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七将編(剛腕将軍グラドン)
第5話 道中の退屈な勇者
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王都を出発した馬車は、鉱山都市へ延びる街道を進んでいた。
朝に見送った群衆の喧騒はすでに遠ざかり、今は車輪の軋む音と馬の鼻息だけが冬枯れの道に響いている。
しかし悠は、出発して間もなくから不満を漏らしていた。
「……だから言っただろ。兵士なんか要らないって」
馬車の後方を歩く数名の兵士たち。その鎧のきしむ音が聞こえるたび、悠は眉をしかめてため息をついた。
「重い音立てて歩くし、休憩も多くなるし。……歩くの遅いんだよ」
窓から顔をのぞかせた悠の視線に気づき、兵士の一人が慌てて姿勢を正した。
その表情には緊張と、ほんの少しの誇らしさが混ざっていた。
リオネルはそんな勇者の不満に苦笑し、やんわりと答える。
「陛下のご意向です。最低限の護衛は必要だと。勇者様一人にすべてを任せては、国の体裁が保てません」
「体裁とか知らねぇよ。俺は楽に行きたいだけなんだ」
悠がぼそりと呟き、毛布をかぶってベッドのように座席に寝転がる。
リオネルは苦笑しつつも、心の中では兵士たちの気持ちを察していた。
彼らは勇者と共に歩けることを誇りに思い、武勲を立てたいと願っている。だが当の勇者は、彼らを「遅い、うるさい」としか見ていないのだ。
馬車は街道を進み続ける。
外の景色は単調だった。枯れ草の野原、霜に覆われた木々、遠くに白い山々が連なる。馬の吐く息は白く、時折、渡り鳥の群れが空を横切る。
「……長ぇな」
悠は窓の外を眺めてすぐに飽き、また横になる。
リオネルは真面目に地図を取り出し、説明を始めた。
「鉱山都市までは二日の道のりです。途中、小さな村が一つ。休憩所も点在していますから、夜営は必要です」
「ふーん」
気のない返事をしながら、悠は毛布にくるまり、天井を見つめる。
「……聞いてるだけで眠くなる」
目を閉じた悠の寝息がすぐに響き始め、リオネルは額を押さえてため息を吐いた。
「勇者様は本当に……」
その時、御者が前方から声を上げた。
「旅人の一団が参ります!」
馬車が速度を落とし、やがてすれ違う旅人たちの姿が見えた。
十数人の人々が、疲れ果てた様子で王都へ向かって歩いている。背には大きな荷物、子を抱きしめる母親、肩を貸し合う老人。
リオネルが窓を開け、声をかける。
「皆さん、どちらから来られたのですか?」
中年の男が顔を上げ、掠れた声で答えた。
「……鉱山都市からだ」
その声には恐怖と疲労が滲んでいた。
「人が……人が次々と消えていく。夜に出歩いた者は戻らねぇ。昼でも、ほんの一瞬でいなくなることがある。誰も理由が分からねぇんだ」
母親が子を抱きしめ、すすり泣いた。旅人たちは皆、怯えた顔でうなずく。
別の若者が震える声で付け加えた。
「最初は魔物に襲われたのかと思った。でも血の跡も争った形跡もない。ただ……いなくなるんだ。気づけば隣にいた友が、姿を消している」
兵士たちも顔を見合わせ、背筋を凍らせた。
そんな証言を聞いても、悠は大きな欠伸をしてぼそりと呟く。
「……じゃあ近づかない方がいいだろ。危ないんだし」
旅人たちは呆然と勇者を見た。
だがリオネルがすぐに声を張る。
「だからこそ、勇者様が必要なのです! 人々は恐怖に支配され、鉱山都市に近づく者は誰もいません。……だから、勇者様にしかできないのです!」
リオネルの声は必死だった。
兵士たちもまた拳を握りしめ、勇者を見つめる。
しかし悠は片手をひらひら振り、毛布を頭までかぶった。
「……やっぱり面倒だ」
その言葉と共に再び静かな寝息が広がる。
車輪の軋む音と、旅人たちのすすり泣きが、その寝息を囲むように続いた。
リオネルは拳を握り、心の中で呟く。
(勇者様……どうか、この国をお救いください)
外の冬空は灰色に曇り、冷たい風が旅路をさらに厳しくしていくのだった。
朝に見送った群衆の喧騒はすでに遠ざかり、今は車輪の軋む音と馬の鼻息だけが冬枯れの道に響いている。
しかし悠は、出発して間もなくから不満を漏らしていた。
「……だから言っただろ。兵士なんか要らないって」
馬車の後方を歩く数名の兵士たち。その鎧のきしむ音が聞こえるたび、悠は眉をしかめてため息をついた。
「重い音立てて歩くし、休憩も多くなるし。……歩くの遅いんだよ」
窓から顔をのぞかせた悠の視線に気づき、兵士の一人が慌てて姿勢を正した。
その表情には緊張と、ほんの少しの誇らしさが混ざっていた。
リオネルはそんな勇者の不満に苦笑し、やんわりと答える。
「陛下のご意向です。最低限の護衛は必要だと。勇者様一人にすべてを任せては、国の体裁が保てません」
「体裁とか知らねぇよ。俺は楽に行きたいだけなんだ」
悠がぼそりと呟き、毛布をかぶってベッドのように座席に寝転がる。
リオネルは苦笑しつつも、心の中では兵士たちの気持ちを察していた。
彼らは勇者と共に歩けることを誇りに思い、武勲を立てたいと願っている。だが当の勇者は、彼らを「遅い、うるさい」としか見ていないのだ。
馬車は街道を進み続ける。
外の景色は単調だった。枯れ草の野原、霜に覆われた木々、遠くに白い山々が連なる。馬の吐く息は白く、時折、渡り鳥の群れが空を横切る。
「……長ぇな」
悠は窓の外を眺めてすぐに飽き、また横になる。
リオネルは真面目に地図を取り出し、説明を始めた。
「鉱山都市までは二日の道のりです。途中、小さな村が一つ。休憩所も点在していますから、夜営は必要です」
「ふーん」
気のない返事をしながら、悠は毛布にくるまり、天井を見つめる。
「……聞いてるだけで眠くなる」
目を閉じた悠の寝息がすぐに響き始め、リオネルは額を押さえてため息を吐いた。
「勇者様は本当に……」
その時、御者が前方から声を上げた。
「旅人の一団が参ります!」
馬車が速度を落とし、やがてすれ違う旅人たちの姿が見えた。
十数人の人々が、疲れ果てた様子で王都へ向かって歩いている。背には大きな荷物、子を抱きしめる母親、肩を貸し合う老人。
リオネルが窓を開け、声をかける。
「皆さん、どちらから来られたのですか?」
中年の男が顔を上げ、掠れた声で答えた。
「……鉱山都市からだ」
その声には恐怖と疲労が滲んでいた。
「人が……人が次々と消えていく。夜に出歩いた者は戻らねぇ。昼でも、ほんの一瞬でいなくなることがある。誰も理由が分からねぇんだ」
母親が子を抱きしめ、すすり泣いた。旅人たちは皆、怯えた顔でうなずく。
別の若者が震える声で付け加えた。
「最初は魔物に襲われたのかと思った。でも血の跡も争った形跡もない。ただ……いなくなるんだ。気づけば隣にいた友が、姿を消している」
兵士たちも顔を見合わせ、背筋を凍らせた。
そんな証言を聞いても、悠は大きな欠伸をしてぼそりと呟く。
「……じゃあ近づかない方がいいだろ。危ないんだし」
旅人たちは呆然と勇者を見た。
だがリオネルがすぐに声を張る。
「だからこそ、勇者様が必要なのです! 人々は恐怖に支配され、鉱山都市に近づく者は誰もいません。……だから、勇者様にしかできないのです!」
リオネルの声は必死だった。
兵士たちもまた拳を握りしめ、勇者を見つめる。
しかし悠は片手をひらひら振り、毛布を頭までかぶった。
「……やっぱり面倒だ」
その言葉と共に再び静かな寝息が広がる。
車輪の軋む音と、旅人たちのすすり泣きが、その寝息を囲むように続いた。
リオネルは拳を握り、心の中で呟く。
(勇者様……どうか、この国をお救いください)
外の冬空は灰色に曇り、冷たい風が旅路をさらに厳しくしていくのだった。
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