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12話 チワワ御殿奪還1
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娘の麻耶はチワバターにならず人間のままだったので、エレベーターの操作をしてもらった。まだチワバター施設にたどり着いていない仔犬やしんがりのチワワたちの収容をするためだ。
「こんな棒で工夫してエレベーターのボタンを押したり、扉が閉まりきらないように固定したり。すごいわ。小さなチワワの力とは思えない。」
麻耶はビックリしていた。
「いや、それはチワバターの黒太郎さんが考えたことだから。」
と私が言うと、
「それでも、人間だったら簡単にできることが、チワワの格好をしただけで色んなことができないでしょう?やっぱりすごい。」
と感心していた。
「お疲れ様。」
麻耶は黒太郎さんに深くおじぎをすると、エレベーターのドアを開けて地下へ向かうようにボタンを押した。そして自分は一階に残ったまま、扉の隙間から残りのチワワを待った。途中、予想通り仔犬たちは集中力を欠きだして、一目散というわけにはいかず、周囲に散りそうになった。が、そこは恵理子さんや後ろを守る敦子さんが何とか食い止めた。
「もう少しだから!」
恵理子さんが後ろを振り向いて励ましたが、一匹の仔犬が転倒した。
「あ!」
後ろを走っている敦子さんが仔犬に駆け寄ったが、勢いよく転倒した仔犬は興奮しすぎて収集がつかない。
「大丈夫だから。」
サッと麻耶は駆けつけると抱き上げて施設へ戻った。麻耶が動くと周囲のチワワと違って身体にカモフラージュの泥を塗っていないしリスクがある。でも一匹だって置いてはいけない。
「さぁ、しんがり組は番長と雷子さんで最後ね。後は残っているチワワはいませんか?」
雷子さんが戻ったところで麻耶は雷子さんに聞いた。
「残っているものはいない。まずは皆で地下で休もう。」
雷子さんはスタスタとエレベーターに乗ると、その横で麻耶が並んで立った。
「朝になってしまって明るくなると、透明ドームにいるのが目立ってしまいます。でも、どうやらチワバターから人間に戻すには透明ドームにチワバターを置くことが必要なの。」
麻耶が言うと、雷子さんがウンと頷いた。
「雷子さん、今夜チワバターから戻すのを決行しようと思う。でもマニュアルでちょっと分からないこともあるし、時間が必要だけど、協力してもらえるかしら。」
麻耶はチワワの雷子さんに普通に話しかけた。麻耶はチワバターではないから話は通じないはずなのに、なぜか普通に会話をしているようだ。
「麻耶は、不思議な娘だな。」
と雷子さんが正面を向いたまま言うと、
「雷子さんだって、かなり不思議なチワワでしょ。」
と麻耶が言った。確かに麻耶も不思議だが、雷子さんの指導力やカリスマ的なところは、尋常ではない。ただのチワワじゃない気がしてくる。本当は何者なのだろうか?
麻耶はマニュアルを手に取ると、私にチワバターたちを集めるよう言った。そして、その中で沖縄のルカさんを手招きした。
「すみません。マニュアルを見てもらっていいですか。ここと、ここが分からないのと、この順番の部分とパネルの照らし合わせが分からないんです。」
沖縄のルカさんはチワバターのままマニュアルを覗き込んだ。
「うん、これはパネル操作の順番さえ正しければ、全く難しいことはないわ。えーっと・・・。」
ルカさんはあたりを見回した。鳴海さんは文房具が好きで、よく可愛い文房具を買ってはそこいらに置きっぱなしにしている。
「あったあった、付箋紙。鳴海さんは可愛い付箋紙が大好きだったからね。絶対に周囲にあると思った。」
ルカさんはそこに数字を1から一枚に一つずつ麻耶に書かせた。そして、マニュアルの順番にパネルに次々に貼っていった。
「あとは、ランプが青になったらレバーをひいて・・・書いた?麻耶ちゃん。」
とコメントも書いた。注意が必要なところにちゃんとその付箋紙を貼る。
「よし。これくらいだよ。全く難しいことはないよ。機械の内側のシステムは想像つかないほど難しいということもあるけど、操作はそれほどじゃないんだよ。」
ルカさんは麻耶の不安を取り除くように説明した。チワバターは全員ドームに入るから、操作でトラブルやエラーが発生しても麻耶1人で対応しなければならない。
「大丈夫、大丈夫、ケ・セラ・セラ」
それでもやはり不安を隠せない麻耶にルカさんは歌うように言った。
「時間がないわ。皆ドームへ集まりましょう。」
楠木さんが言った。飼い主であるチワバターたちは、暗闇の透明ドームへ移動した。前に来た時は、燦々と太陽が眩しく、チワワたちと楽しく遊んでのに。今は皆んな泥だらけだし、周囲は真っ黒闇だ。
私の横で楠木さんが言った。
「人間に戻ったら、まず何をしたい?私は普通の人間のトイレに行きたい。」
なるほど、もっともだ。
「優さんは?」
楠木さんが私の顔を覗き込むように言った。私は前を向いたまま一言言った。
「チワワ御殿奪還よ。」
再び目を開けて気がつくと、あの医療器具のMRIというか、SFチックな装置の上にいた。ゆっくりと確かめるように指先と足先を動かしてみた。そして指、腕、足、最後に自分の爪を見るように手を上げてみた。
「戻ったんだ。」
私が身体を起こすと、同じように皆もザワザワと身体を起こしてほぐしているようだ。動かしていなかった身体はなんだか違和感があってギシギシしている感じがする。
「ともあれ、本当に良かった。」
ため息があちこちで聞こえる。そこへ、娘の麻耶が飛んできた。
「お母さん!」
一人で執事の目をかいくぐって逃げたり、転んだチワワの仔犬を助けに走ったり、本当にたくましくなったと思った娘だが、やはり子供は子供なのだ。母親に飛びついてきた。
「良かった。戻ってよかった。」
私もギュッと麻耶の身体を抱きしめた。と、そこで爪の音がして、チワワの雷子さんがやってきた。
「うん、分かった。」
麻耶が雷子さんに向かって頷いた。
「人間に戻ったところで、ここから作戦は『チワワ御殿奪還作戦』とする!と雷子さんが言っています。雷子さんの作戦を中心に考えてみようと思う。皆さん、聞いてください!」
まだ身体が思うように動かない飼い主達の前で、麻耶は声を張った。あの恥ずかしがりやで、私の影からゲストたちに挨拶していたのが嘘のようだ。
「鳴海さんは仕事で海外へ急に向かいました。もっとも、その仕事も、鳴海さんはゲストをもてなすために何もいれていないはずだったので、事情がおかしいかと感じています。その後、鳴海さんの携帯電話やメールは通じていません。何回もコンタクトは取り続けてはいます。」
麻耶は息をついだ。
「しかし、連絡の取れない鳴海さんを待ちながらここで隠れていても仕方がありません。ここは私達飼い主とチワワが一丸となってこの鳴海さんのチワワ御殿を、あの執事の黒井、メイドのアリアから奪い返そうと思っています。」
「メイドのアリアもぐるなの?」
楠木さんが聞いた。
「はい。まるで狂気の沙汰ではない様子でした。窓からゲストの荷物などを投げ捨てながら喜んでいました。」
麻耶がそう言うと、楠木さんはブルッとした。
「ここからは雷子さんの提案ですが、仔犬たちはここで隠れていたほうがいいと思います。他のチワワはわざと黒井やアリアの目の前を通って誘い出し、飼い主は鍵のかかる窓の無い部屋へ二人を閉じ込めます。」
皆が「ん?」という顔をした。
「チワワがオトリということか?」
番長と番長の飼い主のお姉さんが言った。
「別にオトリは誰でもいいんです。でも、チワワより早く飼い主の人間が走れるとは思えません。もちろんオトリになるのは老齢のチワワではなく、足の速い者だけです。」
雷子さんがまたそこで麻耶に耳打ちをした。
「これだけの大人がいるとはいえ、黒井とアリアは尋常な精神ではありません。大変に危険です。そこで、確保するために色々道具を揃えて備えて望みたいと思います。物置がこの地下にはありますから、今から言うものを揃えて1階のホールまで運んでください。チワワたちはオトリの者を選出。休息後は1階へ。」
まるで麻耶は雷子さんの通訳のようだ。キリッと直立不動の雷子さんがピッタリとくっついていた。
「何を探すの?倉庫はこの地下にあるのね。」
幸子さんが言った。まだギシギシいう身体をさすりながら、幸子さんは周囲に言った。
「早速探さないと。」
飼い主達は探してくるものを周囲に散乱している文房具でメモし、シロコやクロコたちの話から黒井たちを閉じ込められそうな部屋を聞いた。もちろん既にシロコたちとは話が直接できないので、シロコ達の話を雷子さんが聞き、それを麻耶が飼い主たちに通訳するというものだ。
「そんなに上手くいくかしら。」
不安げにレイちゃんがチワワのハチ平君を抱っこして小さな声で言った。それは誰もがそう思っていた。チワワ御殿は広いし、私達は勝手が分からないところがある。比べて黒井たちは御殿の中をよく知っていて、私達のトラップに気づく可能性が高い。
「こちらはチワワとたくさんの人間がいるじゃないか。力を合わせてかかれば、何かしらができる。ジッとしていたら、ここで何日鳴海さんが来るのを待つというんだい?」
黒太郎さんが言った。その通りだ。
「それにしても、この倉庫で探すものは変わっているね。釣り糸のテグスにサッカーボールにスケートボード?ロープは捕まえたら縛っておくのかもしれないけど、他は野球の道具とかサッカーとか・・・。物は使いようということかい?」
黒太郎さんが雷子さんに言うと、雷子さんが少し微笑んだ感じがした。
反撃のための道具をそろえ、サッカーボールやスケートボードなんかを手にしたおかしな格好の大人がホールに集まった。オトリのチワワも1階ホールへ集まった。子犬たちは地下で恵理子さんが騒がないように見ていてくれている。人間に戻っても、仔犬たちは恵理子さんや敦子さんを信頼しているようだ。もうすぐ夜明け前。薄暗い中の作戦の決行だ。人間もチワワも緊張が走った。
「うおーーーーーーん!」
驚くほどの声で雷子さんが遠吠えをして、「チワワ御殿奪還作戦」は始まった。みんなの御殿を奪い返すんだ!
「こんな棒で工夫してエレベーターのボタンを押したり、扉が閉まりきらないように固定したり。すごいわ。小さなチワワの力とは思えない。」
麻耶はビックリしていた。
「いや、それはチワバターの黒太郎さんが考えたことだから。」
と私が言うと、
「それでも、人間だったら簡単にできることが、チワワの格好をしただけで色んなことができないでしょう?やっぱりすごい。」
と感心していた。
「お疲れ様。」
麻耶は黒太郎さんに深くおじぎをすると、エレベーターのドアを開けて地下へ向かうようにボタンを押した。そして自分は一階に残ったまま、扉の隙間から残りのチワワを待った。途中、予想通り仔犬たちは集中力を欠きだして、一目散というわけにはいかず、周囲に散りそうになった。が、そこは恵理子さんや後ろを守る敦子さんが何とか食い止めた。
「もう少しだから!」
恵理子さんが後ろを振り向いて励ましたが、一匹の仔犬が転倒した。
「あ!」
後ろを走っている敦子さんが仔犬に駆け寄ったが、勢いよく転倒した仔犬は興奮しすぎて収集がつかない。
「大丈夫だから。」
サッと麻耶は駆けつけると抱き上げて施設へ戻った。麻耶が動くと周囲のチワワと違って身体にカモフラージュの泥を塗っていないしリスクがある。でも一匹だって置いてはいけない。
「さぁ、しんがり組は番長と雷子さんで最後ね。後は残っているチワワはいませんか?」
雷子さんが戻ったところで麻耶は雷子さんに聞いた。
「残っているものはいない。まずは皆で地下で休もう。」
雷子さんはスタスタとエレベーターに乗ると、その横で麻耶が並んで立った。
「朝になってしまって明るくなると、透明ドームにいるのが目立ってしまいます。でも、どうやらチワバターから人間に戻すには透明ドームにチワバターを置くことが必要なの。」
麻耶が言うと、雷子さんがウンと頷いた。
「雷子さん、今夜チワバターから戻すのを決行しようと思う。でもマニュアルでちょっと分からないこともあるし、時間が必要だけど、協力してもらえるかしら。」
麻耶はチワワの雷子さんに普通に話しかけた。麻耶はチワバターではないから話は通じないはずなのに、なぜか普通に会話をしているようだ。
「麻耶は、不思議な娘だな。」
と雷子さんが正面を向いたまま言うと、
「雷子さんだって、かなり不思議なチワワでしょ。」
と麻耶が言った。確かに麻耶も不思議だが、雷子さんの指導力やカリスマ的なところは、尋常ではない。ただのチワワじゃない気がしてくる。本当は何者なのだろうか?
麻耶はマニュアルを手に取ると、私にチワバターたちを集めるよう言った。そして、その中で沖縄のルカさんを手招きした。
「すみません。マニュアルを見てもらっていいですか。ここと、ここが分からないのと、この順番の部分とパネルの照らし合わせが分からないんです。」
沖縄のルカさんはチワバターのままマニュアルを覗き込んだ。
「うん、これはパネル操作の順番さえ正しければ、全く難しいことはないわ。えーっと・・・。」
ルカさんはあたりを見回した。鳴海さんは文房具が好きで、よく可愛い文房具を買ってはそこいらに置きっぱなしにしている。
「あったあった、付箋紙。鳴海さんは可愛い付箋紙が大好きだったからね。絶対に周囲にあると思った。」
ルカさんはそこに数字を1から一枚に一つずつ麻耶に書かせた。そして、マニュアルの順番にパネルに次々に貼っていった。
「あとは、ランプが青になったらレバーをひいて・・・書いた?麻耶ちゃん。」
とコメントも書いた。注意が必要なところにちゃんとその付箋紙を貼る。
「よし。これくらいだよ。全く難しいことはないよ。機械の内側のシステムは想像つかないほど難しいということもあるけど、操作はそれほどじゃないんだよ。」
ルカさんは麻耶の不安を取り除くように説明した。チワバターは全員ドームに入るから、操作でトラブルやエラーが発生しても麻耶1人で対応しなければならない。
「大丈夫、大丈夫、ケ・セラ・セラ」
それでもやはり不安を隠せない麻耶にルカさんは歌うように言った。
「時間がないわ。皆ドームへ集まりましょう。」
楠木さんが言った。飼い主であるチワバターたちは、暗闇の透明ドームへ移動した。前に来た時は、燦々と太陽が眩しく、チワワたちと楽しく遊んでのに。今は皆んな泥だらけだし、周囲は真っ黒闇だ。
私の横で楠木さんが言った。
「人間に戻ったら、まず何をしたい?私は普通の人間のトイレに行きたい。」
なるほど、もっともだ。
「優さんは?」
楠木さんが私の顔を覗き込むように言った。私は前を向いたまま一言言った。
「チワワ御殿奪還よ。」
再び目を開けて気がつくと、あの医療器具のMRIというか、SFチックな装置の上にいた。ゆっくりと確かめるように指先と足先を動かしてみた。そして指、腕、足、最後に自分の爪を見るように手を上げてみた。
「戻ったんだ。」
私が身体を起こすと、同じように皆もザワザワと身体を起こしてほぐしているようだ。動かしていなかった身体はなんだか違和感があってギシギシしている感じがする。
「ともあれ、本当に良かった。」
ため息があちこちで聞こえる。そこへ、娘の麻耶が飛んできた。
「お母さん!」
一人で執事の目をかいくぐって逃げたり、転んだチワワの仔犬を助けに走ったり、本当にたくましくなったと思った娘だが、やはり子供は子供なのだ。母親に飛びついてきた。
「良かった。戻ってよかった。」
私もギュッと麻耶の身体を抱きしめた。と、そこで爪の音がして、チワワの雷子さんがやってきた。
「うん、分かった。」
麻耶が雷子さんに向かって頷いた。
「人間に戻ったところで、ここから作戦は『チワワ御殿奪還作戦』とする!と雷子さんが言っています。雷子さんの作戦を中心に考えてみようと思う。皆さん、聞いてください!」
まだ身体が思うように動かない飼い主達の前で、麻耶は声を張った。あの恥ずかしがりやで、私の影からゲストたちに挨拶していたのが嘘のようだ。
「鳴海さんは仕事で海外へ急に向かいました。もっとも、その仕事も、鳴海さんはゲストをもてなすために何もいれていないはずだったので、事情がおかしいかと感じています。その後、鳴海さんの携帯電話やメールは通じていません。何回もコンタクトは取り続けてはいます。」
麻耶は息をついだ。
「しかし、連絡の取れない鳴海さんを待ちながらここで隠れていても仕方がありません。ここは私達飼い主とチワワが一丸となってこの鳴海さんのチワワ御殿を、あの執事の黒井、メイドのアリアから奪い返そうと思っています。」
「メイドのアリアもぐるなの?」
楠木さんが聞いた。
「はい。まるで狂気の沙汰ではない様子でした。窓からゲストの荷物などを投げ捨てながら喜んでいました。」
麻耶がそう言うと、楠木さんはブルッとした。
「ここからは雷子さんの提案ですが、仔犬たちはここで隠れていたほうがいいと思います。他のチワワはわざと黒井やアリアの目の前を通って誘い出し、飼い主は鍵のかかる窓の無い部屋へ二人を閉じ込めます。」
皆が「ん?」という顔をした。
「チワワがオトリということか?」
番長と番長の飼い主のお姉さんが言った。
「別にオトリは誰でもいいんです。でも、チワワより早く飼い主の人間が走れるとは思えません。もちろんオトリになるのは老齢のチワワではなく、足の速い者だけです。」
雷子さんがまたそこで麻耶に耳打ちをした。
「これだけの大人がいるとはいえ、黒井とアリアは尋常な精神ではありません。大変に危険です。そこで、確保するために色々道具を揃えて備えて望みたいと思います。物置がこの地下にはありますから、今から言うものを揃えて1階のホールまで運んでください。チワワたちはオトリの者を選出。休息後は1階へ。」
まるで麻耶は雷子さんの通訳のようだ。キリッと直立不動の雷子さんがピッタリとくっついていた。
「何を探すの?倉庫はこの地下にあるのね。」
幸子さんが言った。まだギシギシいう身体をさすりながら、幸子さんは周囲に言った。
「早速探さないと。」
飼い主達は探してくるものを周囲に散乱している文房具でメモし、シロコやクロコたちの話から黒井たちを閉じ込められそうな部屋を聞いた。もちろん既にシロコたちとは話が直接できないので、シロコ達の話を雷子さんが聞き、それを麻耶が飼い主たちに通訳するというものだ。
「そんなに上手くいくかしら。」
不安げにレイちゃんがチワワのハチ平君を抱っこして小さな声で言った。それは誰もがそう思っていた。チワワ御殿は広いし、私達は勝手が分からないところがある。比べて黒井たちは御殿の中をよく知っていて、私達のトラップに気づく可能性が高い。
「こちらはチワワとたくさんの人間がいるじゃないか。力を合わせてかかれば、何かしらができる。ジッとしていたら、ここで何日鳴海さんが来るのを待つというんだい?」
黒太郎さんが言った。その通りだ。
「それにしても、この倉庫で探すものは変わっているね。釣り糸のテグスにサッカーボールにスケートボード?ロープは捕まえたら縛っておくのかもしれないけど、他は野球の道具とかサッカーとか・・・。物は使いようということかい?」
黒太郎さんが雷子さんに言うと、雷子さんが少し微笑んだ感じがした。
反撃のための道具をそろえ、サッカーボールやスケートボードなんかを手にしたおかしな格好の大人がホールに集まった。オトリのチワワも1階ホールへ集まった。子犬たちは地下で恵理子さんが騒がないように見ていてくれている。人間に戻っても、仔犬たちは恵理子さんや敦子さんを信頼しているようだ。もうすぐ夜明け前。薄暗い中の作戦の決行だ。人間もチワワも緊張が走った。
「うおーーーーーーん!」
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