33 / 63
第1章 育成準備につき、裏で密かに動いていく
33話 ユウトとマサトの災難1
「ーー絶対に許さねぇからな!」
そう言い放った直後、いきなり視界が切り替わって、急に浴びた明るい光に驚いて目を見開く。
目の前にはいつか見た景色が広がっていた。
ここは確か、俺が勇者ユウトとして異世界に来る前に見た最後の場所。
すぐ後ろには、順番待ちの間に立っていなくてもいいようにと設置されている、背もたれの無い椅子。
前方には受付があり、そのすぐ上には番号が示された電光掲示板が天井からぶら下げられている。
横を見れば、少し遠くにある建物の外に繋がる自動ドアと、その脇に設置されている大きな観葉植物。
出入り口のすぐ近くには現金を引き出すための機械が置いてあり、そこには順番待ちをしているだろう人が並んでいた。
そう、ここは銀行だ。
そもそも、どうして銀行にいたんだっけか。
……そうだ。
マサトと一緒にその辺をぶらついていたら、いい感じに気弱そうなやつを見つけたから、少し話しかけてやったら金を貰えることになったんだったか。
それでそいつの肩を組んで銀行に一緒に入って、俺は長椅子に座って2人を待っていたんだったよな。
しばらくしてマサトが金を降ろしたそいつを連れてやってきて、あとは外に連れ出してようやく小遣いゲット!
そんな時だったな。
黒い魔法陣が現れて、俺とマサトが異世界に飛ばされたのは。
おかげでそこから俺の楽しい勇者ライフが始まって、経験値稼ぎに夢中になった。
その甲斐もあってか、冒険者の中でも最強クラスに登りつめた俺の活躍で、もう少しで魔王軍の命運も尽きて、聖女とかいうスキルのせいで強いられていた我慢も、もうすぐ終わり。
エンディングを迎えた後は、魔王を倒した功績で金も女も好き放題の豪遊生活が約束されていた。
そのはずだったのに……。
それがどうしてこうなった?
俺は今、銀行内で注目の的になっていた。
受付の奥にいる職員も、後ろの長椅子に座っているやつら、金を下ろすために並んでるやつら。
全員が全員、例外なく俺を見ていた。
それも恐ろしいものを見るかのような目で。
辺りは静寂に包まれて、誰も声を発することはしなかった。
「は? え? ここって……」
すると、俺のすぐ脇にマサトが急に現れてその静寂を破るが、誰もそれに答えないためにすぐに静寂に逆戻りしてしまう。
それにしてもおかしくはないか?
いや、急に元の世界に戻ったこともそうなんだが。
急に人が現れたことに対して、俺以外からのリアクションが無いのはどういうことだ?
そう思って周りを見渡すと、何故か俺たちを見ている奴らの目が、虚ろと言えばいいのか、生気が失われたかのような目をしていた。
それも短い間だけで、すぐに元の怯えたような目に戻ったが。
どちらにしても状況は変わらない。
これは非常にマズい。
マサトは手にモーニングスターを持っていて、着ている防具も含めて、ブラッディスライムの赤黒い粘液がそれらにこびりついている。
そんな俺も魔法剣に鎧姿だ。
何故かはわからないが、状況から見るにどうやら元の世界に戻ってきてしまったらしい。
しかも異世界に衣類を着たまま送られたように、こっちに戻る時に装備をそのまま持ってきてしまったようだ。
そしてその剣も、今では刀身が黒くなってしまっているが、戦いで炎を出したおかげで赤黒い粘液は焼けてしまったのか、どこにもついていない。
でも鎧にはその赤黒い色のものがびっしりとついていた。
これでは、ここに来るまでに持っている武器で誰かを傷つけてきたヤバい奴にしか見えないぞ……。
マサトはさっきの俺のようにきょろきょろと周りを見回して、ようやく状況を理解したらしい。
「もしかして、俺たち元の世界に戻ったのか?」
「そうみたいだ。だけど、それどころじゃないぞ。それ……」
「え?」
そう言って、武器を指さしたのがいけなかったみたいだ。
マサトがその血にまみれたように見える、トゲのついた武器であるモーニングスターを持っていることに気づいたのか、それを持ち上げてしまう。
その直後だった。
「きゃあああああ! いやああああああ!」
そんな絶叫が辺りに響き渡り始める。
「えっ? えっ? いや、これは違っ」
「おい、逃げるぞ!」
「あ、あ、おう!」
でもそれは結果的に無理だった。
誰かさんが絶叫してくれたおかげで銀行内はパニックになり、出入り口がすし詰め状態になった。
これでは逃げられない。
周りを確認してみたが、どう見ても出入りできるのはあそこの1つだけ。
俺たちは出入り口を呆然と見つめたまま、立ち尽くしていた。
出入り口が通れるようになる頃には、騒ぎを聞いた野次馬たちが集まってきていて、多くの人間がスマホを手にこちらへ向けていた。
どう見ても撮影されている。
これじゃあ逃げたところですぐに見つかってしまうだろう。
よくよく考えれば、銀行にだって防犯カメラはある。
もう手遅れだ。
野次馬の撮影した画像から、おかしな格好をした奴らが事件を起こした。
そんな感じでニュースにでも取り上げられるのだろう。
それから少しして、遠くからサイレンの音がいくつも聞こえ始める。
職員の誰かが防犯ブザーを押して通報したのだろう。
すぐにその音がそばまでやって来て、いつか見た刑事ドラマで聞いたような声が、拡声器を通して聞こえてきた。
『犯人に次ぐ、お前たちは既に包囲されている。ただちに凶器を捨てて投降しろ!』
元々俺たちにここで暴れる気はなかったから、その場で武器を手放した。
異世界に来る前も、ちょっと小遣い稼ぎをしていただけなのに。
何でこんな目にあわないといけないんだ?
異世界でだって勇者になって、正義の名のもとにサンドバック共を粛清しただけだ。
調子に乗って魔王城に挑んだのがいけなかったのか?
もっとじっくりと経験値を稼いでいけば……。
でもそれももう遅い。
俺もマサトも逮捕されるんだろう。
これで勇者から犯罪者になるのか……ははっ。
そうだ。
これは悪い夢なんだ。
ほら、腕をつねってみれば痛く……痛いな。
ああ、今願いが叶うのなら、もう一度あの世界に連れて行って欲しい。
そうしたら、今度は魔王城以外の地上にいる全てのサンドバック共を経験値に変えてから、魔王をギタギタのメチャクチャに引き裂いてやれるのに。
こうして、こちらの世界が再びの現実になってしまった俺とマサトは、それぞれ狭い部屋にブチ込まれて、集団生活を強いられる事になったのだった。
そう言い放った直後、いきなり視界が切り替わって、急に浴びた明るい光に驚いて目を見開く。
目の前にはいつか見た景色が広がっていた。
ここは確か、俺が勇者ユウトとして異世界に来る前に見た最後の場所。
すぐ後ろには、順番待ちの間に立っていなくてもいいようにと設置されている、背もたれの無い椅子。
前方には受付があり、そのすぐ上には番号が示された電光掲示板が天井からぶら下げられている。
横を見れば、少し遠くにある建物の外に繋がる自動ドアと、その脇に設置されている大きな観葉植物。
出入り口のすぐ近くには現金を引き出すための機械が置いてあり、そこには順番待ちをしているだろう人が並んでいた。
そう、ここは銀行だ。
そもそも、どうして銀行にいたんだっけか。
……そうだ。
マサトと一緒にその辺をぶらついていたら、いい感じに気弱そうなやつを見つけたから、少し話しかけてやったら金を貰えることになったんだったか。
それでそいつの肩を組んで銀行に一緒に入って、俺は長椅子に座って2人を待っていたんだったよな。
しばらくしてマサトが金を降ろしたそいつを連れてやってきて、あとは外に連れ出してようやく小遣いゲット!
そんな時だったな。
黒い魔法陣が現れて、俺とマサトが異世界に飛ばされたのは。
おかげでそこから俺の楽しい勇者ライフが始まって、経験値稼ぎに夢中になった。
その甲斐もあってか、冒険者の中でも最強クラスに登りつめた俺の活躍で、もう少しで魔王軍の命運も尽きて、聖女とかいうスキルのせいで強いられていた我慢も、もうすぐ終わり。
エンディングを迎えた後は、魔王を倒した功績で金も女も好き放題の豪遊生活が約束されていた。
そのはずだったのに……。
それがどうしてこうなった?
俺は今、銀行内で注目の的になっていた。
受付の奥にいる職員も、後ろの長椅子に座っているやつら、金を下ろすために並んでるやつら。
全員が全員、例外なく俺を見ていた。
それも恐ろしいものを見るかのような目で。
辺りは静寂に包まれて、誰も声を発することはしなかった。
「は? え? ここって……」
すると、俺のすぐ脇にマサトが急に現れてその静寂を破るが、誰もそれに答えないためにすぐに静寂に逆戻りしてしまう。
それにしてもおかしくはないか?
いや、急に元の世界に戻ったこともそうなんだが。
急に人が現れたことに対して、俺以外からのリアクションが無いのはどういうことだ?
そう思って周りを見渡すと、何故か俺たちを見ている奴らの目が、虚ろと言えばいいのか、生気が失われたかのような目をしていた。
それも短い間だけで、すぐに元の怯えたような目に戻ったが。
どちらにしても状況は変わらない。
これは非常にマズい。
マサトは手にモーニングスターを持っていて、着ている防具も含めて、ブラッディスライムの赤黒い粘液がそれらにこびりついている。
そんな俺も魔法剣に鎧姿だ。
何故かはわからないが、状況から見るにどうやら元の世界に戻ってきてしまったらしい。
しかも異世界に衣類を着たまま送られたように、こっちに戻る時に装備をそのまま持ってきてしまったようだ。
そしてその剣も、今では刀身が黒くなってしまっているが、戦いで炎を出したおかげで赤黒い粘液は焼けてしまったのか、どこにもついていない。
でも鎧にはその赤黒い色のものがびっしりとついていた。
これでは、ここに来るまでに持っている武器で誰かを傷つけてきたヤバい奴にしか見えないぞ……。
マサトはさっきの俺のようにきょろきょろと周りを見回して、ようやく状況を理解したらしい。
「もしかして、俺たち元の世界に戻ったのか?」
「そうみたいだ。だけど、それどころじゃないぞ。それ……」
「え?」
そう言って、武器を指さしたのがいけなかったみたいだ。
マサトがその血にまみれたように見える、トゲのついた武器であるモーニングスターを持っていることに気づいたのか、それを持ち上げてしまう。
その直後だった。
「きゃあああああ! いやああああああ!」
そんな絶叫が辺りに響き渡り始める。
「えっ? えっ? いや、これは違っ」
「おい、逃げるぞ!」
「あ、あ、おう!」
でもそれは結果的に無理だった。
誰かさんが絶叫してくれたおかげで銀行内はパニックになり、出入り口がすし詰め状態になった。
これでは逃げられない。
周りを確認してみたが、どう見ても出入りできるのはあそこの1つだけ。
俺たちは出入り口を呆然と見つめたまま、立ち尽くしていた。
出入り口が通れるようになる頃には、騒ぎを聞いた野次馬たちが集まってきていて、多くの人間がスマホを手にこちらへ向けていた。
どう見ても撮影されている。
これじゃあ逃げたところですぐに見つかってしまうだろう。
よくよく考えれば、銀行にだって防犯カメラはある。
もう手遅れだ。
野次馬の撮影した画像から、おかしな格好をした奴らが事件を起こした。
そんな感じでニュースにでも取り上げられるのだろう。
それから少しして、遠くからサイレンの音がいくつも聞こえ始める。
職員の誰かが防犯ブザーを押して通報したのだろう。
すぐにその音がそばまでやって来て、いつか見た刑事ドラマで聞いたような声が、拡声器を通して聞こえてきた。
『犯人に次ぐ、お前たちは既に包囲されている。ただちに凶器を捨てて投降しろ!』
元々俺たちにここで暴れる気はなかったから、その場で武器を手放した。
異世界に来る前も、ちょっと小遣い稼ぎをしていただけなのに。
何でこんな目にあわないといけないんだ?
異世界でだって勇者になって、正義の名のもとにサンドバック共を粛清しただけだ。
調子に乗って魔王城に挑んだのがいけなかったのか?
もっとじっくりと経験値を稼いでいけば……。
でもそれももう遅い。
俺もマサトも逮捕されるんだろう。
これで勇者から犯罪者になるのか……ははっ。
そうだ。
これは悪い夢なんだ。
ほら、腕をつねってみれば痛く……痛いな。
ああ、今願いが叶うのなら、もう一度あの世界に連れて行って欲しい。
そうしたら、今度は魔王城以外の地上にいる全てのサンドバック共を経験値に変えてから、魔王をギタギタのメチャクチャに引き裂いてやれるのに。
こうして、こちらの世界が再びの現実になってしまった俺とマサトは、それぞれ狭い部屋にブチ込まれて、集団生活を強いられる事になったのだった。
あなたにおすすめの小説
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
治癒魔法で恋人の傷を治したら、「化け物」と呼ばれ故郷から追放されてしまいました
山科ひさき
恋愛
ある日治癒魔法が使えるようになったジョアンは、化け物呼ばわりされて石を投げられ、町から追い出されてしまう。彼女はただ、いまにも息絶えそうな恋人を助けたかっただけなのに。
生きる希望を失った彼女は、恋人との思い出の場所で人生の終わりを迎えようと決める。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜
沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。
数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。