転移無法の育成者 〜勇者パーティーを追放された転移能力者、異世界人を元の世界に戻すことで力を奪い、魔王軍を育てながら最強に至る〜

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第1章 育成準備につき、裏で密かに動いていく

33話 ユウトとマサトの災難1

「ーー絶対に許さねぇからな!」

 そう言い放った直後、いきなり視界が切り替わって、急に浴びた明るい光に驚いて目を見開く。
 目の前にはいつか見た景色が広がっていた。
 ここは確か、俺が勇者ユウトとして異世界に来る前に見た最後の場所。

 すぐ後ろには、順番待ちの間に立っていなくてもいいようにと設置されている、背もたれの無い椅子。

 前方には受付があり、そのすぐ上には番号が示された電光掲示板が天井からぶら下げられている。

 横を見れば、少し遠くにある建物の外に繋がる自動ドアと、その脇に設置されている大きな観葉植物。

 出入り口のすぐ近くには現金を引き出すための機械が置いてあり、そこには順番待ちをしているだろう人が並んでいた。
 そう、ここは銀行だ。

 そもそも、どうして銀行にいたんだっけか。
 ……そうだ。
 マサトと一緒にその辺をぶらついていたら、いい感じに気弱そうなやつを見つけたから、少し話しかけてやったら金を貰えることになったんだったか。

 それでそいつの肩を組んで銀行に一緒に入って、俺は長椅子に座って2人を待っていたんだったよな。
 しばらくしてマサトが金を降ろしたそいつを連れてやってきて、あとは外に連れ出してようやく小遣いゲット!

 そんな時だったな。
 魔法陣が現れて、俺とマサトが異世界に飛ばされたのは。

 おかげでそこから俺の楽しい勇者ライフが始まって、経験値稼ぎに夢中になった。
 その甲斐もあってか、冒険者の中でも最強クラスに登りつめた俺の活躍で、もう少しで魔王軍の命運も尽きて、聖女とかいうスキルのせいで強いられていた我慢も、もうすぐ終わり。

 エンディングを迎えた後は、魔王を倒した功績で金も女も好き放題の豪遊生活が約束されていた。
 そのはずだったのに……。

 それがどうしてこうなった?

 俺は今、銀行内で注目の的になっていた。
 受付の奥にいる職員も、後ろの長椅子に座っているやつら、金を下ろすために並んでるやつら。
 全員が全員、例外なく俺を見ていた。

 それも恐ろしいものを見るかのような目で。
 辺りは静寂に包まれて、誰も声を発することはしなかった。

「は? え? ここって……」

 すると、俺のすぐ脇にマサトが急に現れてその静寂を破るが、誰もそれに答えないためにすぐに静寂に逆戻りしてしまう。
 それにしてもおかしくはないか?

 いや、急に元の世界に戻ったこともそうなんだが。
 急に人が現れたことに対して、俺以外からのリアクションが無いのはどういうことだ?

 そう思って周りを見渡すと、何故か俺たちを見ている奴らの目が、虚ろと言えばいいのか、生気が失われたかのような目をしていた。

 それも短い間だけで、すぐに元の怯えたような目に戻ったが。
 どちらにしても状況は変わらない。
 これは非常にマズい。

 マサトは手にモーニングスターを持っていて、着ている防具も含めて、ブラッディスライムの赤黒い粘液がそれらにこびりついている。

 そんな俺も魔法剣に鎧姿だ。
 何故かはわからないが、状況から見るにどうやら元の世界に戻ってきてしまったらしい。
 しかも異世界に衣類を着たまま送られたように、こっちに戻る時に装備をそのまま持ってきてしまったようだ。

 そしてその剣も、今では刀身が黒くなってしまっているが、戦いで炎を出したおかげで赤黒い粘液は焼けてしまったのか、どこにもついていない。
 でも鎧にはその赤黒い色のものがびっしりとついていた。

 これでは、ここに来るまでに持っている武器で誰かを傷つけてきたヤバい奴にしか見えないぞ……。

 マサトはさっきの俺のようにきょろきょろと周りを見回して、ようやく状況を理解したらしい。

「もしかして、俺たち元の世界に戻ったのか?」

「そうみたいだ。だけど、それどころじゃないぞ。それ……」

「え?」

 そう言って、武器を指さしたのがいけなかったみたいだ。
 マサトがその血にまみれたように見える、トゲのついた武器であるモーニングスターを持っていることに気づいたのか、それを持ち上げてしまう。
 その直後だった。

「きゃあああああ! いやああああああ!」

 そんな絶叫が辺りに響き渡り始める。

「えっ? えっ? いや、これは違っ」

「おい、逃げるぞ!」

「あ、あ、おう!」

 でもそれは結果的に無理だった。
 誰かさんが絶叫してくれたおかげで銀行内はパニックになり、出入り口がすし詰め状態になった。
 これでは逃げられない。

 周りを確認してみたが、どう見ても出入りできるのはあそこの1つだけ。
 俺たちは出入り口を呆然と見つめたまま、立ち尽くしていた。

 出入り口が通れるようになる頃には、騒ぎを聞いた野次馬たちが集まってきていて、多くの人間がスマホを手にこちらへ向けていた。

 どう見ても撮影されている。
 これじゃあ逃げたところですぐに見つかってしまうだろう。

 よくよく考えれば、銀行にだって防犯カメラはある。
 もう手遅れだ。

 野次馬の撮影した画像から、おかしな格好をした奴らが事件を起こした。
 そんな感じでニュースにでも取り上げられるのだろう。

 それから少しして、遠くからサイレンの音がいくつも聞こえ始める。
 職員の誰かが防犯ブザーを押して通報したのだろう。
 すぐにその音がそばまでやって来て、いつか見た刑事ドラマで聞いたような声が、拡声器を通して聞こえてきた。

『犯人に次ぐ、お前たちは既に包囲されている。ただちに凶器を捨てて投降しろ!』

 元々俺たちにここで暴れる気はなかったから、その場で武器を手放した。
 異世界に来る前も、ちょっと小遣い稼ぎをしていただけなのに。
 何でこんな目にあわないといけないんだ?

 異世界でだって勇者になって、正義の名のもとにサンドバック共を粛清しただけだ。
 調子に乗って魔王城に挑んだのがいけなかったのか?
 もっとじっくりと経験値を稼いでいけば……。

 でもそれももう遅い。
 俺もマサトも逮捕されるんだろう。
 これで勇者から犯罪者になるのか……ははっ。

 そうだ。
 これは悪い夢なんだ。
 ほら、腕をつねってみれば痛く……痛いな。

 ああ、今願いが叶うのなら、もう一度あの世界に連れて行って欲しい。
 そうしたら、今度は魔王城以外の地上にいる全てのサンドバック共を経験値に変えてから、魔王をギタギタのメチャクチャに引き裂いてやれるのに。

 こうして、こちらの世界が再びの現実になってしまった俺とマサトは、それぞれ狭い部屋にブチ込まれて、集団生活を強いられる事になったのだった。
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