『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第41話 根源を探る勇者

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捕虜救出から数日。
 鉱山都市は表向き、穏やかな空気に包まれていた。

 市場では、夫や父を取り戻した家族が再会を喜び合っていた。
 抱き合って泣き崩れる者。再び家族で食卓を囲めることに感謝する者。子供が「お父さん!」と走って飛びつき、母がその背を支えて泣く光景も珍しくなかった。

 街の人々にとって、捕虜たちの帰還はまさしく奇跡だったのだ。

 ――だが、その笑顔の下に潜む影は、決して消えていなかった。

 救出されたのは確かに数十人。しかし、まだ戻らぬ者もいた。
 そして何より、鉱山奥から感じられる異様な魔力が、依然として消えぬままだった。

 夜になると、不安は一層色濃くなる。
 店々は早々に戸を閉ざし、窓には板が打ち付けられる。路地裏では声を潜めた噂話が交わされた。
「根源が残っているのではないか」
「副官を倒したといっても、あれはほんの前触れだ」
「次は街そのものが狙われるに違いない」

 昼の歓喜と夜の恐怖。その落差が人々を疲弊させていった。


 そのころ、領主の館では徹夜の会議が続いていた。

 長机に広げられた地図の上に、蝋燭の炎が揺れる。
 鉱山の坑道を示す赤い印、その奥に描かれた大きな丸。そこに「不明」と記されている。

「救出は大きな成果だ。しかし、これで全て終わったとは到底言えぬ」
「根源を断たねば、街の不安は決して収まらん」
「兵だけで挑むのは無謀だ。やはり勇者殿に頼むしか……」

 重臣たちが口々に言葉を重ねる。

 領主は深い隈を刻んだ目を閉じ、疲れ切った声で答えた。
「……分かっている。だが、また勇者殿に頭を下げねばならんとは……」

 苦悩をにじませるその言葉に、誰も反論はできなかった。
 結局、全員の視線はただ一人に集まる。
 ――勇者、篠原悠。


 翌日。
 宿の部屋で悠は布団に潜り込み、丸くなっていた。

「……どうせまた俺だろ。ほんと面倒くせぇ」

 ぼやきは布団の中に吸い込まれる。

 そこへ控えめなノックが響いた。
「勇者様、失礼いたします」

 扉を開けて入ってきたのはリオネルだった。
 疲労が隠せない顔。それでも姿勢は真っ直ぐで、声には決意が宿っている。

「領主様より召集がかかっています。応接間へ」

 悠は枕に顔を押し付けたまま呻いた。
「……やっぱり俺か」

「ええ、勇者様しか」
 リオネルは微笑んだが、その表情には切実さがにじんでいた。

 悠はしばらく布団に沈んでいたが、やがて諦めたように立ち上がった。


 領主邸の応接間。

 重厚な扉を開けると、すでに領主と重臣たちが並んでいた。
 空気は張り詰め、部屋がやけに暗く感じられる。

 悠がのそのそと入室すると、領主はすぐに立ち上がり、深々と頭を下げた。
「勇者殿。先日のご尽力、心より感謝いたします。しかし――鉱山の奥に、まだ不気味な気配が残っていることが判明しました。どうか、再びお力をお貸し願いたい」

 その声には震えが混じっていた。領主自身も恐れているのだ。

 悠は後頭部をかきながら、露骨に嫌そうな顔をした。
「また俺? ……やっぱ面倒だな」

 重臣たちが顔を見合わせる。ざわめきが走りかけたところで、リオネルが一歩前に出た。
「勇者様しかできません。市民も皆、勇者様のご加護を信じております」

 悠が視線を横にやると、扉の外から数人の市民が不安げに覗いていた。捕虜として救い出された者の家族も混じっている。震える手で胸を握りしめ、勇者の返答を待っていた。

 重苦しい沈黙が落ちる。
 悠は深く長いため息を吐いた。

「……ほんと、俺に押し付けんなよ」

 そう言いながらも、断ることはできなかった。


 翌朝。
 街の中央広場には、新たな調査隊が集まっていた。

 兵士たちだけでなく、鉱夫経験を持つ市民も志願していた。怯えを抱えながらも、勇者の背に縋って踏みとどまっている。

「勇者様、どうか……」
 誰かが呟くと、その声に呼応するように視線が一斉に悠へ集まった。

 悠は肩をすくめ、大きなあくびをひとつ。
「……もうこれで最後にしてくれよ」

 その言葉に、広場がざわめき、やがて歓声に包まれる。

 リオネルは力強く頷き、声を張った。
「勇者様と共に、再び鉱山へ!」

 悠は頭を掻きながら馬車へと足を向ける。
「……ほんと、寝てたいのに」

 それでも足取りは止まらなかった。
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