ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

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序章

卒業記念日 feat. アセウス②

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「え……? なんでそんなことを……?」


 パチパチ パチッ と薪の枝の跳ねる音が響く。


「なんか……ちょっと前から、お前変わったじゃん……。前は俺も引くぐらい熱血で、夢見勝ちで、根性あって……キラキラしてたのに。そーゆーのもう卒業した、みたいに悟ってるっていうか、冷めてるっていうか、……流されようとしてるっていうか」


 ……そうだ……。アセウスに気づかれないはずがないんだ。
 15年一緒に過ごして、気が合って、共に旅して3年。
 その「エルドフィン」に前世の俺が混ざっちまったんだ。いや、乗っ取ったに近いのか。
 いくら記憶が残ってるからって、俺は「現世の俺・・・・」とは違う。
 お前のエルドフィン・・・・・・・・・にはなれない。
 ……目立った戸惑いも見せることなく、変わらずに接してくれているから、そんなもんなのかと忘れてた。
 そうだよな……。


 俺は胸の奥の方がズキッと痛むのを感じた。
 旅をしてて受けたどんな傷の記憶より痛ぇ。

 ここ・・でもやっぱりダメなんじゃん……

 俺は今にも泣きそうなくらい悲しくなっているのを感じた。
 泣かないけど。涙も出ないけど。
 ははっ……こんな時、「現世の俺エルドフィン」なら男泣きするんだろうな。


「バレてたんだ……。まぁ、そうだよな。バレるか……」


 俺はただ、アセウスから目を逸らして、そう冷めた返事をするだけだった。

 前世の俺はぼっちだった。
 学校でも部活でも、話をする相手はいた。
 でも、俺じゃなきゃいけないっていう相手はいなかった。
 ライングルだってたくさん入ってたけど、俺宛のメッセージなんてなかった。
 卒業して働くようになったら、ぼっちの事実がよりハッキリした。
 誰からも連絡は来ない。忘れ去られた人間。
 居ても居なくても何も変わらない。
 存在る意味の見出だせない世界。空虚だった……。
 だから終わらせた。・・・・・・

 気づいたらこの世界に転生してた。
 前世の記憶が覚醒するっていう、まさかの途中からで。
 やり直すにしても、前世に比べたら世界設定がクソ過ぎて
 なんの楽しみも希望も魅力も感じなかった。
 特に覚醒直後の頃は、この世界のイケてないことばかりが気になって、俺、全然やる気がでなかった。
 さっさと次に逝こうってやさぐれてた。
 「それまでのエルドフィン」と比べたら、まるで別人だ……。


「そうだよな。こんな俺とじゃ、一緒にいたってつまんねぇよな。……悪ぃ……俺、もう、前のエルドフィンには戻れないんだわ」


 前世に転生し直したいとか思ってた俺が、初めて手に入れたもの
 最高の友達アセウス
 記憶から考えても、ぜってー合わねぇと思ってた。合わせるつもりもなかったし。
 でも、お前は変わらずいてくれて
 「現世の俺エルドフィン」に向けるような好意をにも向けてくれて
 あぁ、途中からなのはその為なんだって思ったんだ。
 友達だれかと過ごす時間ってすげぇ楽しくて、有意義で、特別凄いことなんてする必要もなくて。
 こんなクソみてぇな世界でも、お前と旅できるんならもう少し生きてみてもいいかなって思ったし
 昨日の襲撃で、もっと強く自覚した。
 この生活を終わらせたくない!! って思ったんだ。
 ……だけど……

 俺は初めての友達アセウスの顔を最後に良く見ておこうと目線を戻した。
 ブルーグレーの瞳が深刻な顔して俺を見ていた。

 見慣れて忘れてたけど、すげーイケメンだったんだな。
 家柄だって良いしさ、性格なんて有り得ねぇくらいいい奴だしさ。
 俺にはほんと、勿体ないくらいの友達やつだったんだよな。
 本当は同じくらいいい奴のエルドフィンと、楽しい旅を続けていたはずだったのに……


「……ごめんな。ほんと、申し訳ない……」


 なんだか無性に自分が嫌になった。
 存在自体が誰かの人生の邪魔をしてしまってるなんて。
 もう、腹決めて諦めよう、俺はどこへ行ってもぼっち。
 原因が俺だから仕方がない。
 友達体験出来ただけでもいい転生だった。
 そう思ったら自然と微笑みが出た。


「終わらせるか」


 ブルーグレーの瞳が焚き火の光で瑠璃色に輝いている。
 俺はこんな時にも愛想笑いをしようとしてる。
 終わらせたくない自分を隠したくて。
 でも、いいんだ。この旅が終わったら、この世界も終わらせればいい。
 俺はアセウスの言葉を待った。


「……ぷっ」


 え??


「終わらせるか……じゃねぇよ!! そーゆーとこだよ、そーゆーとこ!!」


 アセウスは思いっきり吹き出しながら俺の頭をバンバンと叩いた。


「いてっっいっってぇな!! なんだよっ止めろよっ!!」

「ほんと、どーしちゃったんだよ、何があったらそー変われるんだ? ずっと一緒に居たはずなんだけどなー」

「だからもう、俺は前のエルドフィンじゃ……」

「分かってる、分かってるって。でも、変わり過ぎなんだよ。心にもないことそれっぽく言っちゃってさぁ」

「え?」

「だってお前、終わらせる気なんて全然ないだろ? 昔と変わらずめっちゃ押せ押せじゃん」


 アセウスが嬉しそうに笑う。
 あれ……? なんで。


「て、今だから言えてるけどさ。ごめん、俺、一時お前のこと騙そうとした」

「は?!」

「お前が別人みたいにネガティブ言動増えた時さ、もう俺と旅するの飽きたのかーって凹んだんだよね。お前、ずっとデカいことしたいって向上心の塊だったけど、実際は、ふらふら宛もなくさまよってただけで……まだ町の部隊に属してた方が世の中のためになること出来てたかもって三年間だったし」

「それは、ごめんって。確かに、ちょっとめんどかった時はあったよ。飽きたとか嫌だとかではないから……今思えばもう少しお前たち・・・・に気を遣うべきだったと思う」

「俺たち? あぁ、やっぱり家のこと気にさせてたんだ。旅立つ時ひと騒ぎやらかしたもんな。俺さ、その負い目があったから、お前がもうこの旅を止めたいのに、俺に遠慮して付き合ってくれてるんだって誤解したんだ」


 ……え? なに?……なんか、話が予想してない方向に……



「ほんとはずっと気になってたのに、俺が口に出したら、終わってしまいそうで気づかないふりしてた。お前が俺に遠慮してるのかもとか、気遣ってくれてるかもって思っていながら、騙してたんだ」

「……なぁる……。でもそれって、騙すって言うほどのことじゃないと思うぞ。みんなしてるだろ」


 アセウスが変わらぬ態度をとっていた理由が思わず判明した。
 こいつはこいつなりに色々考えてたんだ……。


「だから俺、お前があの夜言った言葉、めちゃくちゃショックでさ」

「あの夜?」

「俺を助けに来てくれた時に叫んでたやつ。『いつだってサヨナラしてやるよ!』てやつ」

「お……ぅっ聞かれてた……ぁっっ」

「うん……。俺のしてることって、お前の命まで騙しとろうとすることだったんだなって」


 ん??? なんでそうなる? ん?? いや、合ってるのか? そうなのか?


「お前結局助けてくれたし、その後も全然何事も無かったみたいに旅続けてくれるし、もっと面倒かもしれない北への旅提案してくれるし……当たり前のことみたいに一蓮托生って言ってくれたの、すげー嬉しかった……」


 お、俺も良く分かんないけど嬉しいよ。
 だって、それってこの俺・・・がってこと、なん、だろ?


「で、俺も成長できたんだ。人間生きてればさ、そりゃ変わるよな。変わらない方が変だ。お前はちょっと極端だけど! でも、全部が変わる訳じゃない、変わらないものもある。俺らの関係はそれだって……お前に教えられた」


 焚き火の炎を眺めるアセウスの顔はすげぇ幸せそうで、
 さっき思ったほど、俺は邪魔してなかったのかな……なんて思った。



「不安なら不安だって言えばいいんだし、止めたくなければ止めたくないって言えばいいんだよな。だって、それが正直な自分なんだし、そこに嘘ついたら相手にも嘘をつくことになって、そっちの方が不誠実だ。実際どうするかはまた別の話だもんな。めんどい、ダルい、終わらせる終わらせるって言いながら押せ押せのお前みたいにさ!」


 なんかそー言われると、恥ずかしいような、嬉しいような。
 俺は焚き火のせいか、身体が熱くなってくるのを感じた。


「今は、そーゆーお前、なんか、深みがあって、いいと思った。……俺はたぶん、旅を終わらせたとしても、お前とまたこうしていられれば人生楽しめる気がする」


その日、パチパチと燃え盛る火を見ながら、俺は一晩くらい寝なくてもいいや、と思った。
眠れそうにないと思った。

 42年で初めてかもしれない、両想いだ。
 (男だけど)
 と思った。
 両想いってこんなに嬉しいんだ。
 (友情だけど)
 と思った。
 『俺はもう一人じゃない』
 大好きな歌の歌詞がそっと口からこぼれた。
 だから今日は、俺のぼっち卒業記念日。




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