『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第3話 出発準備の勇者

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王城の会議が終わると、重臣たちは次々に散会した。
 大理石の廊下には、甲冑を鳴らす兵士の列と、憤懣やるかたない声が残響のように漂っている。

「勇者とは名ばかりだな……」
「民草の不安を前に、あの態度……」

 低く漏れる愚痴を、悠は聞いていないようで聞いていた。
 だが、彼は気にする様子もなく大きな欠伸をひとつして、リオネルの後に続いた。

「勇者様、こちらです」

 若き騎士リオネルは真面目な顔のまま、悠を客間へと案内した。
 廊下の窓からは冬の光が差し込み、石床に長い影を落としている。

「出発は明朝。馬車と物資はすでに手配済みです。護衛には兵士十名を――」

「十名?」
 悠は即座に口を挟んだ。

「多いと歩くの遅くなるだろ。俺、そういうの嫌なんだよ」

「ですが、鉱山都市までの道は危険です。野盗、魔物、そして……」

「却下」

 悠は片手をひらひらさせ、リオネルの説明を遮った。
「どうせ敵が出ても俺が片付けるんだし。だったら二人の方が早い。ついてくるやつが多いと、逆に面倒」

 リオネルは苦渋の表情を浮かべ、唇を噛んだ。
「……分かりました。最低限の人数に絞ります」

「そうそう。それでいい」

 案内された客間は、厚手の絨毯が敷かれ、四柱式のベッドが鎮座する贅沢な空間だった。
 悠は部屋に入るなり靴を脱ぎ捨て、毛布に潜り込む。

「ふぅ……やっと横になれた。会議って、なんであんなに長いんだろうな」

 リオネルは必死に堪えてから声を発した。
「では、装備の確認をお願いします。剣、防具、盾、そして予備の矢と――」

「面倒だから要らん」

「は……?」

「剣も鎧も重い。盾なんか持ったら片手塞がるだろ。俺、荷物は軽いのがいいんだよ」

 リオネルは頭を抱えた。常識的には装備は必須だ。だが、この男が本気を出せば素手で魔王軍幹部すら叩き伏せることを、彼自身が知っていた。

「……せめて魔除けの護符と、短剣だけは」
「まぁ、それくらいなら」

 悠はうなずき、再びベッドに寝転がる。

「次は食料の確認です。干し肉、黒パン、保存用の豆――」

「硬いの嫌。歯が疲れる」

「えっ……」

「柔らかいパンとか、果物とか。あと甘いの。疲れが取れるから」

 リオネルは深いため息を吐き、侍女たちに指示を飛ばす。
 柔らかい白パン、ドライフルーツ、蜂蜜漬けの菓子。保存は効きにくいが、勇者の機嫌を損ねるよりはましだ。

「寝具は……」
「毛布厚めで。匂い付きはダメ。眠れなくなる」

「……分かりました」

 やがて侍女が衣を抱えて戻ってきた。
 それは金糸で縁取られた儀礼用の鎧布、宝石をあしらった胸当て、羽飾りの付いた靴、鮮やかな赤のマント。

「勇者様のために仕立てた特別なお召し物でございます」

 悠はちらりと見て、即答した。

「重いの嫌。暑苦しいのも嫌」

 そう言って毛布を頭までかぶる。

 侍女は言葉を失い、リオネルは額に手を当てて天を仰いだ。

「勇者様は……やはり勇者様だ」

 呆れとも諦めともつかぬ声に、侍女たちが小さく笑みを漏らす。

 リオネルはふと勇者を見やった。ベッドで毛布に包まり、静かに寝息を立て始めている。
 その姿は、英雄というよりただの怠け者に見える。
 だが彼は知っていた。この男こそが、魔王軍すら生け捕りにする力を持つ存在であることを。

「……本当に、この方が王国を救うのだろうか」

 リオネルは胸中で呟き、すぐにかぶりを振った。
 信じなければならない。自分が補佐に選ばれたのは偶然ではない。

 夜が更ける。外では冬の風が城壁を渡り、衛兵の交代の声が響いた。
 出発の朝はすぐそこまで来ていた。
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