『三度目の滅びを阻止せよ ―サラリーマン係長の異世界再建記―』

KAORUwithAI

文字の大きさ
43 / 188
Mission7: 医学を広めよ

第3話 道具の整備

しおりを挟む
狩りで負傷した若者を救った翌日、悠真は朝から村の広場に村人を集めた。彼の顔は疲労で青白いものの、その眼は鋭い光を放っていた。

 「昨日の怪我人は助かったが……次も同じように救えるとは限らない。なぜか分かるか?」

 沈黙。子供が不安げに母親の服を握る。村人たちは互いに顔を見合わせるだけだった。

 「道具がなかったからだ。運よく俺が知識を持っていただけだ。もし俺が不在だったら? 祈祷だけで、あの傷は塞がったと思うか?」

 村人たちの背筋に冷たいものが走った。昨夜の光景――血にまみれた青年と、必死に処置を施す悠真の姿が脳裏に蘇る。

悠真は血に染まった布切れを掲げた。

 「これは昨日使った布だ。これをそのまま次の怪我人に使えば、どうなると思う?」

 「……また病が広がる」ユナが小さな声で答える。

 「そうだ。だから布は清める必要がある」

 悠真は大鍋に水を入れ、火にかける。ぐつぐつと音を立て始めたところで布を投入する。村人たちから驚きの声が上がる。

 「布を……煮るのか?」
 「そんなことをしても、布が駄目になるだけだろう」

 だが、煮沸を終えた布を取り出すと、血の臭いは和らぎ、布地もまだ使える状態だった。悠真はそれを手に持ち、力強く言った。

 「火と水で清める。これが“消毒”だ。これで昨日の血はただの汚れに過ぎなくなる」

 次に悠真は木片を取り出し、腰の小刀で削り始めた。カンカン、と音を立てながら形を整えていく。

 「これは舌圧子だ。口の中を診るときに舌を押さえる。これは薬を塗るためのへら。そしてこれは傷を広げて見るためのピンセット代わりだ」

 村人たちは息を呑んだ。木の棒が、次々と“医療器具”へと姿を変えていくのだ。

 「ただの木でそんなものが……!」
 「魔法みたいだ……」

 驚きと畏怖の声があがる中、悠真は削り終えた器具を再び鍋に放り込んだ。

 「清潔にしなきゃ意味がない。血や膿がついたら、それが命を奪う毒になるんだ」

さらに悠真は太い木の枝を加工し、副木を作った。折れた腕や足を固定するためのものだ。
 「これで動かさなければ、骨が自然にくっつくこともある」

 石を組み合わせて小さな臼を作り、薬草をすり潰して見せる。青い葉が粉となり、香りが広場に広がった。

 「これは消毒薬や痛み止めになる。臼と杵があれば、薬も作れる」

 村人たちは初めて“治療の道具”という概念を知り、その目は真剣に輝いていた。

布、木製器具、副木、薬草臼。
 悠真はそれらを布袋にまとめ、共有倉庫の中に置いた。

 「これが“治療袋”だ。誰でも使えるように村の共有倉庫に置く。命を守るために、全員が使い方を覚えろ」

 沈黙の後、年配の男が感嘆したように呟いた。
 「……ただの布や木が、命を救う宝に見える」

 その言葉に他の村人も頷き、子供たちは袋を覗き込んで興味津々の表情を浮かべた。

悠真は最後にこう言った。
 「道具があれば助けられる命がある。逆に、道具がなければ助からない命もある。だから俺たちは、必ず準備をしておかなきゃならないんだ」

 昨日助かった青年の母親が、人目も憚らず涙を流しながら悠真に頭を下げた。
 「ありがとうございます……あの子を救ってくださって……」

 その姿は村人たちの胸を打ち、彼らは深く理解した――医学は祈りではなく、知恵と道具によって成り立つのだと。

ある日医療セットが完成し防衛戦の勝利にも沸いていた村に、再び暗い影が忍び寄った。
 最初は一人の子供だった。高熱にうなされ、咳を繰り返し、食欲もなく床に伏せる。その数日後には老人も倒れ、さらに別の家からも咳き込みの声が響き始めた。

 「うちの子も熱が下がらないんだ!」
 「隣の婆さんも寝込んじまった!」

 広場に集まった村人たちは口々に訴え、やがて不安は恐怖に変わっていった。

 「これは魔物の祟りだ!」
 「血を流したから神が怒ったんだ!」

 祈祷をするべきだと声を上げる者まで現れ、村は再び混乱に包まれる。

悠真は人垣を割って進み出た。
 「落ち着け! これは祟りでも呪いでもない。病は“人から人へ”と広がるんだ」

 その言葉に村人はざわつき、ある男が叫んだ。
 「馬鹿な! 病は神が与える試練だろう!」

 悠真は強い口調で否定する。
 「違う! 同じ部屋で寝れば、同じ器で食べれば、病は移る。俺の国では当たり前のことだ」

 その真剣な眼差しに、迷信に縋ろうとしていた人々は言葉を失った。

悠真は咳き込む子供を見て、母親に言った。
 「この子は別の小屋に移して寝かせろ。家族と一緒にいれば、全員が倒れる」

 「そんな……あの子を一人にするなんて!」
 母親は涙を浮かべて首を振る。しかし悠真は静かに言葉を重ねた。
 「一人を守ろうとして十人を失うか、それとも一人を離して十人を守るか。選ぶのはあんたたちだ」

 その冷徹とも思える言葉に、場の空気が凍りついた。だがやがて村長が重々しく頷いた。
 「……分かった。隔離しよう」

 こうして病人を収容する仮小屋が急ごしらえで建てられ、数人の看護役が決められた。

次に悠真は病人の衣服や寝具を大鍋に放り込み、水を張って火にかけた。
 「汚れた布は病を運ぶ。火と水で煮沸すれば清められる」

 ぐつぐつと煮立つ湯気が立ち昇り、村人たちは不安げにそれを見つめる。
 ユナが率先して布を干し場に並べると、子供たちも一緒に手伝い始めた。
 「これならまた安心して使えるんだよ」
 その笑顔に、大人たちの表情も少し和らいだ。

 さらに悠真は器や食器も同様に煮沸するよう指示する。
 「病人の使った椀をそのまま別の人間が使えば、病も一緒に口に入る。必ず煮沸してから使え」

隔離と煮沸を徹底してから数日。新たに発症する者は徐々に減り、寝込んでいた子供や老人の熱も次第に下がっていった。

 「熱が……下がった!」
 「咳も和らいできたぞ!」

 喜びの声が村に広がり、緊張に縛られていた心が少しずつ解きほぐされていく。

村人たちの前で、悠真ははっきりと言った。
 「祈っても病は消えない。だが知恵と工夫で広がりを止められる。これからも“隔離”と“清潔”を守り続ければ、同じ災厄を防げる」

 涙を浮かべながら感謝を伝える者、深々と頭を下げる者。村人たちはようやく理解したのだ。病は呪いではなく、対処すべき現実だと。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI
ファンタジー
ゲーム三昧の毎日を送る元ニート、佐々木二郎。  ある夜、三度目のゲームオーバーで眠りに落ちた彼が目を覚ますと、そこは見たこともない広大な草原だった。  剣と魔法が当たり前に存在する世界。だが二郎には、そのどちらの才能もない。  ――代わりに与えられていたのは、**「自分が見た・聞いた・触れたことのあるものなら“召喚”できる」**という不思議な能力だった。  面倒なことはしたくない、楽をして生きたい。  そんな彼が、偶然出会ったのは――痩せた辺境・アセトン村でひとり生きる少女、レン。  「逃げて!」と叫ぶ彼女を前に、逃げようとした二郎の足は動かなかった。  昔の記憶が疼く。いじめられていたあの日、助けを求める自分を誰も救ってくれなかったあの光景。  ……だから、今度は俺が――。  現代の知恵と召喚の力を武器に、ただの元ニートが異世界を駆け抜ける。  少女との出会いが、二郎を“召喚者”へと変えていく。  引きこもりの俺が、異世界で誰かを救う物語が始まる。 ※こんな物も召喚して欲しいなって 言うのがあればリクエストして下さい。 出せるか分かりませんがやってみます。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

処理中です...