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1−7−04 魔王?

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 ふむ、1つは魔王の……。

「は? 魔王ってあの魔王か?」

「あー、おそらくお主の思う魔王ではないのだが、消された部分がそれに関係した話のようで説明ができんのじゃよ……」

「覚えてないのに、そこが消されたって分かるのはどういうことだ」

 消されたのだとしたら、消されたことすら分からないんじゃないのか?

「証拠はある。あちらに戻ったらリーフに見せてもらうとよい」

「治療院に、あるよ」

 証拠ねぇ。
 何が出てくるやら。

「それでじゃな。長寿種、エルフといった寿命の長い種族が罹っている老化の原因が、まおうに関係しているということだけは覚えていたのでな。それが重要なことであるのは確かじゃの」

 あの見た目と年齢が違う、ややこしいやつか。
 まおうを復活させれば治るのか?
 関係性が見えないんだが。

「それで、復活ってどうするんだ?」

「それも覚えてなくての。じゃが、もう1つの話に関係しているはずじゃ。言うまでもないが、あの虹の柱の発生を未然に防ぐことじゃの」

 わからないことだらけだな。
 こんなんで本当に大丈夫なのか?

「原因もわからないのか?」

「いや、それについてはもうわかっておる。エルヴンヘッドの精霊研究所にある、精霊兵器の暴発が原因じゃ」

 精霊兵器ね。
 世界が違っていても、下手に知能があるとやることは同じってか。

「おそらく、その兵器の中に、まおうの復活に必要な何かが組み込まれていると思うのじゃ。何せ、リンクした世界まで巻き込んで滅ぼせるものなど、そうそうないからの」

「とりあえず、その精霊兵器ってのをどうにかすればいいんだな?」

「そうじゃ。今回は初日に戻って、まずはギルドで、お主が追われる原因になった精霊器を受付で見せて、リースと合流するのじゃ」

 白い端末のことか。
 何で追われたのか、大分繋がってきたな。
 それに……。

「初日ってことは、他の連中の記憶は」

「すまんの」

 忘れられてる、か。
 また話せるようになるだろうか。
 それにしても、きっちり一週間前にしか戻せないのだろうか。

「7日前にしか戻せないのか?」

「お主とリーフが近くにいる時間帯であれば戻せるのじゃが、今回は遅すぎたのじゃ」

「そうか」

 戻れる時間は虹の光が迫ってきた時だから、既に手遅れ……か。

「ついでに聞くけど、リースって子はこの件とどんな関係が?」

「うむ、そこにいるリーフの契約主じゃの。これからお主と共に行動することになるエルフの娘じゃ」

 そうして、クロノスが杖を取り出す。

「さて、それでは時を戻すとするかの。……よいせっと。ついてくるがよい」

 立ち上がったクロノスについていき、部屋の扉をくぐると、外と思われる場所に出た。
 そこは、夜のように暗いが薄明かりに満たされているおかげで、ある程度は周りの様子が見えるみたいだ。

 明かりを頼りに辺りを見回すが、ただひたすらに草原が広がっていて、今出てきた建物以外は何もない。
 しかも、生えている草は透明ときた。
 俺に周りの様子を教えてくれている薄明かりは、無数に漂っている小さな光の塊のようだが。

「なあ、この浮かんでる光の粒はなんだ?」

「それは幼精霊じゃ、成長するとわしやリーフのように形を持つようになるの。もっとも、そうなるのは極一部の幼精霊だけじゃがの」

 これが全部精霊なのか。
 そして、空には精霊と言うよりは、星のような小さな明かりが無数にあって、その1つ1つがここまでほのかに光を届けていた。

「あの上に見えるのが、滅びた世界の成れの果てじゃ」

「あれが……」

 クロノスが指し示す先には、周りにある星とは明らかに異物に見える、とてつもなく巨大な黒の球体が浮かんでいた。
 あれがさっきまで居た異世界だというのか。

「では戻すぞ。……ふんっ」

 クロノスが杖を振ると、黒い球体が再び虹色に包まれて、逆再生するかのようにエルヴンヘッドを中心に収束していく。
 同時に、虹色の境目から外側に向かって世界が修復されていく様子が見えて、最後には元あった星と思われる状態へと戻っていった。

「分かっていると思うが、お主自身の記憶はそのままじゃ。他にも所持したものも含み、今のままやり直すことになるからの」

 要は、装備とか金を持ち越してやり直せるってことか。
 それはありがたい。

「さて、仕上げにリーフよ」

「うん、任せて」

 後ろから飛んでついてきていたリーフが、俺の首元から潜り込んで何かをしている。

「何をしているんだ?」

「タグ情報の上書きじゃの。お主がこなした依頼などを、不審がられぬように改変する。次にギルドへ行った時に、他の国から来たと言えば、更新を問題なく行えるはずじゃ」

 話を聞いていると、リーフが飛び出てきた。

「それじゃ、先に戻るね。コハク、また後でね」

「ああ、またな」

 出てくるなりそう言葉を交わすと、かき消えるようにして姿が見えなくなった。
 どうやら、元の世界に戻っていったようだが。

「お主も、初日の始まりの森にたどり着いた時間に戻るからの。よろしく頼むのじゃ」

「それについてだが、最後に聞いていいか」

「なんじゃ」

「何で転生させてまで呼んだのが俺なんだ?」

「……すまん。それも思い出せないのじゃ」

 つまり、まおうに関連した何かってことか。
 思い出せない、というのが嘘でなければだが。
 全部が本当の事なのかどうか、俺には分からないからな。

 言われたままに行動して結果とんでもない事になる、なんてのは勘弁だし。
 まずはこの状況に対処しつつ、色々と調べて情報集めと行くか。

「ならいい。まあ、やれるだけのことはやってみるさ」

「うむ。また何かあれば、ここ【精霊域せいれいいき】に招くからの」

 クロノスが杖をこちらに向けると、リィンと白い端末から音が鳴る。
 来た時と同じ様に、ヒビの割れる音と共に目の前に亀裂が走り、黒い空間が口を開けた。

「ああ。じゃあなクロノスの爺さん」

 俺はそこへ飛び込んで、異世界へと戻っていった。
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