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七将編(剛腕将軍グラドン)
第43話 坑道を塞ぐ怪物群と勇者
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――カン、カン、カン。
奥から響くその音は、ただの作業音にしては重すぎた。
湿り気を帯びた坑道に反響し、まるで誰かが鉄槌で岩盤を叩いているような、不吉な律動を刻む。
兵士たちの足が止まった。
松明の炎が揺れ、狭い通路の岩肌に影を生む。
その影がまるで生き物のように蠢いて見え、若い兵士の一人が思わず剣を抜いてしまった。
「……落ち着け。無駄に剣を振れば仲間を傷つけるぞ」
リオネルの低い声が、張り詰めた空気を抑え込む。
彼の剣先はわずかも揺れていなかった。経験と胆力の差が兵士との間に如実に現れている。
その一方で、悠は。
最後尾に近い位置で伸びをし、片手で欠伸を隠しながらぼそりと呟いた。
「……こんだけ緊張して歩くとか、余計に疲れるだろ。寝不足が悪化すんだよな」
兵士たちは呆れて言葉も出ない。だがその飄々とした態度が逆に彼らの恐怖を和らげてもいた。
通路をさらに進む。
血痕が壁や床に点々と残り、乾いて黒ずんでいる。
それは一本道のように、奥へ奥へと続いていた。
「ここで多くの鉱夫が……」
リオネルが呟くと、悠は鬱陶しそうに手を振った。
「わざわざ口にすんな。余計空気が重くなる」
やがて――音の源が見えた。
広がった空間の中央に、巨体が三つ。
牙を剥き、血走った眼でこちらを睨むトロールたちだった。
腕には岩を削り出した棍棒。皮膚は分厚く、ただ立っているだけで圧迫感を放っている。
「トロール……!」
兵士の一人が青ざめた声を上げる。
「三体も……」
リオネルが剣を掲げる。
「恐れるな! 陣を組め!」
兵士たちは盾を前に出し、必死に足を進める。
しかしトロールの咆哮が響いた瞬間、その耳をつんざく轟きに足がすくむ。
唸り声は岩盤を揺らし、頭上から砂がぱらぱらと降り注ぐ。
――棍棒が振り下ろされた。
轟音とともに壁が砕け、破片が飛び散る。兵士の一人が吹き飛ばされ、呻き声を上げて地に転がった。
「下がれ!」
リオネルが叫び、別の兵士をかばうように前に出た。
剣と棍棒がぶつかり、金属と岩の火花が散る。
兵士たちの顔には恐怖と焦燥しかなかった。
――その背後で、悠は深い溜め息をついた。
「……体力の無駄だ」
次の瞬間、彼が片手を横に払った。
目に見えない衝撃が奔り、空気が歪む。
トロール三体の巨躯が、まるで人形のように宙を舞った。
壁に激突し、轟音とともに崩れ落ちる。
骨の砕ける音、岩盤にめり込む衝撃。すべてが一瞬の出来事だった。
静寂。
「……え?」
「な、何が……?」
兵士たちは剣を構えたまま動けなくなった。
恐怖で凍り付いていた心が、今度は信じられない光景に縛られている。
悠は片手を振った姿勢のまま、眠そうに肩をすくめる。
「あー……やっぱり時間の無駄だった」
リオネルだけが真剣な眼差しで頷く。
「これが……勇者様の力……」
だが安堵は、すぐに絶望へと変わった。
トロールたちの死骸から、黒い瘴気が立ち上り身体から魔法陣が浮かび上がる。
濃く淀んだ瘴気。どろどろと重く、視界にまとわりつく。
兵士たちが口を押さえ、次々と膝をついた。
「息が……できない……!」
「視界が……揺れる……!」
瘴気はただの毒ではなかった。
人々の心に潜む恐怖を増幅させ、幻覚を呼び覚ます。
兵士の一人は「母上……!」と叫びながら虚空に手を伸ばし、剣を落とした。
別の者は「魔王だ……魔王が来た……!」と錯乱し、味方を突きかける。
「全員! 意識を保て!」
リオネルが必死に叫び、剣を掲げて瘴気を裂く。
しかし瘴気は止まらない。むしろ、トロールの体が崩れ落ちるごとに勢いを増していく。
その中に浮かび上がる赤黒い紋様――古代の魔法陣だ。
「これは……魔王軍の術式!」
リオネルの声が震えた。
「魔物を死後も兵器とする……呪術の罠だ!」
悠は鼻をつまみ、嫌そうに眉をひそめる。
「……めんどくさい追加効果だな」
彼が足を軽く踏み鳴らすと、地面が震え、魔法陣の紋様がひび割れた。
赤黒い光は瞬く間に消え、瘴気は収束していく。
兵士たちはその場に崩れ落ち、肩で荒く息をしていた。
「た、助かった……」
「勇者様がいなければ……俺たちは……」
だが悠は振り返らず、片手をひらひらと振った。
「だから俺に頼るなっての」
気怠げな声に、兵士たちは何も言えなかった。
けれどその背中だけが、確かな希望であることを、誰もが理解していた。
――血の通路を抜けた先に、いよいよ真の脅威が待つ。
魔物の群れは、ただの前座に過ぎなかったのだ。
奥から響くその音は、ただの作業音にしては重すぎた。
湿り気を帯びた坑道に反響し、まるで誰かが鉄槌で岩盤を叩いているような、不吉な律動を刻む。
兵士たちの足が止まった。
松明の炎が揺れ、狭い通路の岩肌に影を生む。
その影がまるで生き物のように蠢いて見え、若い兵士の一人が思わず剣を抜いてしまった。
「……落ち着け。無駄に剣を振れば仲間を傷つけるぞ」
リオネルの低い声が、張り詰めた空気を抑え込む。
彼の剣先はわずかも揺れていなかった。経験と胆力の差が兵士との間に如実に現れている。
その一方で、悠は。
最後尾に近い位置で伸びをし、片手で欠伸を隠しながらぼそりと呟いた。
「……こんだけ緊張して歩くとか、余計に疲れるだろ。寝不足が悪化すんだよな」
兵士たちは呆れて言葉も出ない。だがその飄々とした態度が逆に彼らの恐怖を和らげてもいた。
通路をさらに進む。
血痕が壁や床に点々と残り、乾いて黒ずんでいる。
それは一本道のように、奥へ奥へと続いていた。
「ここで多くの鉱夫が……」
リオネルが呟くと、悠は鬱陶しそうに手を振った。
「わざわざ口にすんな。余計空気が重くなる」
やがて――音の源が見えた。
広がった空間の中央に、巨体が三つ。
牙を剥き、血走った眼でこちらを睨むトロールたちだった。
腕には岩を削り出した棍棒。皮膚は分厚く、ただ立っているだけで圧迫感を放っている。
「トロール……!」
兵士の一人が青ざめた声を上げる。
「三体も……」
リオネルが剣を掲げる。
「恐れるな! 陣を組め!」
兵士たちは盾を前に出し、必死に足を進める。
しかしトロールの咆哮が響いた瞬間、その耳をつんざく轟きに足がすくむ。
唸り声は岩盤を揺らし、頭上から砂がぱらぱらと降り注ぐ。
――棍棒が振り下ろされた。
轟音とともに壁が砕け、破片が飛び散る。兵士の一人が吹き飛ばされ、呻き声を上げて地に転がった。
「下がれ!」
リオネルが叫び、別の兵士をかばうように前に出た。
剣と棍棒がぶつかり、金属と岩の火花が散る。
兵士たちの顔には恐怖と焦燥しかなかった。
――その背後で、悠は深い溜め息をついた。
「……体力の無駄だ」
次の瞬間、彼が片手を横に払った。
目に見えない衝撃が奔り、空気が歪む。
トロール三体の巨躯が、まるで人形のように宙を舞った。
壁に激突し、轟音とともに崩れ落ちる。
骨の砕ける音、岩盤にめり込む衝撃。すべてが一瞬の出来事だった。
静寂。
「……え?」
「な、何が……?」
兵士たちは剣を構えたまま動けなくなった。
恐怖で凍り付いていた心が、今度は信じられない光景に縛られている。
悠は片手を振った姿勢のまま、眠そうに肩をすくめる。
「あー……やっぱり時間の無駄だった」
リオネルだけが真剣な眼差しで頷く。
「これが……勇者様の力……」
だが安堵は、すぐに絶望へと変わった。
トロールたちの死骸から、黒い瘴気が立ち上り身体から魔法陣が浮かび上がる。
濃く淀んだ瘴気。どろどろと重く、視界にまとわりつく。
兵士たちが口を押さえ、次々と膝をついた。
「息が……できない……!」
「視界が……揺れる……!」
瘴気はただの毒ではなかった。
人々の心に潜む恐怖を増幅させ、幻覚を呼び覚ます。
兵士の一人は「母上……!」と叫びながら虚空に手を伸ばし、剣を落とした。
別の者は「魔王だ……魔王が来た……!」と錯乱し、味方を突きかける。
「全員! 意識を保て!」
リオネルが必死に叫び、剣を掲げて瘴気を裂く。
しかし瘴気は止まらない。むしろ、トロールの体が崩れ落ちるごとに勢いを増していく。
その中に浮かび上がる赤黒い紋様――古代の魔法陣だ。
「これは……魔王軍の術式!」
リオネルの声が震えた。
「魔物を死後も兵器とする……呪術の罠だ!」
悠は鼻をつまみ、嫌そうに眉をひそめる。
「……めんどくさい追加効果だな」
彼が足を軽く踏み鳴らすと、地面が震え、魔法陣の紋様がひび割れた。
赤黒い光は瞬く間に消え、瘴気は収束していく。
兵士たちはその場に崩れ落ち、肩で荒く息をしていた。
「た、助かった……」
「勇者様がいなければ……俺たちは……」
だが悠は振り返らず、片手をひらひらと振った。
「だから俺に頼るなっての」
気怠げな声に、兵士たちは何も言えなかった。
けれどその背中だけが、確かな希望であることを、誰もが理解していた。
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魔物の群れは、ただの前座に過ぎなかったのだ。
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