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七将編(剛腕将軍グラドン)
第4話 王城を発つ勇者
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まだ日も昇りきらぬ早朝、王城の正門前は異様な熱気に包まれていた。
冬の冷たい風が吹き抜けるにもかかわらず、そこに立つ者たちの頬は赤らみ、瞳は熱を帯びている。
漆黒に塗られた馬車が石畳の中央に据えられ、その横には大柄な軍馬が静かに鼻を鳴らしていた。車輪には王国の紋章が刻まれ、御者台には熟練の御者が控えている。
整列した兵士たちは鋼の鎧に身を包み、一糸乱れぬ動作で剣を掲げた。その金属音が朝の空気を鋭く切り裂き、場の緊張感をさらに引き締める。
「……来るぞ!」
誰かの声を合図に、城門前に集まった市民がざわめいた。
商人、職人、農民、子どもに老人――王都のあらゆる者が「勇者を見よう」と詰めかけていた。
中には、勇者の姿を一目見るために地方から夜通し歩いてきた者までいるらしい。
「勇者様が……本物の勇者様が!」
「魔王軍の男を捕らえたって話、本当だったんだな」
「これで鉱山都市も救われる……!」
期待と不安がない交ぜになった声が飛び交い、石畳の広場は群衆の熱気で揺れていた。
――そして、その熱気を一気に冷ますように、だるげな声が響いた。
「ふぁぁ……眠っ」
ゆっくりと門から現れた青年。
髪は寝癖で跳ね、外套は片方だけ肩からずり落ちている。
足取りは重く、まるでこれから遠征に出る戦士というより、休日に布団から無理やり引っ張り出された学生のようだった。
篠原悠。王国に召喚された勇者である。
「……人混みは嫌だなぁ」
市民からの熱い視線と歓声を浴びながら、悠は露骨に顔を背ける。
あまりに気怠げな態度に、群衆の一部から失笑が漏れた。だが、より多くの人々は「これが噂の勇者だ」と感慨深げにその姿を見つめた。
隣を歩くリオネルは、そんな悠に小声で諭すように言った。
「勇者様。これもまた、勇者様の役目なのです。人々は勇者様の姿に希望を見出しているのですから」
「希望とか言われてもなぁ……俺、別に見せ物じゃないし」
ぶつぶつ文句を言う悠の耳に、子どもの甲高い声が届いた。
「勇者さまー! がんばってー!」
群衆の最前列から、小さな少年が両手を振って叫んでいる。母親が必死に押さえようとするのも聞かず、少年は声を張り上げた。
悠は足を止め、ちらりとその子を見た。
ほんの一瞬だけ口元を緩めたが、すぐに「うるさい」と呟いて視線を逸らした。
「……本当に勇者様は、勇者様ですね」
リオネルは苦笑を堪えながら、かすかに誇らしげな声音で言った。
そのとき、奥の階段から重々しい足音が響いた。
国王が、近衛兵を従えて姿を現したのだ。
「陛下だ!」
「国王陛下がお見送りに!」
群衆の熱気はさらに高まり、兵士たちが剣を掲げ直す。
国王は白い外套を身にまとい、ゆっくりと悠の前へと進み出た。
その眼差しは真剣で、同時にどこか慈しみの色を帯びていた。
「頼んだぞ、勇者殿」
低く響いた言葉は、広場全体を震わせるほどの重みを持っていた。
兵士も市民も一斉に息を呑み、勇者の返答を待つ。
悠は一瞬だけ国王を見返したが、すぐにあくびを噛み殺し、毛布を肩にかけ直した。
「……はいはい。分かってるって」
投げやりな返事を残し、悠は馬車に乗り込んだ。
窓際に体を沈め、毛布を頭までかぶる。
「勇者様! ご武運を!」
「魔王軍を打ち破ってください!」
「勇者様、ばんざーい!」
市民たちの声援が波のように押し寄せ、広場全体が揺れる。
子どもが歓声を上げ、老婆が涙を流しながら祈り、商人が「勇者に賭けるぞ!」と叫ぶ。
その熱狂の渦の中、馬車の中からぼそりと声が漏れた。
「……騒がしくて眠れねぇ」
御者が合図を受け、馬車の車輪がぎしりと回り始める。
群衆の歓声を背に受けながら、勇者一行はゆっくりと城門を抜け、鉱山都市へと向かっていった。
英雄と讃えられながらも、当の本人はただ「眠りたい」と願うばかり――。
そんな奇妙な勇者の旅立ちを、王都の人々はいつまでも見送っていた。
冬の冷たい風が吹き抜けるにもかかわらず、そこに立つ者たちの頬は赤らみ、瞳は熱を帯びている。
漆黒に塗られた馬車が石畳の中央に据えられ、その横には大柄な軍馬が静かに鼻を鳴らしていた。車輪には王国の紋章が刻まれ、御者台には熟練の御者が控えている。
整列した兵士たちは鋼の鎧に身を包み、一糸乱れぬ動作で剣を掲げた。その金属音が朝の空気を鋭く切り裂き、場の緊張感をさらに引き締める。
「……来るぞ!」
誰かの声を合図に、城門前に集まった市民がざわめいた。
商人、職人、農民、子どもに老人――王都のあらゆる者が「勇者を見よう」と詰めかけていた。
中には、勇者の姿を一目見るために地方から夜通し歩いてきた者までいるらしい。
「勇者様が……本物の勇者様が!」
「魔王軍の男を捕らえたって話、本当だったんだな」
「これで鉱山都市も救われる……!」
期待と不安がない交ぜになった声が飛び交い、石畳の広場は群衆の熱気で揺れていた。
――そして、その熱気を一気に冷ますように、だるげな声が響いた。
「ふぁぁ……眠っ」
ゆっくりと門から現れた青年。
髪は寝癖で跳ね、外套は片方だけ肩からずり落ちている。
足取りは重く、まるでこれから遠征に出る戦士というより、休日に布団から無理やり引っ張り出された学生のようだった。
篠原悠。王国に召喚された勇者である。
「……人混みは嫌だなぁ」
市民からの熱い視線と歓声を浴びながら、悠は露骨に顔を背ける。
あまりに気怠げな態度に、群衆の一部から失笑が漏れた。だが、より多くの人々は「これが噂の勇者だ」と感慨深げにその姿を見つめた。
隣を歩くリオネルは、そんな悠に小声で諭すように言った。
「勇者様。これもまた、勇者様の役目なのです。人々は勇者様の姿に希望を見出しているのですから」
「希望とか言われてもなぁ……俺、別に見せ物じゃないし」
ぶつぶつ文句を言う悠の耳に、子どもの甲高い声が届いた。
「勇者さまー! がんばってー!」
群衆の最前列から、小さな少年が両手を振って叫んでいる。母親が必死に押さえようとするのも聞かず、少年は声を張り上げた。
悠は足を止め、ちらりとその子を見た。
ほんの一瞬だけ口元を緩めたが、すぐに「うるさい」と呟いて視線を逸らした。
「……本当に勇者様は、勇者様ですね」
リオネルは苦笑を堪えながら、かすかに誇らしげな声音で言った。
そのとき、奥の階段から重々しい足音が響いた。
国王が、近衛兵を従えて姿を現したのだ。
「陛下だ!」
「国王陛下がお見送りに!」
群衆の熱気はさらに高まり、兵士たちが剣を掲げ直す。
国王は白い外套を身にまとい、ゆっくりと悠の前へと進み出た。
その眼差しは真剣で、同時にどこか慈しみの色を帯びていた。
「頼んだぞ、勇者殿」
低く響いた言葉は、広場全体を震わせるほどの重みを持っていた。
兵士も市民も一斉に息を呑み、勇者の返答を待つ。
悠は一瞬だけ国王を見返したが、すぐにあくびを噛み殺し、毛布を肩にかけ直した。
「……はいはい。分かってるって」
投げやりな返事を残し、悠は馬車に乗り込んだ。
窓際に体を沈め、毛布を頭までかぶる。
「勇者様! ご武運を!」
「魔王軍を打ち破ってください!」
「勇者様、ばんざーい!」
市民たちの声援が波のように押し寄せ、広場全体が揺れる。
子どもが歓声を上げ、老婆が涙を流しながら祈り、商人が「勇者に賭けるぞ!」と叫ぶ。
その熱狂の渦の中、馬車の中からぼそりと声が漏れた。
「……騒がしくて眠れねぇ」
御者が合図を受け、馬車の車輪がぎしりと回り始める。
群衆の歓声を背に受けながら、勇者一行はゆっくりと城門を抜け、鉱山都市へと向かっていった。
英雄と讃えられながらも、当の本人はただ「眠りたい」と願うばかり――。
そんな奇妙な勇者の旅立ちを、王都の人々はいつまでも見送っていた。
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