『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第13話 不気味な壁画と勇者

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空洞に足を踏み入れた瞬間、世界が変わった。
 狭い坑道では閉塞感が支配していたが、ここは別種の圧迫感があった。
 広いはずなのに、息が詰まる。闇が深すぎて、かえって空間の大きさが掴めない。

 松明の炎が揺れ、ぼんやりと天井を照らす。
 天井は高い。十メートル以上あるかもしれない。
 しかし光はそこまで届かず、ほんの一瞬だけ水滴が反射して光り、また闇に溶けた。
 ぽたり、と滴る水音が響く。反響が遅れて帰ってくるたびに、空洞の巨大さを思い知らされた。

 兵士の一人がごくりと唾を飲み、声を震わせる。
「……まるで、地下の神殿みたいだ」

 リオネルが先頭で足を止め、周囲を警戒する。
 悠は眠そうな目で辺りを見回し、片手で耳を掻いた。
「……いるな」

 その一言に、兵士たちは全身を硬直させた。
「え……?」
「ど、どこに……!」

 だが悠は続ける。
「近くじゃねぇ。……奥だ。だから騒ぐな」

 拍子抜けした兵士たちは顔を見合わせ、安堵と不安の入り混じった表情を浮かべた。
 悠が投げやりに言っただけなのに、それが根拠のある判断のように思えてしまう。


 空洞の壁に沿って進むと、奇妙なものが目に入った。
 掘削の跡ではない。削られた線は規則的で、意味を持っていた。

「……見ろ」
 リオネルが松明を掲げる。

 壁一面に刻まれていたのは、古代文字だった。
 円や直線を組み合わせた奇妙な記号。ところどころに人影や獣を模した象形。
 時間の流れに風化し、判読は困難だったが、ただの落書きとは明らかに違う。

「古代語……間違いない」
 リオネルは手袋越しに指でなぞり、必死に読み取ろうとする。
「……だが、欠けすぎている。『血』『祭』……いや、違うか……」

 兵士たちはその言葉にざわめいた。
「血……?」
「祭……?」

 悠は肩をすくめ、大きくあくびをした。
「歴史の授業かよ。面倒だな」


 さらに松明を動かすと、文字だけでなく、広大な壁画が浮かび上がった。

 巨人――。
 山のように大きな影が描かれていた。人間の十倍以上の大きさで街を踏み潰し、建物を瓦礫に変えている。巨人の目は赤く塗られ、怒りと飢えのような感情が滲んでいた。

 祭壇――。
 石造りの台座の上に、幾人もの人間が跪き、赤黒い線で血が描かれている。鮮やかさは失われていても、見た者は本能的にそれが「血」であると理解した。人々の背後には、フードを被った影が立ち、刃を掲げていた。

 そして影――。
 祭壇のさらに後ろに、巨大な存在が描かれていた。
 人の形をしていながら、頭には二本の角。体の輪郭は黒い靄のように曖昧で、ただ「恐怖」を象徴するためだけに描かれた存在。
 兵士たちは息を呑み、誰かがかすれた声で呟いた。
「……魔王……?」


「やはり……魔王軍は古代から……」
「いや、これは伝承でしか聞いたことのない……血の祭壇……」
「呪いだ……」

 噂が広がり、兵士たちの間に不安が増していく。

 リオネルは必死に抑えようとする。
「落ち着け! これはただの壁画だ! 伝承の一部に過ぎん!」

 だが説得する声も震えていた。
 古代から続く魔王軍の影が、現実として目の前に刻まれている。その事実は否定しきれない。

 悠はそんな空気を気にもせず、壁画から離れていった。
「どうでもいいだろ。昔話を掘り返しても腹は膨れねぇ」

 その軽口に、兵士たちは逆に少しだけ救われた。
 「勇者様は恐れない」と思い込むことで、なんとか足を前に出せるのだ。


 その時。

 カン……カン……カン……。

 坑道の奥から、規則正しい金属音が響いてきた。
 それは石を砕く音でも、岩が崩れる音でもない。
 一定の間隔で繰り返されるその音は、まるで鍛冶場で槌を振るうようだった。

「……だ、誰か……作業している……?」
 兵士が息を呑む。声はほとんど囁きに近かった。

 リオネルは即座に手を上げて制した。
「声を潜めろ。灯りを覆え」

 松明が次々に布で覆われ、光が狭まる。
 空洞はさらに闇に沈み、松明の炎は小さな点にしか見えなくなった。

 湿った空気の中、耳に届くのは、規則正しい打撃音だけ。
 カン……カン……カン……。

 それが人の営みを示すものなのか、それとも魔の儀式の残響なのか。誰も確信を持てなかった。

 一行は壁際に身を寄せ、呼吸を殺し、慎重に音の方角へと足を進めていった――。
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