『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

文字の大きさ
12 / 207
七将編(剛腕将軍グラドン)

第7話 鉱山都市目前の勇者

しおりを挟む
夜明け前。
 冷たい霧が街道に漂い、草の葉先に朝露が光っていた。兵士たちは眠い目をこすりながら鎧を着直し、火の消えかけた焚き火に最後の薪をくべる。

 リオネルは既に馬車の準備を終え、兵士に指示を飛ばしていた。
「積み荷を確認しろ。水袋は全員持ったな? ……よし」

 一方、悠は寝袋から出る気配を見せず、毛布に顔をうずめたまま呻くように呟いた。
「……あと三時間は寝たい」

「勇者様、もう出発の時間です!」
 リオネルが声をかけても、悠はごろりと背を向けた。
「寝不足で戦えないとか言っても文句言うなよ……」

 兵士たちは顔を見合わせ、苦笑とも不安ともつかぬ表情を浮かべる。
「本当に……大丈夫なのだろうか」
「だが、昨夜の狼の件を見ただろ。あんな戦い方、俺たちには到底できん」
「確かに……だが、この調子で魔王軍と戦えるのか?」

 小声で交わされる兵士たちの囁きを、リオネルは聞き逃さなかった。
「勇者様はあれでいて、必ずやってくださる方だ」
 そう言い切ったが、自分の胸の奥にも不安が残っていることを認めざるを得なかった。

 やがて太陽が昇り始め、一行は再び馬車を進めた。


 街道を行くにつれて、景色は徐々に荒れたものへと変わっていった。
 畑は荒れ、家屋は空き家のようにひっそりしている。道端には、急いで荷をまとめたのか散らかった家具や壊れた荷車の残骸が転がっていた。

 兵士の一人が馬上から周囲を見回し、小声で呟く。
「……まるで、人が逃げ出した後のようだ」

 悠は窓から顔をのぞかせ、ぼそりと答えた。
「つまり、帰って寝られる状況じゃないってことだな」

 気怠げな言葉に、兵士たちは苦笑を浮かべるしかなかった。


 やがて視界の先、鉱山都市の輪郭が現れた。山の斜面に沿って築かれた灰色の石造りの街。その煙突からは薄い煙が立ちのぼっていたが、賑やかさはなく、どこかくすんで見える。

「ようやく到着です」
 リオネルの声に、悠は欠伸を噛み殺しながら呟いた。
「あー……やっと寝床が変わる」

 しかし近づくにつれ、門前の異様な光景が目に入った。
 都市の前には、長蛇の列ができていたのだ。

 避難者たちである。
 粗末な荷物を抱えた男たち、子どもを背負った母親、杖をついた老人。皆が疲弊し、乾いた唇で「水を……」「食べ物を……」と訴えていた。
 列は乱れ、衛兵たちが必死に制御していたが、喧騒は収まらない。

 馬車が止まった瞬間、群衆の視線が一斉にこちらへ向いた。
 そして誰かが叫ぶ。

「――勇者様だ!」

 その声は火種のように広がり、瞬く間に歓声となった。

「勇者様が来てくださった!」
「これで助かる、鉱山都市も救われる!」
「どうか、どうか私たちをお救いください!」

 人々が押し寄せ、馬車を取り囲む。兵士たちは慌てて壁を作り、リオネルも馬車から出て両手を広げて制止する。

「皆、落ち着け! 勇者様に道を!」

 しかし悠は、人々に囲まれながら露骨に嫌そうな顔をしていた。
「……またこれか」

 群衆の期待を浴びるその姿は、まるで英雄というより、人気に辟易する芸能人のようだった。

 避難者の一人が泣きながら手を伸ばす。
「勇者様、どうか家族を……!」
「鉱山に取り残された者たちを助けてください!」

 悠は頭をかきむしり、うんざりした声を漏らす。
「助けるのも、群がられるのも……どっちも面倒だな」

 その呟きは小さかったが、近くの兵士には聞こえてしまい、思わず顔を引きつらせた。

 リオネルは必死に声を張り上げる。
「勇者様は必ず鉱山都市の異変を調査されます! 皆の安全を確かに取り戻してくださる。だから、どうか落ち着いて順番に!」

 民衆は完全には静まらなかったが、その熱は次第に収まり、兵士たちが列を整え直した。

 悠は背中に刺さるような期待の視線を感じながら、肩を落とし、毛布を深く被った。
「……疲れるな、ほんと」

 ぼそりと漏らしたその言葉に、リオネルは苦笑を浮かべながらも小さく呟いた。
「ですが勇者様……あなたこそ、この人々にとっての希望なのです」

 悠は聞こえないふりをし、再び毛布に潜り込んだ。
「……希望とか重いんだよな」

 馬車は再びゆっくりと進み、鉱山都市の石門へと近づいていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...