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七将編(剛腕将軍グラドン)
第94話 依存と信頼と勇者
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王都ファルスの夜空を、白い月が静かに照らしていた。
昼間の喧騒は消え、街は落ち着きを取り戻したかに見える。
だが、その穏やかさの裏で――王城は眠ってはいなかった。
今夜、城内の最上階にある「戦略会議室」には、王国の重臣たちが集められている。
長い円卓の上には地図が広げられ、王国全土を示す魔導ランプが青白く灯っていた。
⸻
「七将の一角が捕らえられた……。それ自体は快挙だ」
財務卿が震える声で言う。
「だが、問題はここからだ。残る六人が――」
「黙れ!」と声を張り上げたのは軍務卿だった。
「我らには勇者がいる! 篠原悠殿の力を見たであろう。あの者がいれば、魔王軍など恐るるに足らん!」
その言葉に、別の貴族が苦々しく返す。
「軽々しく言うな。確かに勇者殿は強大だ。だが、彼は異世界の存在――我々が制御できぬ力を持っている。
もしその力が、こちらに牙を剥いたらどうする?」
室内に一瞬、重たい沈黙が落ちた。
議論の熱が冷え、誰もが口をつぐむ。
⸻
王の座に腰掛けるのは、グラン・ノースランド国王。
年老いてなお背筋を伸ばし、その目は鋭く、すべてを見透かしているようだった。
彼は何も言わず、ただ議論を聞いていた。
重臣たちの声がぶつかり合う中でも、ひときわ静かで、揺るがない。
その視線の先――。
円卓の端、背もたれに深く体を預け、舟を漕いでいる男がいた。
「……すぅ……すぅ……」
――勇者、篠原悠である。
⸻
「お、おい……勇者殿が寝ておられるぞ」
「ま、まさかこんな緊急会議で……?」
兵士たちの小声がざわつく。
リオネルが小さくため息をついた。
「お気になさらず。あの方にとっては、眠れることこそ“平和”の証です」
彼女は微笑を浮かべたが、その目にはわずかな不安が宿っていた。
――悠がどれだけ飄々としていても、彼の心が常に平穏なわけではないことを、リオネルは知っている。
王の命令で七将の尋問に立ち会い、魔王の呪縛を破った。
それをやってのけた時の、あの一瞬の蒼光――。
彼がこの世界の理を超えている証拠だと、リオネルは感じていた。
⸻
「……勇者の力に頼るのは危険だと言うがな」
宰相が口を開いた。
「もはや他に道はあるまい。王国軍だけで六人の七将を相手にできると思うか?」
軍務卿がうなずき、声を荒げる。
「そうだ! 勇者殿を信じねばならん。彼こそが、我らの希望だ!」
その言葉に、別の貴族が反論する。
「希望? 神か何かのように扱ってどうする! もしその“希望”が折れたら、王国はどうなる?」
議論は再び熱を帯び、怒号が交錯した。
机を叩く音、椅子の軋む音、紙の散る音――。
リオネルはそっと目を閉じ、心の中でつぶやく。
(皆、怖いのだ……。七将という名に。魔王という存在に。そして――勇者の力に)
⸻
「……おい」
不意に、低い声が響いた。
全員が振り向く。
悠が椅子から頭を上げ、半分寝ぼけた顔でこちらを見ていた。
「うるせぇな……。寝られねぇだろ」
その一言に、場の空気が止まる。
誰もが言葉を失った。
王すら、思わず笑みを浮かべたほどだった。
悠はぼりぼりと頭をかきながら立ち上がり、椅子を引く音を立てる。
「で、何の話してたんだっけ。勇者が危険だとか、頼るしかないとか?」
軍務卿が慌てて答える。
「い、いえ! 勇者殿のお力をどう活かすべきかと――」
「活かすって……俺、武器じゃねぇよ」
悠の口調は軽い。
だが、言葉の奥には確かな重みがあった。
「勝手に祭り上げて、勝手に期待して、勝手に怖がる。
どいつもこいつも、俺のこと“人”として見てねぇんだな」
沈黙。
誰も反論できなかった。
⸻
悠は大きくあくびをして、腕を伸ばした。
「まぁ、いいけど。俺は俺でやるだけだ。
……眠いから、今日はもう帰る」
そう言って、ひょいと手を振りながら会議室を出ていった。
扉が閉まるまでの数秒間、誰一人として声を出せなかった。
リオネルだけが、その背中を見送りながら小さく微笑んだ。
「……それが勇者様なのです」
彼女の言葉に、ようやく国王が口を開く。
「――あの者の何気ない言葉こそ、我々が見失っていた“真理”かもしれんな」
宰相が頷く。
「はい……“人”としての勇者。
その存在が、王国の未来を変えるのやもしれませぬ」
⸻
やがて、会議は解散となった。
重臣たちは疲れ切った顔で退室し、王は最後まで席を立たなかった。
窓の外に目をやると、月光が城壁を淡く照らしている。
「……七将。氷の魔女セレナ。北の雪原か」
王の呟きが、誰にも届かぬまま夜に溶けていった。
⸻
一方その頃――。
悠は廊下の長椅子に腰を下ろし、上着を枕代わりに寝転んでいた。
兵士が通りかかり、驚いたように立ち止まる。
「ゆ、勇者殿!? こんな所で寝ておられるのですか!」
「んー……椅子、意外と寝心地いいぞ」
兵士は思わず顔を見合わせた。
リオネルが通りかかり、苦笑する。
「この状況で寝られるのか……」
「それが勇者様なのです」
彼女はそっと毛布を掛け、静かにその場を去った。
⸻
月明かりが窓を照らし、悠の頬を淡く照らす。
その寝顔は、どこか無防備で、まるで普通の青年のようだった。
だが――その背後の空気が、微かに揺らぐ。
北の方角から、冷たい風が王都を撫でた。
風の中に、かすかな氷の粒が混じる。
昼間の喧騒は消え、街は落ち着きを取り戻したかに見える。
だが、その穏やかさの裏で――王城は眠ってはいなかった。
今夜、城内の最上階にある「戦略会議室」には、王国の重臣たちが集められている。
長い円卓の上には地図が広げられ、王国全土を示す魔導ランプが青白く灯っていた。
⸻
「七将の一角が捕らえられた……。それ自体は快挙だ」
財務卿が震える声で言う。
「だが、問題はここからだ。残る六人が――」
「黙れ!」と声を張り上げたのは軍務卿だった。
「我らには勇者がいる! 篠原悠殿の力を見たであろう。あの者がいれば、魔王軍など恐るるに足らん!」
その言葉に、別の貴族が苦々しく返す。
「軽々しく言うな。確かに勇者殿は強大だ。だが、彼は異世界の存在――我々が制御できぬ力を持っている。
もしその力が、こちらに牙を剥いたらどうする?」
室内に一瞬、重たい沈黙が落ちた。
議論の熱が冷え、誰もが口をつぐむ。
⸻
王の座に腰掛けるのは、グラン・ノースランド国王。
年老いてなお背筋を伸ばし、その目は鋭く、すべてを見透かしているようだった。
彼は何も言わず、ただ議論を聞いていた。
重臣たちの声がぶつかり合う中でも、ひときわ静かで、揺るがない。
その視線の先――。
円卓の端、背もたれに深く体を預け、舟を漕いでいる男がいた。
「……すぅ……すぅ……」
――勇者、篠原悠である。
⸻
「お、おい……勇者殿が寝ておられるぞ」
「ま、まさかこんな緊急会議で……?」
兵士たちの小声がざわつく。
リオネルが小さくため息をついた。
「お気になさらず。あの方にとっては、眠れることこそ“平和”の証です」
彼女は微笑を浮かべたが、その目にはわずかな不安が宿っていた。
――悠がどれだけ飄々としていても、彼の心が常に平穏なわけではないことを、リオネルは知っている。
王の命令で七将の尋問に立ち会い、魔王の呪縛を破った。
それをやってのけた時の、あの一瞬の蒼光――。
彼がこの世界の理を超えている証拠だと、リオネルは感じていた。
⸻
「……勇者の力に頼るのは危険だと言うがな」
宰相が口を開いた。
「もはや他に道はあるまい。王国軍だけで六人の七将を相手にできると思うか?」
軍務卿がうなずき、声を荒げる。
「そうだ! 勇者殿を信じねばならん。彼こそが、我らの希望だ!」
その言葉に、別の貴族が反論する。
「希望? 神か何かのように扱ってどうする! もしその“希望”が折れたら、王国はどうなる?」
議論は再び熱を帯び、怒号が交錯した。
机を叩く音、椅子の軋む音、紙の散る音――。
リオネルはそっと目を閉じ、心の中でつぶやく。
(皆、怖いのだ……。七将という名に。魔王という存在に。そして――勇者の力に)
⸻
「……おい」
不意に、低い声が響いた。
全員が振り向く。
悠が椅子から頭を上げ、半分寝ぼけた顔でこちらを見ていた。
「うるせぇな……。寝られねぇだろ」
その一言に、場の空気が止まる。
誰もが言葉を失った。
王すら、思わず笑みを浮かべたほどだった。
悠はぼりぼりと頭をかきながら立ち上がり、椅子を引く音を立てる。
「で、何の話してたんだっけ。勇者が危険だとか、頼るしかないとか?」
軍務卿が慌てて答える。
「い、いえ! 勇者殿のお力をどう活かすべきかと――」
「活かすって……俺、武器じゃねぇよ」
悠の口調は軽い。
だが、言葉の奥には確かな重みがあった。
「勝手に祭り上げて、勝手に期待して、勝手に怖がる。
どいつもこいつも、俺のこと“人”として見てねぇんだな」
沈黙。
誰も反論できなかった。
⸻
悠は大きくあくびをして、腕を伸ばした。
「まぁ、いいけど。俺は俺でやるだけだ。
……眠いから、今日はもう帰る」
そう言って、ひょいと手を振りながら会議室を出ていった。
扉が閉まるまでの数秒間、誰一人として声を出せなかった。
リオネルだけが、その背中を見送りながら小さく微笑んだ。
「……それが勇者様なのです」
彼女の言葉に、ようやく国王が口を開く。
「――あの者の何気ない言葉こそ、我々が見失っていた“真理”かもしれんな」
宰相が頷く。
「はい……“人”としての勇者。
その存在が、王国の未来を変えるのやもしれませぬ」
⸻
やがて、会議は解散となった。
重臣たちは疲れ切った顔で退室し、王は最後まで席を立たなかった。
窓の外に目をやると、月光が城壁を淡く照らしている。
「……七将。氷の魔女セレナ。北の雪原か」
王の呟きが、誰にも届かぬまま夜に溶けていった。
⸻
一方その頃――。
悠は廊下の長椅子に腰を下ろし、上着を枕代わりに寝転んでいた。
兵士が通りかかり、驚いたように立ち止まる。
「ゆ、勇者殿!? こんな所で寝ておられるのですか!」
「んー……椅子、意外と寝心地いいぞ」
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リオネルが通りかかり、苦笑する。
「この状況で寝られるのか……」
「それが勇者様なのです」
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⸻
月明かりが窓を照らし、悠の頬を淡く照らす。
その寝顔は、どこか無防備で、まるで普通の青年のようだった。
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風の中に、かすかな氷の粒が混じる。
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