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七将編(剛腕将軍グラドン)
第89話 少女の願いを背負う勇者
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王都ファルスの空は、朝から曇っていた。
重く垂れ込めた雲が、まるで城そのものに影を落としているようだった。
その日、ノースランド王城では「七将の一角・剛腕将軍グラドン」への尋問が行われることとなっていた。
広間の中央には、鎖に繋がれた巨大な石台が用意され、壁一面には封印用の魔法陣が刻まれている。
兵士たちが無言で結界の紋を再確認し、神官が聖印を掲げて祈りを捧げていた。
「封陣層、三重確認。魔封陣、二重維持。結界、異常なし!」
「魔法探知、感応異常なし!」
次々に報告が飛び交う。
緊張した空気が広間を包んでいた。
最奥の玉座席には、国王グラン・ノースランド。
その両脇には宰相と大臣、そして尋問官たちが控えていた。
彼らの顔には、一様に緊張と期待が浮かんでいる。
「――これより、“剛腕将軍グラドン”の尋問を行う」
国王の声が響く。
その言葉と同時に、鉄扉が開かれた。
数十人の兵士たちが鎖を引きながら現れる。
その中央、両腕を封じられた巨体が引きずられていた。
グラドン。
あの鉱山都市を震撼させた魔族の将が、今は囚人として鉄床に座らされる。
鎖が床を擦る音が耳に刺さる。
魔族特有の重苦しい気配が、空気の奥底を震わせた。
だが、広間の入り口にはもう一人の姿があった。
勇者――篠原悠。
眠そうな目を擦りながら、欠伸を噛み殺して入ってくる。
「……で、俺も出るのかこれ」
「当然です、勇者様」
隣でリオネルがぴしりと答える。
「七将への尋問です。あなたが立ち会わねば誰が務まるのですか」
「いや、立ち会うだけだろ? 寝ながらでもいいじゃん」
「無理です」
きっぱりとした即答に、悠は肩を落とした。
「だよなぁ……」
彼の後ろには、エルザの姿もあった。
まだ十三歳の少女は、目を見開きながら牢を運ばれる巨体を見つめていた。
「……あれが……」
声が震える。
「うん、あいつがグラドン。けど近づくな」
悠の言葉に、エルザは小さく頷いた。
⸻
尋問官が前に出る。
長い法衣をまとい、手には記録用の魔晶石を持っていた。
冷静な声で言う。
「では、尋問を開始する。――名を名乗れ」
沈黙。
グラドンは微動だにしない。
瞼は閉じられ、ただ呼吸のたびに鉄鎖がわずかに鳴る。
「答えぬか……」
尋問官が眉をひそめたその時、低い声が響いた。
「……グラドン。……“剛腕将軍”の名を、忘れたことはない」
重く響くその声に、兵士たちが一斉に身構える。
だが、悠だけは欠伸を噛み殺していた。
「……起きてるなら最初から喋れよ」
リオネルが咳払いして場を引き締めた。
「グラドン。王国はお前を捕らえた。今ここで語ることが、お前自身の命を救う唯一の道だ」
その言葉に、グラドンはかすかに笑った。
「命を救う? 我ら魔族に、そんなものは価値があると思うか」
鋭い牙が覗き、口元が歪む。
冷たい嘲笑が広間を満たした。
だが、王は一歩も引かず言葉を投げた。
「ならば問う。“七将”とは何だ。お前たちは何を目的としてこの地に侵攻した?」
しばしの沈黙。
グラドンの目がゆっくりと開く。
深紅の光が闇を貫いた。
「七将は――魔王の腕。俺たちはその力の一部に過ぎん」
「魔王……」
重臣たちがざわめく。
グラドンは続けた。
「人間どもが築く国など、いずれ雪のように溶ける。俺たちはそれを見届けるだけだ」
「なら、どうして攫ったの?」
その時、声を上げたのはエルザだった。
小さな身体を震わせながら前へ出る。
「あなたたちの配下が……! 人間を攫ったって聞いた! 私の父も……あの鉱山で……!」
広間がざわつく。
兵士が慌てて少女を止めようとしたが、悠が手を挙げた。
「放っとけ。聞きたいこと、聞かせてやれ」
エルザの瞳は涙で滲んでいた。
「……お願い、教えて……お父さんはどこにいるの……!」
グラドンの視線が、ゆっくりと少女へ向けられた。
その瞳は冷たく、どこまでも深い闇のようだった。
「……攫ったのは、俺の配下だろうな」
「……っ!」
「だが、俺は知らん。人間がどこへ行こうが興味はない」
無慈悲な言葉だった。
エルザの唇が震える。
「うそ……そんなの……!」
リオネルが静かに彼女の肩を支えた。
「もういい。これ以上は危険です」
エルザは首を振ったが、結局言葉を飲み込んだ。
悠は一歩前に出て、グラドンを見据えた。
「お前の部下が勝手に動いたのか?」
「勝手かどうかなど、どうでもいい。人間など、捕えようが燃やそうが変わらん」
「そうか。……じゃあ、俺の仕事はまだ終わってねぇな」
その言葉に、グラドンの眉がわずかに動いた。
悠の目には、わずかな怒りが宿っていた。
⸻
尋問は続いたが、これ以上の情報は得られなかった。
七将の構成、目的、魔王の居所――そのどれもが沈黙の闇に包まれたままだ。
やがて王が立ち上がり、重く告げた。
「……今日の尋問はここまでとする。これ以上は無益だ」
鎖が鳴り、兵士たちがグラドンを再び地下へ連行していく。
その背を見送りながら、悠はぼそりと呟いた。
「……知らねぇわけねぇだろ、あの顔」
リオネルが隣で小さく頷く。
「ええ。でも、何か……焦らせてはいけない気もします」
「焦らせなくても、そのうちまた何か企んでくる。そういうタイプだ」
エルザは黙ったまま、拳を握りしめていた。
リオネルがそっと膝をつき、目線を合わせる。
「あなたのお父さんのこと、必ず調べます。勇者様と一緒に」
「……ほんとに?」
「ええ。約束します」
その言葉に、エルザは涙を拭き、かすかに頷いた。
⸻
その日の夕刻。
尋問の噂は瞬く間に城外へ漏れ、王都中がざわめいた。
「勇者様が魔族を尋問したらしい!」
「七将の一人が何かを喋ったそうだ!」
「きっと次は、魔王の居場所が分かるんだ!」
噂は尾ひれをつけて膨らみ、夜には市民たちの間で“第二の戦いが始まる”という憶測まで飛び交っていた。
城の自室に戻った悠は、窓を閉めながら小さく息を吐いた。
「……情報が出ても出なくても、結局俺が動くんだよな」
ベッドに倒れ込み、天井を見上げる。
「……寝たい」
そう呟いて目を閉じたが、心のどこかに残るエルザの悲しい声が、いつまでも耳から離れなかった。
重く垂れ込めた雲が、まるで城そのものに影を落としているようだった。
その日、ノースランド王城では「七将の一角・剛腕将軍グラドン」への尋問が行われることとなっていた。
広間の中央には、鎖に繋がれた巨大な石台が用意され、壁一面には封印用の魔法陣が刻まれている。
兵士たちが無言で結界の紋を再確認し、神官が聖印を掲げて祈りを捧げていた。
「封陣層、三重確認。魔封陣、二重維持。結界、異常なし!」
「魔法探知、感応異常なし!」
次々に報告が飛び交う。
緊張した空気が広間を包んでいた。
最奥の玉座席には、国王グラン・ノースランド。
その両脇には宰相と大臣、そして尋問官たちが控えていた。
彼らの顔には、一様に緊張と期待が浮かんでいる。
「――これより、“剛腕将軍グラドン”の尋問を行う」
国王の声が響く。
その言葉と同時に、鉄扉が開かれた。
数十人の兵士たちが鎖を引きながら現れる。
その中央、両腕を封じられた巨体が引きずられていた。
グラドン。
あの鉱山都市を震撼させた魔族の将が、今は囚人として鉄床に座らされる。
鎖が床を擦る音が耳に刺さる。
魔族特有の重苦しい気配が、空気の奥底を震わせた。
だが、広間の入り口にはもう一人の姿があった。
勇者――篠原悠。
眠そうな目を擦りながら、欠伸を噛み殺して入ってくる。
「……で、俺も出るのかこれ」
「当然です、勇者様」
隣でリオネルがぴしりと答える。
「七将への尋問です。あなたが立ち会わねば誰が務まるのですか」
「いや、立ち会うだけだろ? 寝ながらでもいいじゃん」
「無理です」
きっぱりとした即答に、悠は肩を落とした。
「だよなぁ……」
彼の後ろには、エルザの姿もあった。
まだ十三歳の少女は、目を見開きながら牢を運ばれる巨体を見つめていた。
「……あれが……」
声が震える。
「うん、あいつがグラドン。けど近づくな」
悠の言葉に、エルザは小さく頷いた。
⸻
尋問官が前に出る。
長い法衣をまとい、手には記録用の魔晶石を持っていた。
冷静な声で言う。
「では、尋問を開始する。――名を名乗れ」
沈黙。
グラドンは微動だにしない。
瞼は閉じられ、ただ呼吸のたびに鉄鎖がわずかに鳴る。
「答えぬか……」
尋問官が眉をひそめたその時、低い声が響いた。
「……グラドン。……“剛腕将軍”の名を、忘れたことはない」
重く響くその声に、兵士たちが一斉に身構える。
だが、悠だけは欠伸を噛み殺していた。
「……起きてるなら最初から喋れよ」
リオネルが咳払いして場を引き締めた。
「グラドン。王国はお前を捕らえた。今ここで語ることが、お前自身の命を救う唯一の道だ」
その言葉に、グラドンはかすかに笑った。
「命を救う? 我ら魔族に、そんなものは価値があると思うか」
鋭い牙が覗き、口元が歪む。
冷たい嘲笑が広間を満たした。
だが、王は一歩も引かず言葉を投げた。
「ならば問う。“七将”とは何だ。お前たちは何を目的としてこの地に侵攻した?」
しばしの沈黙。
グラドンの目がゆっくりと開く。
深紅の光が闇を貫いた。
「七将は――魔王の腕。俺たちはその力の一部に過ぎん」
「魔王……」
重臣たちがざわめく。
グラドンは続けた。
「人間どもが築く国など、いずれ雪のように溶ける。俺たちはそれを見届けるだけだ」
「なら、どうして攫ったの?」
その時、声を上げたのはエルザだった。
小さな身体を震わせながら前へ出る。
「あなたたちの配下が……! 人間を攫ったって聞いた! 私の父も……あの鉱山で……!」
広間がざわつく。
兵士が慌てて少女を止めようとしたが、悠が手を挙げた。
「放っとけ。聞きたいこと、聞かせてやれ」
エルザの瞳は涙で滲んでいた。
「……お願い、教えて……お父さんはどこにいるの……!」
グラドンの視線が、ゆっくりと少女へ向けられた。
その瞳は冷たく、どこまでも深い闇のようだった。
「……攫ったのは、俺の配下だろうな」
「……っ!」
「だが、俺は知らん。人間がどこへ行こうが興味はない」
無慈悲な言葉だった。
エルザの唇が震える。
「うそ……そんなの……!」
リオネルが静かに彼女の肩を支えた。
「もういい。これ以上は危険です」
エルザは首を振ったが、結局言葉を飲み込んだ。
悠は一歩前に出て、グラドンを見据えた。
「お前の部下が勝手に動いたのか?」
「勝手かどうかなど、どうでもいい。人間など、捕えようが燃やそうが変わらん」
「そうか。……じゃあ、俺の仕事はまだ終わってねぇな」
その言葉に、グラドンの眉がわずかに動いた。
悠の目には、わずかな怒りが宿っていた。
⸻
尋問は続いたが、これ以上の情報は得られなかった。
七将の構成、目的、魔王の居所――そのどれもが沈黙の闇に包まれたままだ。
やがて王が立ち上がり、重く告げた。
「……今日の尋問はここまでとする。これ以上は無益だ」
鎖が鳴り、兵士たちがグラドンを再び地下へ連行していく。
その背を見送りながら、悠はぼそりと呟いた。
「……知らねぇわけねぇだろ、あの顔」
リオネルが隣で小さく頷く。
「ええ。でも、何か……焦らせてはいけない気もします」
「焦らせなくても、そのうちまた何か企んでくる。そういうタイプだ」
エルザは黙ったまま、拳を握りしめていた。
リオネルがそっと膝をつき、目線を合わせる。
「あなたのお父さんのこと、必ず調べます。勇者様と一緒に」
「……ほんとに?」
「ええ。約束します」
その言葉に、エルザは涙を拭き、かすかに頷いた。
⸻
その日の夕刻。
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「七将の一人が何かを喋ったそうだ!」
「きっと次は、魔王の居場所が分かるんだ!」
噂は尾ひれをつけて膨らみ、夜には市民たちの間で“第二の戦いが始まる”という憶測まで飛び交っていた。
城の自室に戻った悠は、窓を閉めながら小さく息を吐いた。
「……情報が出ても出なくても、結局俺が動くんだよな」
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