『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

文字の大きさ
83 / 207
七将編(剛腕将軍グラドン)

第78話 誇張される勇者

しおりを挟む
夜が明けた王都は、まるで祭りのような熱気に包まれていた。
 昨日までの恐怖が嘘のように、市場では屋台が立ち並び、子どもたちの笑い声が通りに響く。
 勇者――篠原悠が、魔王軍の幹部を倒したという報せは、もはや全ての街角を駆け抜けていた。

「聞いたか? あの“剛腕将軍グラドン”を、素手でぶっ飛ばしたらしいぞ!」
「しかも光の翼を背に、空を舞いながら戦ったとか!」
「いや、聞いた話じゃ、魔王の影すら吹き飛ばしたらしい!」

 朝のパン屋、昼の市場、夜の酒場。
 どの場所でも語られる話題は同じ――“勇者の伝説”。
 ただし、その内容はどこをどう聞いても実際とはかけ離れていた。

 王都の大通りを歩いていた悠は、耳に入るたびに小さく眉をひそめた。

「……俺、そんなことしてねぇけどな」

 隣で歩くリオネルが苦笑を浮かべる。
「勇者様は今や“象徴”ですから。人々は希望を形にして語りたいのです」

「希望ねぇ……。話を盛るのが希望なら、俺の方が怖いわ」
 悠は欠伸をかみ殺しながら、腰に手を当てる。

 その横を、子どもたちが勢いよく駆け抜けていく。
 棒切れを振り回しながら――。

「くらえっ! 俺は勇者ユウだ! 悪い魔物をやっつける!」
「ちょっ、ズルい! じゃあ俺は将軍グラドンだ!」
「じゃあ私は聖女様ね!」

 笑い声が響き渡り、泥だらけの子どもたちが走り回る。
 悠はそれを無言で見つめ、ほんの少しだけ頬を緩めた。

「……まぁ、泣いてるよりはマシか」

 しかし次の瞬間、別の店先から聞こえてきた声に、再び顔をしかめる。

「さぁさぁ! 本日限定! “勇者の加護パン”だよー!」
 威勢の良い声とともに、商人が籠いっぱいのパンを掲げていた。
 パンの上には、焼き印で“勇”の文字が押されている。

「これを食べれば、どんな敵も倒せる! お子様に大人気!」

 悠は呆れたようにため息をついた。
「……また勝手に商売してるし」

 リオネルは咳払いをして苦笑した。
「人気があるというのは、悪いことではありませんよ。経済も回りますし」
「俺の肖像権で回されても困るんだよ……」

 その言葉を最後に、悠は肩を落とし、どこか投げやりに空を見上げた。
 雲ひとつない晴天。けれど、胸の奥にこびりつく疲労は取れなかった。



 昼過ぎには、噂はさらに形を変え、まるで神話のように膨れ上がっていた。
 通りの壁には、いつの間にか「勇者降臨」と書かれた貼り紙が貼られ、行商人たちは「勇者饅頭」「勇者のお守り」を売り歩く。
 中には「勇者と同じポーズで撮影できる魔導カメラ屋」まで出現していた。

 リオネルは報告書を抱えて戻ってきながら、少し困った顔で言う。
「勇者様、商業ギルドが“勇者印”の商標登録を申請したいと……」
「勝手にやって勝手に怒られる未来しか見えねぇな」

 悠は机に肘をつき、顔を伏せた。
 その目の下には、数晩の徹夜の跡がうっすらと残っている。

「……俺、倒しただけなんだけどなぁ。なんでこうなるんだ」

 ふと、外の通りから「勇者様ばんざい!」という子どもの声が響いた。
 悠は反射的に顔を上げ、窓の外を覗く。
 そこでは子どもたちが棒切れを振りながら、石畳の上で“勇者ごっこ”の決着をつけていた。
 最後に倒れた“悪役役”の少年が大の字になり、空を見上げて叫ぶ。

「まいったー! 勇者様、つよすぎー!」

 周りの子どもたちが拍手しながら笑う。
 その光景に、悠は小さく鼻で笑った。

「……まぁ、悪くねぇな」



 その夜。
 王都の広場では、自然発生的に小さな祭りが始まっていた。
 音楽隊が笛と太鼓を鳴らし、酒場の店主が屋台を開く。
 勇者の名を歌にした詩人まで現れ、焚き火を囲んだ人々の前で吟じていた。

「勇者は光を背負い、闇を裂き、世界を救う!」

 その詩の中で、悠はもはや人間ではなく“神の化身”として描かれていた。

 リオネルが苦笑いを浮かべて言う。
「人々は、強さを伝説として語るものです。誇張もまた、希望の形かと」

「希望ねぇ……。俺にはただの誇張にしか見えねぇけど」
 悠は焚き火の影に身を沈めながら、ぼそりと呟く。

 人々の笑顔と、噂の熱狂。
 それは確かに平和の証でもある。
 けれど、あの鉱山の中で散った命の重さを、知っているのは彼だけだった。

(……俺、別に英雄になりたくてやってるわけじゃねぇのにな)

 視線を落とすと、手のひらにはまだ、戦いの熱が残っている気がした。



 翌朝。
 “勇者饅頭”が完売し、“勇者像”の建立計画が立ち上がる。
 王都の子どもたちは「勇者様の日」と称して、勝手に学校を休みにしていた。

 リオネルが報告書を持って部屋に入ると、悠はすでに寝転がっていた。

「勇者様、今日も英雄祭の準備が進んでおります」
「……俺、行かなくていいよな」
「国王陛下もお見えになりますので」
「……面倒」

 掛け布団を頭まで被る悠を見て、リオネルは微笑む。

「それでも、皆が笑えるのは勇者様のおかげですよ」

 悠は布団の中で小さく唸り声を上げた。
「……それが一番めんどくせぇんだよ……」

 それでも、その声には、どこか満足げな響きが混じっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

酔っぱらったせいで、勇者パーティーを洗脳してしまった

透けてるブランディシュカ
ファンタジー
悪友のせいで酔ったら。(※重複投稿しています)仲仁へび

ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった

仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。 そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

俺の家に異世界ファンタジーガチャが来た結果→現実世界で最強に ~極大に増えていくスキルの数が膨大になったので現実世界で無双します~

仮実谷 望
ファンタジー
ガチャを廻したいからそんな理由で謎の異世界ガチャを買った主人公はガチャを廻して自分を鍛えて、最強に至る。現実世界で最強になった主人公は難事件やトラブルを解決する。敵の襲来から世界を守るたった一人の最強が誕生した。そしてガチャの真の仕組みに気付く主人公はさらに仲間と共に最強へと至る物語。ダンジョンに挑戦して仲間たちと共に最強へと至る道。 ガチャを廻しまくり次第に世界最強の人物になっていた。 ガチャ好きすぎて書いてしまった。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...