『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(剛腕将軍グラドン)

第93話 脅し文句は聞き飽きた勇者

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 王城地下――厚い石壁に囲まれた静寂の空間。
 尋問を終えたグラドンは、再びその巨体を鎖で縛られ、暗い牢へと戻されていた。

 鉄格子の向こうで、彼の瞳だけがゆらりと光る。
 その赤黒い輝きは、まるで火の残り香のようで、見張りの兵士たちの心を焼き焦がす。

 「こいつ、本当に喋ったんだよな……?」
 「嘘じゃない。王の前で七将の名を口にした」
 「でも……まだ笑ってやがる」

 そう呟く兵士たちの視線の先で、グラドンの唇がわずかに歪んだ。

 「……ふ、ふは……」
 重低音のような笑いが、牢の奥から響く。
 「勇者……王……愚かな人間どもよ。すぐに分かる……すぐにだ」

 その一言で、兵士たちは息を飲んだ。



 地上の喧騒とは裏腹に、地下の空気は冷たい。
 湿った石の壁に灯る魔導灯の光が、不気味に揺らめいていた。

 兵士の一人が震える声で問う。
 「……何が“すぐに分かる”だと?」

 グラドンはゆっくりと顔を上げた。
 鎖が軋み、鉄床に響く。

 「七将はひとつ。誰かが倒れれば、残る六人がそれを感じ取る。
  貴様らが封じ込めようとしたところで――すでに“次”は動いている」

 兵士たちの顔色が変わった。
 「な、仲間が来るってのか……!?」
 「まさか、王都に!?」

 グラドンの笑い声が地下を震わせた。
 「“氷獄の魔女”セレナ。あの女は、冷たき誇りを持つ。
  我の敗北を恥と感じ、吹雪をもって貴様らを葬るだろう……」

 空気が一気に冷えた。
 まるで本当に、その名を呼んだだけで氷の気配が滲み出たようだった。



 「……騒がしいな」

 背後から、気の抜けた声が響いた。
 悠が、木の階段を降りながら片手をポケットに突っ込み、欠伸をしながら現れた。

 「勇者様!」
 リオネルがすぐ後ろに続く。
 「地下まで来られるとは思いませんでした」

 悠は眠たげに答えた。
 「上がうるさくてさ。どうせ静かなのはここくらいだろ?」

 牢の中で、グラドンの笑みがぴたりと止まる。
 「……勇者」

 悠は牢の前で立ち止まり、柵越しにグラドンを見下ろした。
 その瞳に宿る蒼い光は、魔王の呪縛を解いた時と同じ、底知れぬ輝き。

 「お前さ、さっきから“仲間が来る”って言ってるけど、
  わざわざ来てどうすんの? また負けに来るのか?」

 挑発するような軽い言葉。
 だが、それを聞いた兵士たちは背筋が凍った。

 グラドンが唸る。
 「我を侮るな、勇者……我ら七将の絆は、貴様の理では測れぬ!」

 悠は片眉を上げた。
 「理ねぇ……この前、壊しちゃったやつだろ」

 牢の中の空気が一瞬、静止する。
 リオネルが思わず口元を押さえた。
 「勇者様……その言い方は……」
 「いいじゃん。たまには格好つけないと」



 悠は柵に手をかけ、軽く叩いた。
 「ま、壊すのはもう勘弁だな。面倒だし」

 リオネルが後ろで指示を飛ばす。
 「結界班! 封印層を三重に強化! 床下にも魔力封印陣を追加しなさい!」
 兵士たちが慌ただしく動く。

 その光景を見て、悠がぼそりと呟く。
 「壊れる前提で準備するとか、効率悪くね?」

 リオネルが少しだけ睨むような目で返す。
 「備えあれば憂いなしです」
 「うん、でも憂いばっか増えてね?」

 兵士の一人が緊張した声を上げる。
 「ですが、勇者様! あの魔族は……また暴れ出すかもしれません!」

 悠は片手を振りながら、ゆるく笑った。
 「まぁ、そうならないようにしてやるよ。面倒だから」

 そう言いながら、彼の指先が軽く宙をなぞる。
 次の瞬間、牢全体を淡い蒼光が包んだ。

 魔導士たちが息を呑む。
 「い、今のは……!」
 リオネルも驚きに目を見開く。
 「勇者様……これは結界魔法……いえ、それ以上の……」

 悠は手を振って遮った。
 「簡易版。多分、壊れない。たぶん」
 「“たぶん”って言いましたよね!?」

 しかし、牢は安定したままだった。
 蒼光が淡く収まり、空気が静かに鎮まっていく。



 グラドンが低く呟く。
 「……勇者、お前の力……やはり異質だ。
  この世界の理を無視して存在している……」

 悠は退屈そうに耳をほじりながら答えた。
 「難しい話やめろ。聞いても眠くなる」

 「だがな……いずれ貴様も知るだろう。
  “力”とは、“存在”そのものを歪める毒だと……」

 悠は無言でグラドンを見下ろす。
 次の瞬間、薄く笑い、短く言い放った。
 「脅し文句もワンパターンだな」

 それだけ言うと、悠は背を向けた。
 足音を響かせながら、ゆっくりと階段を上っていく。

 リオネルが後を追いながら尋ねる。
 「勇者様、これからどうなさるおつもりですか?」
 「風呂入って、寝る」
 「……いつも通りですね」



 牢の中。
 グラドンはその背を見送りながら、微笑を深めた。

 「……あの力。やはり人の器ではない……。
  いずれ魔王様が気づく。あれが“異界の理”だと……」

 鎖が軋み、闇が蠢く。
 だが、牢の光は揺るがない。

 ――勇者が張った蒼い結界が、すべての闇を押し返していた。



 地上では、夜風が王都の塔を撫でていた。
 その冷たい風の向こう――北方の空に、淡い白光が瞬いている。

 それは、氷の魔女セレナが放つ“呼び声”の予兆だった。
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