『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第77話 凱旋する勇者

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夜風が冷たい。
 地上へ続く坑道の出口から、月明かりが差し込んでいた。
 長い戦いを終え、土と汗にまみれた兵士たちが次々と姿を現す。
 その中央には、鎖で幾重にも縛られた巨躯――剛腕将軍グラドンの姿があった。

「見ろ! 勇者様だ!」
「戻られたぞ! 勇者殿が!」

 地上で待っていた市民たちの歓声が夜空に響き渡った。
 誰もが信じられないという顔で、地中から引き上げられた巨体を見つめる。
 血に染まり、焦げ跡の残るその姿は、まさに“戦の化け物”だった。

「ま、まさか……本当に……魔王軍の幹部を……!」
「すげぇ……勇者様が、ひとりで倒したんだ……!」

 言葉は熱を帯び、歓喜と驚愕が混ざり合って広場に渦を巻く。
 誰かが泣き、誰かが笑い、そして誰もが信じようとしていた。
 ――戦争が、ほんの少しでも遠のいたのだと。

 悠はというと、その喧騒の中心で眉をひそめていた。
「……うるせぇ。寝かせろ」

 兵士の肩を借りず、ただ無造作に歩き出す。
 リオネルが苦笑しながら彼の隣を歩いた。
「勇者様、少しくらいは喜ばれても良いのでは?」

「寝かせてくれりゃ、それで十分だ」

 あまりに素っ気ない答えに、兵士たちが苦笑を漏らす。
 だが彼らの瞳には、深い尊敬が宿っていた。

 領主が民をかき分け、勇者の前に進み出た。
 膝をつき、深く頭を下げる。
「勇者殿……! この街は、あなたのおかげで救われました。感謝の言葉もございません!」

 悠は一瞬だけ立ち止まり、無言で視線を逸らす。
「……寝床、あるか?」
「も、もちろんですとも!」
「じゃあ、感謝はそれでいい」

 淡々としたやり取りに、周囲が一瞬だけ静まり返る。
 だが次の瞬間、誰かが笑い出した。
 そして笑いが広がり、歓声が夜空を満たしていく。

 酒場からは樽を運ぶ音が聞こえ始めた。
 いつの間にか、即席の勝利祭の準備が始まっている。
 人々は歌い、泣き、互いの肩を叩き合った。
 誰もが、この瞬間を生きた証として心に刻もうとしていた。

 そんな喧騒の中、悠は広場の片隅で立ち止まる。
 視線の先――泣きながら走ってくるひとりの少女がいた。
 年の頃は十歳かそこらくらい。

「勇者様!」

 少女は息を切らしながら、悠の前まで駆け寄った。
 その声には、歓喜ではなく、切実な願いが込められていた。

「お父さんは……? お父さんは一緒じゃないんですか!?」

 周囲が静まり返る。
 兵士たちの顔に、微かな陰が落ちた。
 悠はしばし無言で少女を見下ろす。
 その瞳の奥には、期待と恐怖がせめぎ合っていた。

 やがて、悠は短く答えた。
「……居なかった」

 その一言が、刃のように少女の胸を貫く。
 少女は震える唇を押さえ、必死に顔を上げた。
「じゃあ……! きっと、他の場所に連れて行かれたんです! そうに決まってます!」

 その声は涙で掠れていたが、確かな希望を宿していた。
 まるで自分自身を励ますように、言葉を絞り出す。

「だから……私も連れて行ってください! お父さんを探すんです!」

 その懇願に、周囲の兵士たちは目を見張った。
 誰もが言葉を失い、勇者の返答を待った。

 悠は顔をしかめた。
「子供がついてきてどうする。面倒だ」

 突き放すような一言。
 それでも少女は退かなかった。
 涙を浮かべながらも、まっすぐに悠を見つめていた。

「絶対に諦めません! お父さんが生きてるなら、私が探しに行きます!」

 彼女の声は震えながらも、どこまでも真っ直ぐだった。
 その目に宿る光――それは戦場でしか見たことのない、決意の炎。

 悠は大きくため息をついた。
 そして頭を掻きながら、ぼそりと呟く。
「……好きにしろ」

 その瞬間、少女の瞳がわずかに揺れ、驚きと安堵が入り混じる。
 涙の跡を拭い、かすかに笑みを見せた。

 リオネルが隣から穏やかな声をかける。
「君の名前は? いくつだ?」

 少女は胸の前で手を握りしめ、はっきりと答えた。
「……エルザ。十歳です」

 その名が、初めてこの地に刻まれた瞬間だった。

 広場のざわめきが再び戻ってくる。
 祭りの太鼓の音が遠くで鳴り始める。
 だが、勇者と少女の間だけは、奇妙な静寂があった。

 悠は空を見上げ、ぼそりと呟く。
「……寝不足確定だな」

 リオネルが苦笑をこぼす。
 「それが勇者様の宿命ですよ」

 その言葉に悠は何も返さなかった。
 ただ、月の光を背に、鎖で縛られた巨影――グラドンを一瞥し、
 その傍らで立ち尽くす少女の横顔を見つめた。

 彼の瞳には、わずかに興味と、ほんの少しの責任感が宿っていた。
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