2 / 5
2
しおりを挟む
夫と私はレスだ。
もう二年以上ずっと、身体の繋がりはない。
結婚する前はすごく求めあった。
空っぽの身体に満たされる、溢れる程の愛を感じた。
だから結婚しないか、と私から提案した。
彼は優しく微笑った。
それが返事だった。
結婚直後は溺れるように身体を重ねた。
いつからだろう。
夫は私を求めなくなった。
いや、違う、私の身体を求めなくなった、が正しい。
夫、依人が私を求めたことはきっと一度もない。
「急に冷えたね」
依人はそう呟いて、重ねた私の右手ごと、左手を自分のコートのポケットに入れた。
暖かい。
私は依人のポケットの中で、そっと指を絡めて握り直す。
依人を見上げた私の目線と、私を見る依人の目線が絡み合う。
そして、何事もなかったように、絡み合っていた目線は離れる。
彼と私を隔てる風が、冷たく頬を撫でた。
依人と初めて会ったのは、高校三年生の時だった。
卒業前に、と告白されて初めて付き合った彼氏、広起の親友だった。
明るい太陽みたいな広起と対照的で、でも、だからなのか、十年以上の付き合いで何でも話し合える仲というのが納得できた。
依人は、月みたいな、静かに寄り添ってくれる男だ。
彼は広起をとても大切にしていたから、こんなことになるなんて思ってなかっただろう。
元、とはいえ、親友がプロポーズした婚約者と結婚することになるなんて。
きっと、依人は苦しんだ。
悪いのは全部私だ。
依人が私に触れる手は、結婚当初と変わらず優しい。
愛おしそうに、まるで壊れやすい大事なもののように、私に触れる。
気づくと、依人はいつも私を見ている。
慈しむような、切ないような瞳が私を見つめている。
ニセモノの愛でも、悲劇を忘れるに十分な多幸感に浸れた。
それでいい、それ以上は望まない、そう思って結婚したはずだった。それなのに。
「依人が見ているのが、本当に私なら良いのに」
いつからか、そう思っていた自分に気がついて吐きそうになった。
弱く、狡い自分が、ただただ気持ち悪い。
広起のことをあんなにも愛していたのに、今でもこの胸の中から広起を消せないのに、今の私は依人の愛を欲しがっている。
私の身体を通して、妹杏希の面影を偲んでいる依人の愛を。
もう二年以上ずっと、身体の繋がりはない。
結婚する前はすごく求めあった。
空っぽの身体に満たされる、溢れる程の愛を感じた。
だから結婚しないか、と私から提案した。
彼は優しく微笑った。
それが返事だった。
結婚直後は溺れるように身体を重ねた。
いつからだろう。
夫は私を求めなくなった。
いや、違う、私の身体を求めなくなった、が正しい。
夫、依人が私を求めたことはきっと一度もない。
「急に冷えたね」
依人はそう呟いて、重ねた私の右手ごと、左手を自分のコートのポケットに入れた。
暖かい。
私は依人のポケットの中で、そっと指を絡めて握り直す。
依人を見上げた私の目線と、私を見る依人の目線が絡み合う。
そして、何事もなかったように、絡み合っていた目線は離れる。
彼と私を隔てる風が、冷たく頬を撫でた。
依人と初めて会ったのは、高校三年生の時だった。
卒業前に、と告白されて初めて付き合った彼氏、広起の親友だった。
明るい太陽みたいな広起と対照的で、でも、だからなのか、十年以上の付き合いで何でも話し合える仲というのが納得できた。
依人は、月みたいな、静かに寄り添ってくれる男だ。
彼は広起をとても大切にしていたから、こんなことになるなんて思ってなかっただろう。
元、とはいえ、親友がプロポーズした婚約者と結婚することになるなんて。
きっと、依人は苦しんだ。
悪いのは全部私だ。
依人が私に触れる手は、結婚当初と変わらず優しい。
愛おしそうに、まるで壊れやすい大事なもののように、私に触れる。
気づくと、依人はいつも私を見ている。
慈しむような、切ないような瞳が私を見つめている。
ニセモノの愛でも、悲劇を忘れるに十分な多幸感に浸れた。
それでいい、それ以上は望まない、そう思って結婚したはずだった。それなのに。
「依人が見ているのが、本当に私なら良いのに」
いつからか、そう思っていた自分に気がついて吐きそうになった。
弱く、狡い自分が、ただただ気持ち悪い。
広起のことをあんなにも愛していたのに、今でもこの胸の中から広起を消せないのに、今の私は依人の愛を欲しがっている。
私の身体を通して、妹杏希の面影を偲んでいる依人の愛を。
0
あなたにおすすめの小説
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
ホストな彼と別れようとしたお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレ男子に捕まるお話です。
あるいは最終的にお互いに溺れていくお話です。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
小説家になろう様でも投稿しています。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる