『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

KAORUwithAI

文字の大きさ
99 / 158
七将編(剛腕将軍グラドン)

第94話 依存と信頼と勇者

しおりを挟む
 王都ファルスの夜空を、白い月が静かに照らしていた。
 昼間の喧騒は消え、街は落ち着きを取り戻したかに見える。
 だが、その穏やかさの裏で――王城は眠ってはいなかった。

 今夜、城内の最上階にある「戦略会議室」には、王国の重臣たちが集められている。
 長い円卓の上には地図が広げられ、王国全土を示す魔導ランプが青白く灯っていた。



 「七将の一角が捕らえられた……。それ自体は快挙だ」
 財務卿が震える声で言う。
 「だが、問題はここからだ。残る六人が――」

 「黙れ!」と声を張り上げたのは軍務卿だった。
 「我らには勇者がいる! 篠原悠殿の力を見たであろう。あの者がいれば、魔王軍など恐るるに足らん!」

 その言葉に、別の貴族が苦々しく返す。
 「軽々しく言うな。確かに勇者殿は強大だ。だが、彼は異世界の存在――我々が制御できぬ力を持っている。
  もしその力が、こちらに牙を剥いたらどうする?」

 室内に一瞬、重たい沈黙が落ちた。
 議論の熱が冷え、誰もが口をつぐむ。



 王の座に腰掛けるのは、グラン・ノースランド国王。
 年老いてなお背筋を伸ばし、その目は鋭く、すべてを見透かしているようだった。

 彼は何も言わず、ただ議論を聞いていた。
 重臣たちの声がぶつかり合う中でも、ひときわ静かで、揺るがない。

 その視線の先――。

 円卓の端、背もたれに深く体を預け、舟を漕いでいる男がいた。

 「……すぅ……すぅ……」

 ――勇者、篠原悠である。



 「お、おい……勇者殿が寝ておられるぞ」
 「ま、まさかこんな緊急会議で……?」
 兵士たちの小声がざわつく。

 リオネルが小さくため息をついた。
 「お気になさらず。あの方にとっては、眠れることこそ“平和”の証です」

 彼女は微笑を浮かべたが、その目にはわずかな不安が宿っていた。
 ――悠がどれだけ飄々としていても、彼の心が常に平穏なわけではないことを、リオネルは知っている。

 王の命令で七将の尋問に立ち会い、魔王の呪縛を破った。
 それをやってのけた時の、あの一瞬の蒼光――。
 彼がこの世界の理を超えている証拠だと、リオネルは感じていた。



 「……勇者の力に頼るのは危険だと言うがな」
 宰相が口を開いた。
 「もはや他に道はあるまい。王国軍だけで六人の七将を相手にできると思うか?」

 軍務卿がうなずき、声を荒げる。
 「そうだ! 勇者殿を信じねばならん。彼こそが、我らの希望だ!」

 その言葉に、別の貴族が反論する。
 「希望? 神か何かのように扱ってどうする! もしその“希望”が折れたら、王国はどうなる?」

 議論は再び熱を帯び、怒号が交錯した。
 机を叩く音、椅子の軋む音、紙の散る音――。

 リオネルはそっと目を閉じ、心の中でつぶやく。
 (皆、怖いのだ……。七将という名に。魔王という存在に。そして――勇者の力に)



 「……おい」

 不意に、低い声が響いた。
 全員が振り向く。

 悠が椅子から頭を上げ、半分寝ぼけた顔でこちらを見ていた。

 「うるせぇな……。寝られねぇだろ」

 その一言に、場の空気が止まる。
 誰もが言葉を失った。

 王すら、思わず笑みを浮かべたほどだった。

 悠はぼりぼりと頭をかきながら立ち上がり、椅子を引く音を立てる。
 「で、何の話してたんだっけ。勇者が危険だとか、頼るしかないとか?」

 軍務卿が慌てて答える。
 「い、いえ! 勇者殿のお力をどう活かすべきかと――」
 「活かすって……俺、武器じゃねぇよ」

 悠の口調は軽い。
 だが、言葉の奥には確かな重みがあった。

 「勝手に祭り上げて、勝手に期待して、勝手に怖がる。
  どいつもこいつも、俺のこと“人”として見てねぇんだな」

 沈黙。
 誰も反論できなかった。



 悠は大きくあくびをして、腕を伸ばした。
 「まぁ、いいけど。俺は俺でやるだけだ。
  ……眠いから、今日はもう帰る」

 そう言って、ひょいと手を振りながら会議室を出ていった。
 扉が閉まるまでの数秒間、誰一人として声を出せなかった。

 リオネルだけが、その背中を見送りながら小さく微笑んだ。
 「……それが勇者様なのです」

 彼女の言葉に、ようやく国王が口を開く。
 「――あの者の何気ない言葉こそ、我々が見失っていた“真理”かもしれんな」

 宰相が頷く。
 「はい……“人”としての勇者。
  その存在が、王国の未来を変えるのやもしれませぬ」



 やがて、会議は解散となった。
 重臣たちは疲れ切った顔で退室し、王は最後まで席を立たなかった。
 窓の外に目をやると、月光が城壁を淡く照らしている。

 「……七将。氷の魔女セレナ。北の雪原か」
 王の呟きが、誰にも届かぬまま夜に溶けていった。



 一方その頃――。

 悠は廊下の長椅子に腰を下ろし、上着を枕代わりに寝転んでいた。
 兵士が通りかかり、驚いたように立ち止まる。

 「ゆ、勇者殿!? こんな所で寝ておられるのですか!」
 「んー……椅子、意外と寝心地いいぞ」

 兵士は思わず顔を見合わせた。
 リオネルが通りかかり、苦笑する。
 「この状況で寝られるのか……」
 「それが勇者様なのです」

 彼女はそっと毛布を掛け、静かにその場を去った。



 月明かりが窓を照らし、悠の頬を淡く照らす。
 その寝顔は、どこか無防備で、まるで普通の青年のようだった。

 だが――その背後の空気が、微かに揺らぐ。
 北の方角から、冷たい風が王都を撫でた。
 風の中に、かすかな氷の粒が混じる。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

処理中です...