18 / 20
第十八話 海の追憶(ついおく)
しおりを挟む「あうー」
モクの腕に大切に抱かれた赤子は、椿の花の蜜を吸いにきたメジロに興味しんしんでした。
「モナカはメジロが好きなんだよな。もうすぐ木彫りのメジロの人形も完成するよ」
メジロに蜜を吸われていた椿の花がポタッと地面に落ちました。
モクは、その椿の花を見つめながら、妻への後悔を思い出していました。
どんな酷い仕打ちにも黙って耐え続けていた気丈な妻が、たった二回だけ泣き崩れたことがありました。
一回目は、父親を病気で亡くした時でした。
二回目は、大切にしていた一枚の絵を取り上げられ、海へ向かって破り捨てられた時でした。
(……おそらくルイの想い人が描いたんだろう。どこか懐かしく胸をしめつけられる気分になる絵だった)
「うあああん」
「よしよし。腹が減ったのか。母さんのところへ戻ろう」
家に戻ると、ルイが愛おしげにモナカを抱きしめます。
モクは、そんな妻と息子の隣で、木彫りのメジロの完成を目指します。
肌寒くなる秋の季節、モクとルイは茫然自失の状態で、眠っているように見えるモナカを見つめていました。
やがてルイが、モナカを優しく抱きかかえると歩き出します。モクは、しばらくの間、その様子を無感情のまま眺めていました。すると自分から去っていくルイの後ろ姿が知らない誰かと重なりました。
その瞬間、モクは慌てて、自分が肌身はなさずつけていた紫水晶の勾玉の首飾りを外すとルイの首にかけました。
ルイは、それに気づいてないかのように虚ろな瞳で歩いて行ってしまいます。
一人ぼっちになった家で、モクがモナカのために作った木彫りのメジロをボンヤリと見つめていました。
何日も食事を摂っておらず、ほとんど眠ることができなくなっており、体は弱り切っていました。
満月の夜のことです。周りに赤い霧が立ちこめ、何かが這いずる音が聞こえてきました。
その何かは、銀の長い髪だけを残して骨だけになったミヅハでした。
行き場のない怨念に精神を蝕まれ続けており、人を呪い殺した分だけ不思議な力が強くなる化け物になっていました。
何やらモクに近付こうとする自分を必死で抑えようとしている様子です。
そして再生してしまう己の体を躯の状態のままで時を止めようとしているようでした。
なぜかモクの瞳には、ミヅハの行動がそのように見えていました。
『モクを殺したくない。逃げてくれ』
ミヅハの声にならない叫びが聞こえます。その瞬間、モクは全てを思い出しました。
(オレを殺したら、もうミヅハは完全に自我を失ってしまう気がする。ここまで心が壊れた理由とオレのところに来た理由は、きっと一緒なんだな)
(……ルイが死んだんだ。今、どうしてか分からないけど分かってしまった)
モクが嗚咽しながら、ゆっくり立ち上がるとミヅハに声をかけます。
「ミヅハ、久しぶりに追いかけっこで遊ぼう。ルイのいる場所まで、お前が逃げきったら勝ち……。つかまったら負け……」
それを聞いたミヅハは、了承したようにズルズルと這いずりながら進みます。
モクもフラフラの体でミヅハを追いかけます。
昔いっしょに遊んだ場所を通るたびに、二人の笑い声が聞こえた気がしました。
やがて、湖の前でミヅハが止まります。後ろを振り向くとモクはいませんでした。
「お前の勝ちだよ。モクは、もう……」
ミヅハの目の前に急に現れた銀色の髪と紫の瞳の少年が悲しそうに言いました。
「もう終わりにしましょう。これ以上、人間を呪い殺さないために」
少年の隣にいた銀色の髪と紫の瞳の少女が悲しそうに言いました。
驚いたミヅハは、二人を呪い殺そうと襲いかかります。
「やれやれ、まるで獣だな。檻が必要だ。まったく自分で作った存在すら理解できてないなんて」
「仕方がないわ。ミヅハも所詮、ただの人間の子どもよ。心が壊れてもしょうがない状況だもの」
銀色の髪の少年と少女がミヅハの力を奪っていきます。
ミヅハは力が枯渇してしまうとバラバラと崩れて動かなくなりました。
「ふー、満腹満腹。これで十九年間は大人しくしてるはず」
「でも、また十九年後、この満月から力をもらったミヅハが元通りに復活してしまうのよね」
「ああ。そして力が戻ったミヅハの力を僕らが吸い取って力にする。それを十九年毎に繰り返し続ける。途方もない話だね~」
「ねえ、ミヅハの力の分身と紫水晶の勾玉が合体した存在の少年さんに聞きたいことがあるんだけど」
「まてまて、呼び名が長い。適当に名前を決めよう」
「分かったわ。じゃあ、私は満月です」
「即決すぎない? それにしてもミヅキって……」
「だって私たち、月の力で存在してるし」
「でもさ、月の力のせいで、こんな面倒なことになってるから、月はキライだな~。よし決めた。ボクは陽にするか」
「ふーん。まあ、いいんじゃない。……さっそくだけどヨウさん。モクのお墓を作ってあげてもいいかしら。あのまま野ざらしは可哀想だもの」
「そうだな。奥さんと息子は、これからボクの妻と子どもになる。一緒に眠らせてあげられないから丁重に弔ってあげよう」
0
あなたにおすすめの小説
まぼろしのミッドナイトスクール
木野もくば
児童書・童話
深夜0時ちょうどに突然あらわれる不思議な学校。そこには、不思議な先生と生徒たちがいました。飼い猫との最後に後悔がある青年……。深い森の中で道に迷う少女……。人間に恋をした水の神さま……。それぞれの道に迷い、そして誰かと誰かの想いがつながったとき、暗闇の空に光る星くずの方から学校のチャイムが鳴り響いてくるのでした。
二十五時の来訪者
木野もくば
ライト文芸
とある田舎町で会社員をしているカヤコは、深夜に聞こえる鳥のさえずりで目を覚ましてしまいます。
独特でおもしろい鳴き声が気になりベランダから外を眺めていると、ちょっとしたハプニングからの出会いがあって……。
夏が訪れる少し前の季節のなか、深夜一時からの時間がつむぐ、ほんのひと時の物語です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる