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Mission7: 医学を広めよ
第3話 道具の整備
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狩りで負傷した若者を救った翌日、悠真は朝から村の広場に村人を集めた。彼の顔は疲労で青白いものの、その眼は鋭い光を放っていた。
「昨日の怪我人は助かったが……次も同じように救えるとは限らない。なぜか分かるか?」
沈黙。子供が不安げに母親の服を握る。村人たちは互いに顔を見合わせるだけだった。
「道具がなかったからだ。運よく俺が知識を持っていただけだ。もし俺が不在だったら? 祈祷だけで、あの傷は塞がったと思うか?」
村人たちの背筋に冷たいものが走った。昨夜の光景――血にまみれた青年と、必死に処置を施す悠真の姿が脳裏に蘇る。
悠真は血に染まった布切れを掲げた。
「これは昨日使った布だ。これをそのまま次の怪我人に使えば、どうなると思う?」
「……また病が広がる」ユナが小さな声で答える。
「そうだ。だから布は清める必要がある」
悠真は大鍋に水を入れ、火にかける。ぐつぐつと音を立て始めたところで布を投入する。村人たちから驚きの声が上がる。
「布を……煮るのか?」
「そんなことをしても、布が駄目になるだけだろう」
だが、煮沸を終えた布を取り出すと、血の臭いは和らぎ、布地もまだ使える状態だった。悠真はそれを手に持ち、力強く言った。
「火と水で清める。これが“消毒”だ。これで昨日の血はただの汚れに過ぎなくなる」
次に悠真は木片を取り出し、腰の小刀で削り始めた。カンカン、と音を立てながら形を整えていく。
「これは舌圧子だ。口の中を診るときに舌を押さえる。これは薬を塗るためのへら。そしてこれは傷を広げて見るためのピンセット代わりだ」
村人たちは息を呑んだ。木の棒が、次々と“医療器具”へと姿を変えていくのだ。
「ただの木でそんなものが……!」
「魔法みたいだ……」
驚きと畏怖の声があがる中、悠真は削り終えた器具を再び鍋に放り込んだ。
「清潔にしなきゃ意味がない。血や膿がついたら、それが命を奪う毒になるんだ」
さらに悠真は太い木の枝を加工し、副木を作った。折れた腕や足を固定するためのものだ。
「これで動かさなければ、骨が自然にくっつくこともある」
石を組み合わせて小さな臼を作り、薬草をすり潰して見せる。青い葉が粉となり、香りが広場に広がった。
「これは消毒薬や痛み止めになる。臼と杵があれば、薬も作れる」
村人たちは初めて“治療の道具”という概念を知り、その目は真剣に輝いていた。
布、木製器具、副木、薬草臼。
悠真はそれらを布袋にまとめ、共有倉庫の中に置いた。
「これが“治療袋”だ。誰でも使えるように村の共有倉庫に置く。命を守るために、全員が使い方を覚えろ」
沈黙の後、年配の男が感嘆したように呟いた。
「……ただの布や木が、命を救う宝に見える」
その言葉に他の村人も頷き、子供たちは袋を覗き込んで興味津々の表情を浮かべた。
悠真は最後にこう言った。
「道具があれば助けられる命がある。逆に、道具がなければ助からない命もある。だから俺たちは、必ず準備をしておかなきゃならないんだ」
昨日助かった青年の母親が、人目も憚らず涙を流しながら悠真に頭を下げた。
「ありがとうございます……あの子を救ってくださって……」
その姿は村人たちの胸を打ち、彼らは深く理解した――医学は祈りではなく、知恵と道具によって成り立つのだと。
ある日医療セットが完成し防衛戦の勝利にも沸いていた村に、再び暗い影が忍び寄った。
最初は一人の子供だった。高熱にうなされ、咳を繰り返し、食欲もなく床に伏せる。その数日後には老人も倒れ、さらに別の家からも咳き込みの声が響き始めた。
「うちの子も熱が下がらないんだ!」
「隣の婆さんも寝込んじまった!」
広場に集まった村人たちは口々に訴え、やがて不安は恐怖に変わっていった。
「これは魔物の祟りだ!」
「血を流したから神が怒ったんだ!」
祈祷をするべきだと声を上げる者まで現れ、村は再び混乱に包まれる。
悠真は人垣を割って進み出た。
「落ち着け! これは祟りでも呪いでもない。病は“人から人へ”と広がるんだ」
その言葉に村人はざわつき、ある男が叫んだ。
「馬鹿な! 病は神が与える試練だろう!」
悠真は強い口調で否定する。
「違う! 同じ部屋で寝れば、同じ器で食べれば、病は移る。俺の国では当たり前のことだ」
その真剣な眼差しに、迷信に縋ろうとしていた人々は言葉を失った。
悠真は咳き込む子供を見て、母親に言った。
「この子は別の小屋に移して寝かせろ。家族と一緒にいれば、全員が倒れる」
「そんな……あの子を一人にするなんて!」
母親は涙を浮かべて首を振る。しかし悠真は静かに言葉を重ねた。
「一人を守ろうとして十人を失うか、それとも一人を離して十人を守るか。選ぶのはあんたたちだ」
その冷徹とも思える言葉に、場の空気が凍りついた。だがやがて村長が重々しく頷いた。
「……分かった。隔離しよう」
こうして病人を収容する仮小屋が急ごしらえで建てられ、数人の看護役が決められた。
次に悠真は病人の衣服や寝具を大鍋に放り込み、水を張って火にかけた。
「汚れた布は病を運ぶ。火と水で煮沸すれば清められる」
ぐつぐつと煮立つ湯気が立ち昇り、村人たちは不安げにそれを見つめる。
ユナが率先して布を干し場に並べると、子供たちも一緒に手伝い始めた。
「これならまた安心して使えるんだよ」
その笑顔に、大人たちの表情も少し和らいだ。
さらに悠真は器や食器も同様に煮沸するよう指示する。
「病人の使った椀をそのまま別の人間が使えば、病も一緒に口に入る。必ず煮沸してから使え」
隔離と煮沸を徹底してから数日。新たに発症する者は徐々に減り、寝込んでいた子供や老人の熱も次第に下がっていった。
「熱が……下がった!」
「咳も和らいできたぞ!」
喜びの声が村に広がり、緊張に縛られていた心が少しずつ解きほぐされていく。
村人たちの前で、悠真ははっきりと言った。
「祈っても病は消えない。だが知恵と工夫で広がりを止められる。これからも“隔離”と“清潔”を守り続ければ、同じ災厄を防げる」
涙を浮かべながら感謝を伝える者、深々と頭を下げる者。村人たちはようやく理解したのだ。病は呪いではなく、対処すべき現実だと。
「昨日の怪我人は助かったが……次も同じように救えるとは限らない。なぜか分かるか?」
沈黙。子供が不安げに母親の服を握る。村人たちは互いに顔を見合わせるだけだった。
「道具がなかったからだ。運よく俺が知識を持っていただけだ。もし俺が不在だったら? 祈祷だけで、あの傷は塞がったと思うか?」
村人たちの背筋に冷たいものが走った。昨夜の光景――血にまみれた青年と、必死に処置を施す悠真の姿が脳裏に蘇る。
悠真は血に染まった布切れを掲げた。
「これは昨日使った布だ。これをそのまま次の怪我人に使えば、どうなると思う?」
「……また病が広がる」ユナが小さな声で答える。
「そうだ。だから布は清める必要がある」
悠真は大鍋に水を入れ、火にかける。ぐつぐつと音を立て始めたところで布を投入する。村人たちから驚きの声が上がる。
「布を……煮るのか?」
「そんなことをしても、布が駄目になるだけだろう」
だが、煮沸を終えた布を取り出すと、血の臭いは和らぎ、布地もまだ使える状態だった。悠真はそれを手に持ち、力強く言った。
「火と水で清める。これが“消毒”だ。これで昨日の血はただの汚れに過ぎなくなる」
次に悠真は木片を取り出し、腰の小刀で削り始めた。カンカン、と音を立てながら形を整えていく。
「これは舌圧子だ。口の中を診るときに舌を押さえる。これは薬を塗るためのへら。そしてこれは傷を広げて見るためのピンセット代わりだ」
村人たちは息を呑んだ。木の棒が、次々と“医療器具”へと姿を変えていくのだ。
「ただの木でそんなものが……!」
「魔法みたいだ……」
驚きと畏怖の声があがる中、悠真は削り終えた器具を再び鍋に放り込んだ。
「清潔にしなきゃ意味がない。血や膿がついたら、それが命を奪う毒になるんだ」
さらに悠真は太い木の枝を加工し、副木を作った。折れた腕や足を固定するためのものだ。
「これで動かさなければ、骨が自然にくっつくこともある」
石を組み合わせて小さな臼を作り、薬草をすり潰して見せる。青い葉が粉となり、香りが広場に広がった。
「これは消毒薬や痛み止めになる。臼と杵があれば、薬も作れる」
村人たちは初めて“治療の道具”という概念を知り、その目は真剣に輝いていた。
布、木製器具、副木、薬草臼。
悠真はそれらを布袋にまとめ、共有倉庫の中に置いた。
「これが“治療袋”だ。誰でも使えるように村の共有倉庫に置く。命を守るために、全員が使い方を覚えろ」
沈黙の後、年配の男が感嘆したように呟いた。
「……ただの布や木が、命を救う宝に見える」
その言葉に他の村人も頷き、子供たちは袋を覗き込んで興味津々の表情を浮かべた。
悠真は最後にこう言った。
「道具があれば助けられる命がある。逆に、道具がなければ助からない命もある。だから俺たちは、必ず準備をしておかなきゃならないんだ」
昨日助かった青年の母親が、人目も憚らず涙を流しながら悠真に頭を下げた。
「ありがとうございます……あの子を救ってくださって……」
その姿は村人たちの胸を打ち、彼らは深く理解した――医学は祈りではなく、知恵と道具によって成り立つのだと。
ある日医療セットが完成し防衛戦の勝利にも沸いていた村に、再び暗い影が忍び寄った。
最初は一人の子供だった。高熱にうなされ、咳を繰り返し、食欲もなく床に伏せる。その数日後には老人も倒れ、さらに別の家からも咳き込みの声が響き始めた。
「うちの子も熱が下がらないんだ!」
「隣の婆さんも寝込んじまった!」
広場に集まった村人たちは口々に訴え、やがて不安は恐怖に変わっていった。
「これは魔物の祟りだ!」
「血を流したから神が怒ったんだ!」
祈祷をするべきだと声を上げる者まで現れ、村は再び混乱に包まれる。
悠真は人垣を割って進み出た。
「落ち着け! これは祟りでも呪いでもない。病は“人から人へ”と広がるんだ」
その言葉に村人はざわつき、ある男が叫んだ。
「馬鹿な! 病は神が与える試練だろう!」
悠真は強い口調で否定する。
「違う! 同じ部屋で寝れば、同じ器で食べれば、病は移る。俺の国では当たり前のことだ」
その真剣な眼差しに、迷信に縋ろうとしていた人々は言葉を失った。
悠真は咳き込む子供を見て、母親に言った。
「この子は別の小屋に移して寝かせろ。家族と一緒にいれば、全員が倒れる」
「そんな……あの子を一人にするなんて!」
母親は涙を浮かべて首を振る。しかし悠真は静かに言葉を重ねた。
「一人を守ろうとして十人を失うか、それとも一人を離して十人を守るか。選ぶのはあんたたちだ」
その冷徹とも思える言葉に、場の空気が凍りついた。だがやがて村長が重々しく頷いた。
「……分かった。隔離しよう」
こうして病人を収容する仮小屋が急ごしらえで建てられ、数人の看護役が決められた。
次に悠真は病人の衣服や寝具を大鍋に放り込み、水を張って火にかけた。
「汚れた布は病を運ぶ。火と水で煮沸すれば清められる」
ぐつぐつと煮立つ湯気が立ち昇り、村人たちは不安げにそれを見つめる。
ユナが率先して布を干し場に並べると、子供たちも一緒に手伝い始めた。
「これならまた安心して使えるんだよ」
その笑顔に、大人たちの表情も少し和らいだ。
さらに悠真は器や食器も同様に煮沸するよう指示する。
「病人の使った椀をそのまま別の人間が使えば、病も一緒に口に入る。必ず煮沸してから使え」
隔離と煮沸を徹底してから数日。新たに発症する者は徐々に減り、寝込んでいた子供や老人の熱も次第に下がっていった。
「熱が……下がった!」
「咳も和らいできたぞ!」
喜びの声が村に広がり、緊張に縛られていた心が少しずつ解きほぐされていく。
村人たちの前で、悠真ははっきりと言った。
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