『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第84話 迎えられる勇者

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ノースランド王国の王都――ファルス。
 その名を聞けば、誰もが「栄光」と「威光」を思い浮かべる。
 王国随一の城塞都市にして、政治と文化の中心。
 高くそびえる白壁の城壁は、遠くからでも陽光を反射して輝き、人々はその姿を“光の門”と呼んでいた。

 鉱山都市を出て五日。
 護送の列はついに、その光の都を望む丘にたどり着いた。

「見えてきました……王都ファルスです」
 馬上のリオネルが声を上げる。
 その横で、寝不足気味の悠が、目を細めて城壁を眺めていた。

「相変わらず……でけぇな」
「王都ですから」
「見た目に威圧感あるのはいいけど、こういうとこ入ると面倒が増えるんだよな」
「勇者様がそう言うと、王様に失礼です」
「失礼で済めばいいけどな」

 エルザは馬車の窓から身を乗り出し、目を輝かせていた。
「すごい……本当にお城が光ってる!」
 彼女の頬には、旅の疲れよりも期待の色が浮かんでいる。
 初めて見る王都。その壮麗さに、子供らしい歓声を上げた。

 街の外周を回るようにして、護送隊は大通りへと進む。
 その途中から、ざわめきが風に乗って届き始めた。
 やがて丘を下り、石畳の街道を進むと――そこには、すでに人の波ができていた。

 「勇者様だ!」「勇者様が帰ってきた!」
 歓声が爆発する。
 商人、兵士、旅人、そして子供たち――。
 皆が両手を振り、護送馬車の列を見つめていた。

 「グラドンを捕らえたって聞いたぞ!」
 「魔王軍の幹部を倒した勇者だ!」
 「見ろ、あの鎖だ! 本物の魔族が中にいる!」

 口々に叫び、群衆が押し寄せる。
 悠は眉をひそめ、ため息をついた。

「……また人混みかよ。逃げ場ねぇな」
「嬉しい歓迎じゃありませんか」
「俺のどこが嬉しそうに見える?」
「少なくとも、退屈はしないでしょう?」
「リオネル、皮肉上手になったな」
「勇者様の影響です」
「……悪い見本だったな」

 人々の歓声に包まれながら、護送馬車はゆっくりと進む。
 中の鉄檻には、まだ意識を失ったままのグラドンが縛られていた。
 その巨体が陽の光を遮るようにして揺れるたび、子供たちが息を呑む。

 エルザは馬車の中から外を見て、小さく呟いた。
「みんな……勇者様を見て笑ってる」
「そうだな」
 悠が答える。
「でもな、笑ってるうちはまだいい。こういう連中は、次の日には『勇者が何をした』って言い出すもんだ」
「それでも、守ったことは変わりません」
 リオネルが穏やかに言った。
「英雄とは、感謝と誤解の両方を受け入れるものです」
「……ありがたくねぇな」
「でも、あなたじゃなきゃ務まりません」
「褒めても寝不足は治らねぇぞ」
「治す気もないでしょう?」
「察しがいいな」

 そんな掛け合いをしながら、隊列は王都の大門へと近づいていく。
 厚い鉄扉がゆっくりと開かれ、その内側には整列した兵士たちと、城の使者たちの姿があった。

「勇者殿のお帰りをお待ちしておりました!」
 先頭の兵が敬礼する。
 その声に続いて、群衆の中から歓声が再び湧き上がった。

「勇者様ーっ!」
「魔王軍に勝った人だー!」
「ありがとう、勇者様!」

 子供たちが列をすり抜け、手にした小さな花を差し出す。
 悠は困ったように片眉を上げた。
「……だから花とか要らんって」
「受け取ってあげてください」
 リオネルが笑みを浮かべて促す。
 悠は仕方なく腰を下ろし、少女から小さな花束を受け取った。
 「ありがとな」
 「うんっ!」
 少女は満面の笑みで駆けていった。

 それを見ていたエルザが、どこか羨ましそうに微笑む。
 リオネルが気づいて尋ねた。
「どうしたの?」
「私も……あんな風に、誰かに“ありがとう”って言えるようになりたいなって」
「あなたはもう言えてるわ。言葉じゃなくて、目でね」
 エルザは照れくさそうに笑った。

 城門の先には、さらに多くの人々が集まっていた。
 王都の警備兵、宮廷魔導士、そして記録官たち。
 誰もが、王命によって護送の様子を記録するために立ち会っている。

 王都ファルスの城壁を越えた瞬間、空気が変わった。
 整然とした石畳、黄金の装飾を施した街灯、遠くに見える王城の尖塔――。
 悠はその景色を見上げ、ぼそりと呟いた。
「……また修理代が高そうな建物ばっかだな」
「勇者様、感想がそれですか」
「だってさ、崩したら罪悪感が倍増するじゃん」
「崩す前提で話さないでください」
「気をつけるよ(多分)」

 兵士の先導で、護送隊は王城へと続く大通りを進む。
 沿道には旗が掲げられ、「勇者凱旋」と染め抜かれた布が風にはためいていた。
 すでに噂は王城に届いている。
 「勇者が七将の一人を討ち取った」と。
 その報告は、王国に久しぶりの希望をもたらしていた。

 だが、悠自身にその実感はない。
 群衆の熱狂の中で、彼の顔に浮かんでいるのは、相変わらずの疲れた笑みだった。

「……俺、こういう“祭り扱い”ほんと苦手なんだよな」
「それも勇者様の務めですよ」
「戦うのが仕事だろ」
「人々に希望を見せるのも、戦いの一部です」
「うーん……説教じみてきたな」
「事実ですから」
「返す言葉がねぇ」

 そんなやり取りの最中、前方の重厚な扉が開き始めた。
 王城の正門だ。
 高さ十メートルを超えるその扉が、低い軋み音を立てて左右に開く。
 黄金の紋章――ノースランド王家の“白鷲”が月光を反射して輝いた。

 「王城の門が開くぞ!」
 兵士の声に、周囲の人々が息を呑む。
 静寂。
 そして、鐘の音が鳴り響く。

 悠はリオネルをちらりと見た。
「……緊張してる?」
「はい。王の前に出るのは久しぶりですから」
「俺は面倒な話が始まる予感しかしねぇ」
「それでも行くしかありません」
「わかってるよ。……行くか」

 馬車がゆっくりと動き出す。
 鉄檻の中のグラドンが、微かに呻いたように見えた。
 その音を背に受けながら、悠は歩き出した。

 「勇者様、王都へ――ご入城です!」
 高らかな声が響く。
 群衆の拍手が一斉に湧き上がり、空を舞う花びらが朝の光を反射してきらめいた。

 ――そして勇者は、再び人々の中心へ。
 栄誉と喧騒の渦の中へと足を踏み入れた。
 その背中には、眠気と、ほんの少しの重みがあった。
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