『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第86話 揺れる王国と眠たげな勇者

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 ノースランド王国王都・ファルス。
 グラドン捕縛から二日後、王城の大広間では早朝から緊急会議が開かれていた。
 まだ外は薄暗く、夜明け前の冷たい空気が廊下に漂う。
 重厚な扉が閉ざされ、金の燭台の炎が静かに揺れる。

 王座の上には国王グラン・ノースランド。
 左右には老臣・宰相・軍務卿・聖騎士団長らが並び、円卓の前に立っていた。
 その場の空気は、勝利の余韻に浸るにはあまりにも重い。

「――七将の一人、“剛腕将軍グラドン”を捕縛。これが報告の全容です」
 軍務卿が朗々と報告を終える。
 静寂が訪れた。
 誰もが互いの顔を見合わせ、すぐには口を開こうとしなかった。

「七将……その名を再び耳にするとはな……」
 老宰相が低く呟いた。
 彼の手は震えている。
 「七将」とは、かつて魔王軍の中でも最も恐れられた七体の幹部。
 人の軍勢では歯が立たず、国境の砦が次々と落ちたあの戦乱の象徴だ。

「一人を捕らえたということは、裏を返せば――残り六人が動く可能性もある」
「そうだ。報復は必至だろう」
「北方、東方、そして海域を押さえている将が出てくるかもしれん」
 次々に声が上がり、会議室はざわついた。

 だがその中で、一人の若い重臣が勢いよく立ち上がった。
「しかし陛下! 我らには“勇者様”がいる! あの方こそ、王国の守護そのものではありませんか!」

「勇者様がいれば、七将など恐れるに足りません!」
 何人かの重臣が同調する。
 熱に浮かされたような声が広がり、やがてそれは拍手にまで変わった。

 しかし、老宰相が杖を突き立てて制した。
「愚か者ども! たしかに勇者殿の力は偉大だ。だが、それに頼りきってはならん!」
「な、なぜです?」
「一人の英雄がいなければ崩れる国など、砂上の楼閣に過ぎん!」

 言葉に重みがあった。
 若き貴族たちはたじろぎ、視線を逸らす。

 王グランがゆっくりと立ち上がり、重く響く声で言った。
「両者の言い分、いずれも理解できる。勇者殿は確かに我が国を救った。しかし、国の命運を一人に委ねることは、王として危うい」

 彼の瞳には、戦の記憶が刻まれていた。
 過去、ノースランドは一度滅びかけた。
 その原因は、かつての“英雄”が討たれたことで軍が総崩れになったからだ。

 その重い記憶を抱えながら、王は続けた。
「……だからこそ、我々は冷静でなければならぬ」

 会議の空気が再び静まる。
 やがて扉がノックされ、一人の女性が入室した。
 リオネルである。

 彼女は深く一礼し、報告の巻物を差し出した。
「陛下。勇者様の現状についてご報告いたします」

「うむ。申せ」

「……特に変わりありません。今朝も定刻通り、寝ておられました」

 会議室が一瞬、凍りつく。

「……寝て、いた?」
「ええ。ぐっすりと。まるで全ての心配事を忘れたように」
 リオネルは微笑を浮かべながらも、やや困ったように報告を続ける。

「王都の騎士団が視察に訪れた時も、『あと五分』と言って布団から出ませんでした」

 どっと笑いが起きる。
 緊張していた空気が、一気に緩んだ。

「まったく……堂々たるものだな」
「これほど肝の据わった勇者も珍しい」
「ある意味、王より落ち着いておられる」

 笑い声が広間を満たす。
 グラン王も苦笑し、玉座の肘掛けを軽く叩いた。
「ふむ……その眠気の深さこそ、平和の証かもしれんな」

 リオネルが静かに頷いた。
「陛下、あの方は……戦いを誇りにする方ではありません。人々の安全を“面倒だから”という理由で守るような方です」
「ほう?」
「ですが、誰よりも早く動き、誰よりも確実に終わらせます。――そして必ず、人を救う」

 その言葉に、王は短く「なるほど」と頷いた。

「それが勇者殿の在り方、か」
「はい。静かに、そして確実に勝利をもたらす方です」

 重臣たちが感心したようにざわめく。
 だがその中で、軍務卿が低い声で呟いた。

「しかし……残り六人の“七将”が動くのは、時間の問題かもしれません」
「うむ。奴らの連携は強固だ。報復の恐れがある」
「北の雪原、東の砂漠、南の海――それぞれに異形の将が潜む」

 地図が広げられる。
 赤い印が六つ。
 それは王国を囲むように点在していた。

 誰もが黙り込む。
 笑いの空気が消え、再び重苦しい沈黙が広がった。

 老宰相が杖を握りしめながら言った。
「次に動くのは、北かもしれん。あの地は寒冷で防衛が薄い。民が凍えれば、軍も動けぬ」

 グラン王は目を細めた。
 「氷……」
 その単語を口にした時、王の心にはかすかな記憶が浮かんだ。
 “氷獄の魔女”――かつて北の果てで数千の兵を一夜にして氷像に変えたという存在。

「陛下……?」
「いや、何でもない」
 王は短く答え、立ち上がった。

「よいか。七将の脅威は続く。だが、恐怖に呑まれてはならぬ。勇者殿を支え、この国を守るのは、我ら全員の責務だ」

 その言葉に全員が一斉に頭を下げた。

 リオネルは最後に報告書を閉じ、静かに言った。
「勇者様には後ほど、会議の内容をお伝えします」

「うむ。……寝ておられるなら、起こすな」
「承知しました」
 彼女は軽く微笑み、静かに扉を閉めた。

 会議の空気は沈んだまま。
 結論は出なかった。
 ただひとつ、“残り六人の七将”という現実だけが、全員の胸に重く残った。

 ――その頃。
 勇者・悠はというと、寝返りを打ちながら小さく呟いていた。

「……会議とかやってる暇あったら……俺の睡眠時間……増やせ……」

 静かな王都の朝。
 世界が再び動き出す音は、まだ彼の夢の外だった。
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