『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第92話 七将の名そして勇者

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王城の大広間に、再び重苦しい空気が満ちていた。
 前日の尋問は、魔王の呪縛によって中止となった。
 グラドンが仲間の名を語ろうとした瞬間、黒い紋様が首に浮かび、喉を焼くような苦痛に襲われたのだ。
 誰も手出しできず、尋問は途中で打ち切られた。

 ――そして翌日。

 国王グラン・ノースランドの命により、再尋問が行われようとしていた。
 玉座の前では、魔導士たちが新たな結界を張り、封印の陣を二重に展開している。
 兵士たちは全員が武装を整え、緊張に包まれていた。

 リオネルが王の隣で小さく告げる。
 「陛下……昨日と同じ事態になれば、命が危険です」
 グラン王は静かに頷いた。
 「分かっている。だが、放ってはおけん。七将の全貌を知ることこそ、王国防衛の鍵だ」



 その少し離れた席。
 悠は椅子にだらりと座り、あくびを噛み殺していた。

 「……昨日も思ったけどさ、これ寝ながらでもよくね?」
 「勇者様、緊張感という言葉をご存じですか?」
 リオネルの苦笑混じりの声にも、悠は肩をすくめた。
 「聞き飽きた」

 その間にも、鎖で繋がれた巨体――グラドンが再び大広間の中央に引き出されていた。
 鎖は強化魔鋼製。だが、それでも軋み音が響くほどの重圧があった。

 グラン王の声が、厳かに響く。
 「グラドンよ。昨日は魔王の呪縛により沈黙した。
  だが我らは、貴様の中にまだ語れる意思が残っていると見ている。
  再び問う――“七将”とは何者か」

 その瞬間、グラドンの首筋に再び黒い紋様が走った。
 魔導士たちが息を呑む。
 「陛下! また……!」

 黒い霧が立ち上り、鎖の隙間から魔力の波動が溢れ出した。
 グラドンの体が激しく震え、喉を押さえる。

 「う、ぐ……ッ……こ……れは……」

 リオネルが結界強化の合図を出そうとしたその時――
 悠が、ゆっくりと立ち上がった。



 「……また同じパターンか」

 大広間の視線が一斉に集まる。
 悠はポケットに手を突っ込んだまま、黒い霧の中へと歩み寄った。

 「勇者様、危険です!」
 「大丈夫、ちょっと触るだけだから」

 悠の手が黒い霧に触れた瞬間、空気が変わった。
 蒼い閃光が、まるで空間そのものを押し戻すように広がる。
 黒い呪縛の紋様がパリンと砕け、消滅した。

 魔導士たちが絶句した。
 呪いを解く詠唱も行っていない。
 ただ“触れただけ”で、魔王級の禁呪が消えたのだ。

 悠は手を見つめ、首を傾げる。
 「……え? なんか今、勝手に消えたぞ」

 リオネルが驚愕の声を漏らす。
 「勇者様、それは……魔力による干渉ではありません。理そのものを……」

 悠はあくびをして遮った。
 「理とか難しい話やめろ。面倒くさい」

 グラン王は黙ってその光景を見つめていた。
 彼の表情には、畏れと感嘆が入り混じっている。
 「……やはり、勇者とは“神に選ばれし存在”なのか」



 鎖に縛られたまま、グラドンが低く笑った。
 「……ふ、はは……。これが……理を壊す力……」
 悠が眉をひそめる。
 「何それ。変なあだ名つけんな」

 笑い声が止むと、グラドンは深く息を吐いた。
 「いいだろう……もう隠す必要もない。
  この喉が焼き切れる前に、語ってやる」



 そして――彼は七将の名を並べ始めた。

 「“氷獄の魔女”セレナ。
  北の雪原を支配し、吹雪を呼ぶ。
  その杖の一振りで、千の兵が氷像になる」

 「“魔獣女王”リュシア。
  東の大森林を治める獣人の女王。
  笛一つで、森全体を戦場に変える」

 「“砂漠王”ジャファル。
  南の砂嵐を統べる人間上がりの堕王。
  幻を見せ、快楽のままに国を滅ぼした」

 「“影刃”ザイレク。
  王都にも潜む暗黒エルフの暗殺者。
  影を裂き、どこにでも現れる」

 「“深海の支配者”ネレイス。
  南洋の底に住まう海魔の女王。
  海そのものが彼女の領域だ」

 「そして――“七将の頭領”ヴァルザーク。
  我らを束ねる統制者にして、魔王の
側近」

 その声が止んだ瞬間、広間の全員が言葉を失った。
 兵士も、魔導士も、重臣も。



 王は深く息を吸い、厳しく告げる。
 「七将……その全貌を掴んだだけでも、大きな一歩だ」

 悠は頭をかきながら呟いた。
 「覚えきれねぇ。名前多すぎ」

 リオネルが小声でフォローする。
 「セレナ、リュシア、ジャファル、ザイレク、ネレイス、ヴァルザーク、ですね」
 「うん。もう無理。七日寝かせて」

 重苦しい空気の中で、なぜか笑いが漏れた。
 ほんの一瞬だけ、恐怖が和らぐ。



 だがその頃。
 王都の外では、別の熱が広がっていた。

 「勇者様が七将を倒すらしい!」
 「次は北の氷の魔女だ!」
 「これで王国は安泰だ!」

 悠がその噂を耳にしたのは、廊下を歩いていた時だった。
 「……また勝手に決めやがって」
 リオネルが笑う。
 「ですが皆、勇者様を信じています」
 「信じるのは勝手だ。でも俺は……寝たいだけなんだよな」

 その言葉に、リオネルは微笑んだ。
 「それでも――貴方こそ、人々が求めた勇者です」

 悠はため息をつき、頭をかいた。
 「……やっぱり面倒の始まりだな」
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