーのレベルAである平上 佳乃(ひらうえ よしの)と名乗る女子も来てくれるそうだ。彼女は金髪にパーカーを羽織り、ジーンズの下からスポーツシューズを履いており、みたまんまスケボー選手のようないで立ちでいた。ストリートスタイルとでもいうのか。

彼女は興味なさそうに植木の説明を聞いていた。

「そうなんだ。そのお嬢さんが連れさられて、私たちはその子を救出すればいいのか。漫画みたいな話だね。エモい。」

と脱力感の籠る声で漏らした。

「佳乃さん…………よろしく。」

北条さんは気を遣ってなのか、彼女に声をかける。

「はい。よろしく。美紀ちゃんと話すのなんて何カ月ぶりだろう。エモいね。」

この女、なんだなんだ。語尾にそのエモいって言葉を付けないと話せないのか?いちいち感傷に浸っている彼女に何も言うことはなく、俺はただ傍観していた。

植木の作戦は本当に小学生が考えたような幼稚な作戦であるが、沙代里がファウスト内部の構造を知っているであろうことからこの作戦の成功確率も高いのではないだろうか。

まぁ。失敗しても俺単体で乗り込んで、全員気絶させればいいのだが。

協力してくれようとしている人がこんなにいるのだ。止めることはない。一緒に行ってもらおう。

と、その時、南が声をかけてくる。

「西京。大丈夫か?」

「あ?何がだ?」

「いや。東が危険な目に合っているんだぞ?平気か?いつもならもっと取り乱しているだろ?」

「ああ。別に問題ない。これはある種、シナリオ通りなんだ。まぁどこまでその通りに進むのかわからないが。」

「そうか。…………とにかく早く助け出そう。」

「ああ。そのつもりだ。」

そうして、俺と南。北条さんに亜里沙ちゃん、沙代里、平上の六人でファウスト本部に向かう。
他のメンバーはファウストとの抗争でいっぱいいっぱいであり手の空いている者はおらず、植木も司令としての業務があるとかなんとかで本部に残るみたいだ。俺は彼がなにか仕事しているところを見たことはないが、まぁ忙しいというからにはそうなのだろう。
そうこうしている内に俺と南以外の四人が一箇所に集まっていた。
そこに俺たちも合流する。

「じゃ。飛ぶねぇ。」

「は?」

沙代里がそう言うと、一気に視界が暗転し、シャクンタラー本部からファウストのどこかの部屋に飛ばされていた。

え?普通。こういう最終決戦っていろいろな知略を巡らせたり、情報戦争の末、内部に侵入するんじゃないのか?
こうも簡単に侵入して大丈夫なのか?
勿論、他のメンバーも驚いていた。

未だ、視界が暗いが、沙代里が「ああ。ごめん。ここ倉庫なのぉ。」とすぐさま蛍光灯の電気をつけたため、急に光が目に入ってしまい、眩しく、何も見えない。

おお。やっと見えてきたと視界が回復するころには、目の前に北条さんの顔があった。その顔は何故か酷く歪んでおり、今にも吐きそうな顔をしている。

どうしたのだろうと、心配になって彼女を見ていると、南の間抜けな声が聞こえた。

「おお。ここはファウストの瀬川の部屋だろ?どうだ沙代里正解か?」

「おお!南くん凄い~。正解~!」

いえーいとハイタッチしている二人はさておき、亜里沙ちゃんは心配そうに北条さんをいたわり、平上は「エモい」とアホの子のように同じ言葉を吐いた。

そう、この部屋はあのシャクンタラー本部の隠し部屋と同じく北条さんの写真が壁一面にところ狭しと貼られていたのだ。

しかしながらこの部屋を沙代里が選んだことも頷ける。こんな気持ちの悪い部屋ならば普通の人は近づかないだろうからな。

「南。」

「ああ。分かってるよ。ほらよ!!」

前の部屋と同じく、南の異能ですべての写真をかき集めて、処分した。

その様子を見て、安心したのか脱力した様子の北条さんは、自分のカバンからペットボトルを取り出し、中の水を飲もうとする。
しかし、その水は底に引っ付き離れない。

水が重力に反するように、ペットボトル内で浮かび上がり、生き物のようにくねくねと不自然な動きを見せたのだ。

異変に気が付いた北条さんはすかさず、そのペットボトルを床にたたきつけた。

その時、その部屋のドアの向こうから声が聞こえる。
野太い男の声だった。

「おいおい。もう侵入者が来てるじゃねぇか。どうなってるんだ?」

その声とともにドアが乱暴に開かれた。

そこには五人ほどの男たちが待ち構えており、こちらを睥睨していた。
その中でも目立っている青髪の強面男が
沙代里を確認すると、ニヤリと笑みを浮かべた。

「おいおい。裏切り者の沙代里もいるじゃねぇか。」

沙代里はその男の顔を見ると、嬉しそうに騒ぎだす。

「あ。たっくんだ。この人、水使いのたっくん。レベルSの露出狂なのぉ。」

「ん?それは異能のレベルがSなのか?それとも露出度がSなのか?」

すかさず、南が沙代里に突っ込む。

「えっと両方ぅ?」

「ふざけんな!!くそ女が!!いいぜ。ここで殺してやろう!!」

「やりますか!?橘幹部!俺、そこの足の長い美女貰いますね!!嘗め回してぇ!!ひやっはー!!」

男どもは口々に品のない言葉を吐き散らし、たっくんを先頭にこちらに襲い掛かってくる。

「ちょっと黙ってて、今南くんと話してるから。」

そう言うと、沙代里は面倒そうに彼らに手を伸ばす。そして指を鳴らすと次の瞬間にはたっくん率いる、ファウストの男たちはいなくなっていた。

五人もいた男たちは一瞬でこの部屋から消え去ったのだ。

「えっとね。それで~たっくんの後ろの五郎はすごい足好きなのぉ。多分、北条ちゃんの足が好みぃ!」

「おお。それは俺と気が合いそうだな。」

「そうなのぉ~?南くんキモイ。」

「うわ。それ女子から言われると傷つくわ。泣きそう。」

「あ~嘘嘘。気持ち悪い。」

「それの方がダメだわ。でもキモッのほうが傷つくからまだ大丈夫だ。」

「そうなのぉ~?うちの彼氏は喜ぶんだけどなぁ。」

「それは君の彼氏が変態なんだよ。」

「そっかぁ。…………あれ?たっくん達みんな飛ばしちゃった?」

そこで沙代里はやっと南からドアの方に顔を向けて、現状を把握する。

「そうみたいだな。」

「そっかぁ。じゃあ、とりあえず行こっか。多分この最上階にその東ちゃん?だっけ?その子いると思うしぃ。」

快活に笑う彼女を見て、他の四人必要なかったなと思った。正直、この子一人いれば、この本部を空き巣状態に出来るだろうと。
その荒技を見て皆が感嘆の声を漏らす中、亜里沙ちゃんだけは一人、わなわなと体を震わせて、その力を恐れるような強張った表情でいた。

たしかに、彼らが何処に飛ばされたのか想像するも恐ろしい。
俺は沙代里の指示通りついて行くことにした。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

あの日、幼稚園児を助けたけど、歳の差があり過ぎてその子が俺の運命の人になるなんて気付くはずがない。

NOV
恋愛
俺の名前は鎌田亮二、18歳の普通の高校3年生だ。 中学1年の夏休みに俺は小さい頃から片思いをしている幼馴染や友人達と遊園地に遊びに来ていた。 しかし俺の目の前で大きなぬいぐるみを持った女の子が泣いていたので俺は迷子だと思いその子に声をかける。そして流れで俺は女の子の手を引きながら案内所まで連れて行く事になった。 助けた女の子の名前は『カナちゃん』といって、とても可愛らしい女の子だ。 無事に両親にカナちゃんを引き合わす事ができた俺は安心して友人達の所へ戻ろうとしたが、別れ間際にカナちゃんが俺の太ももに抱き着いてきた。そしてカナちゃんは大切なぬいぐるみを俺にくれたんだ。 だから俺もお返しに小学生の頃からリュックにつけている小さなペンギンのぬいぐるみを外してカナちゃんに手渡した。 この時、お互いの名前を忘れないようにぬいぐるみの呼び名を『カナちゃん』『りょうくん』と呼ぶ約束をして別れるのだった。 この時の俺はカナちゃんとはたまたま出会い、そしてたまたま助けただけで、もう二度とカナちゃんと会う事は無いだろうと思っていたんだ。だから当然、カナちゃんの事を運命の人だなんて思うはずもない。それにカナちゃんの初恋の相手が俺でずっと想ってくれていたなんて考えたことも無かった…… 7歳差の恋、共に大人へと成長していく二人に奇跡は起こるのか? NOVがおおくりする『タイムリープ&純愛作品第三弾(三部作完結編)』今ここに感動のラブストーリーが始まる。 ※この作品だけを読まれても普通に面白いです。 関連小説【初恋の先生と結婚する為に幼稚園児からやり直すことになった俺】     【幼馴染の彼に好きって伝える為、幼稚園児からやり直す私】

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

置き去りにされた転生シンママはご落胤を秘かに育てるも、モトサヤはご容赦のほどを 

青の雀
恋愛
シンママから玉の輿婚へ 学生時代から付き合っていた王太子のレオンハルト・バルセロナ殿下に、ある日突然、旅先で置き去りにされてしまう。 お忍び旅行で来ていたので、誰も二人の居場所を知らなく、両親のどちらかが亡くなった時にしか発動しないはずの「血の呪縛」魔法を使われた。 お腹には、殿下との子供を宿しているというのに、政略結婚をするため、バレンシア・セレナーデ公爵令嬢が邪魔になったという理由だけで、あっけなく捨てられてしまったのだ。 レオンハルトは当初、バレンシアを置き去りにする意図はなく、すぐに戻ってくるつもりでいた。 でも、王都に戻ったレオンハルトは、そのまま結婚式を挙げさせられることになる。 お相手は隣国の王女アレキサンドラ。 アレキサンドラとレオンハルトは、形式の上だけの夫婦となるが、レオンハルトには心の妻であるバレンシアがいるので、指1本アレキサンドラに触れることはない。 バレンシアガ置き去りにされて、2年が経った頃、白い結婚に不満をあらわにしたアレキサンドラは、ついに、バレンシアとその王子の存在に気付き、ご落胤である王子を手に入れようと画策するが、どれも失敗に終わってしまう。 バレンシアは、前世、京都の餅菓子屋の一人娘として、シンママをしながら子供を育てた経験があり、今世もパティシエとしての腕を生かし、パンに製菓を売り歩く行商になり、王子を育てていく。 せっかくなので、家庭でできる餅菓子レシピを載せることにしました

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

フッてくれてありがとう

nanahi
恋愛
「子どもができたんだ」 ある冬の25日、突然、彼が私に告げた。 「誰の」 私の短い問いにあなたは、しばらく無言だった。 でも私は知っている。 大学生時代の元カノだ。 「じゃあ。元気で」 彼からは謝罪の一言さえなかった。 下を向き、私はひたすら涙を流した。 それから二年後、私は偶然、元彼と再会する。 過去とは全く変わった私と出会って、元彼はふたたび──

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

処理中です...