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七将編(氷獄の魔女セレナ)
第20話 氷獄の魔女と相対する勇者
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氷の塔を抜けた回廊は、異様なまでに静かだった。
足音が、遅れて返ってくる。
氷の壁が音を抱え込み、歪め、吐き戻すような感覚。
「……ここが、城の中枢か」
悠は低く呟いた。
回廊の先に、巨大な扉がある。
氷で作られた両開きの扉は、装飾もなく、ただ“閉ざすため”だけに存在しているようだった。
悠が一歩踏み出した瞬間――
扉は、ひとりでに開いた。
ギィ……
氷が軋む音が、長く尾を引く。
中は、広大な空間だった。
天井は遥か高く、無数の氷柱が逆さの森のように垂れ下がっている。
床は鏡のように凍りつき、淡い蒼光を反射していた。
謁見の間――
そう呼ぶ以外にない場所。
三人が足を踏み入れた、その瞬間。
ガン……ッ
背後で扉が閉じる。
音は小さい。だが、逃げ道を断つには十分だった。
冷気が、さらに一段階、濃くなる。
呼吸をするたび、肺が冷やされる感覚がある。
そして――
奥。
氷の段差の先、王座の位置に、影があった。
「……よく来たわね、勇者」
声は、澄んでいて、冷たい。
それでいて、不思議と耳に残る。
影が、立ち上がる。
氷が、音を立てて形を変えた。
王座と一体化していた氷がほどけ、女性の姿を形作る。
白銀の髪。
氷を削り出したかのような肌。
蒼い瞳は、光を宿しながらも感情を映さない。
氷の杖を携え、彼女はゆっくりと歩み出た。
氷獄の魔女――セレナ。
その存在感は、これまでの敵とは次元が違った。
リオネルの喉が、かすかに鳴る。
無意識のうちに、膝が折れかけていた。
「……っ」
エルザは息を呑み、言葉を失う。
恐怖、というより――
“触れてはいけないものを前にした”本能的な感覚だった。
だが。
悠だけが、一歩、前に出た。
「……あんたが、セレナか」
剣は抜かない。
だが、腰から離しもしない。
「随分、寒そうな城だな。住むには向いてねぇ」
場違いなほど、軽い口調。
だが、それは虚勢ではなかった。
セレナの唇が、わずかに歪む。
「噂通り……変わった勇者ね」
蒼い瞳が、悠を値踏みするように見つめる。
「恐れない。跪かない。
……面白いわ」
「褒め言葉として受け取っとく」
悠は肩をすくめた。
「で? 歓迎はこれで終わりか?」
セレナは、ゆっくりと歩みを止める。
「この城は、私の意思そのもの」
淡々と、しかし断言する声。
「この地を凍らせているのは、私よ」
悠の目が、わずかに細くなる。
「その意思のせいで、凍ってる人間がいる」
セレナの表情が、ほんの一瞬だけ、冷たくなる。
「知っているわ」
「なら――」
「それでも、止めるつもりはない」
はっきりとした拒絶。
言い訳も、弁明もない。
セレナは氷の杖を、軽く床に突いた。
キン……
音は小さい。
だが、次の瞬間――
床が、一気に凍りついた。
いや、もともと凍ってはいた。
だが、それは“次元が違う”。
魔力の奔流が、空間を満たす。
氷の圧力が、三人を包み込み、立っているだけで精一杯になる。
「……っ!」
リオネルが歯を食いしばる。
「勇者様……!」
エルザは膝をつきそうになり、必死に床に手をついた。
悠は――
踏みとどまっていた。
剣に手をかける。
だが、抜かない。
(……勝てねぇ)
直感が、はっきりと告げていた。
ここで斬りかかれば、確実に負ける。
セレナは、その様子を見逃さない。
「戦う気なら……次は、氷にしてあげる」
氷の杖が、ほんの少しだけ、傾く。
それだけで、この場の全員が理解した。
次は警告ではない、と。
悠は、ゆっくりと息を吐いた。
そして――
剣を、下ろさなかった。
だが、構えも解いた。
「……分かった」
その声は、落ち着いていた。
「今日は、戦いに来たわけじゃねぇ」
セレナの眉が、わずかに動く。
「話をしに来た」
一瞬。
空気が、止まった。
やがて、セレナは小さく笑う。
「……勇者が、私と?」
「そうだ」
悠は視線を逸らさない。
「凍らせる理由があるなら、聞く。
止められねぇ理由があるなら、考える」
セレナは、しばらく黙っていた。
蒼い瞳が、悠の奥を探るように揺れる。
「……愚かな選択ね」
そう言いながらも――
杖を、下ろした。
「いいわ」
「……?」
「話をしましょう、勇者」
その言葉に、リオネルとエルザが息を呑む。
「ただし――」
セレナの視線が、鋭くなる。
「私の意思を否定する覚悟があるなら」
悠は、短く笑った。
「否定するかどうかは、聞いてから決める」
その答えに、セレナは目を細めた。
氷の城の中心で、
勇者と魔女は、ついに向かい合った。
剣ではなく、
言葉で。
氷獄の第一幕は、ここで幕を閉じる。
だが、物語は――
ここから、さらに深く、冷たい場所へ進んでいく。
足音が、遅れて返ってくる。
氷の壁が音を抱え込み、歪め、吐き戻すような感覚。
「……ここが、城の中枢か」
悠は低く呟いた。
回廊の先に、巨大な扉がある。
氷で作られた両開きの扉は、装飾もなく、ただ“閉ざすため”だけに存在しているようだった。
悠が一歩踏み出した瞬間――
扉は、ひとりでに開いた。
ギィ……
氷が軋む音が、長く尾を引く。
中は、広大な空間だった。
天井は遥か高く、無数の氷柱が逆さの森のように垂れ下がっている。
床は鏡のように凍りつき、淡い蒼光を反射していた。
謁見の間――
そう呼ぶ以外にない場所。
三人が足を踏み入れた、その瞬間。
ガン……ッ
背後で扉が閉じる。
音は小さい。だが、逃げ道を断つには十分だった。
冷気が、さらに一段階、濃くなる。
呼吸をするたび、肺が冷やされる感覚がある。
そして――
奥。
氷の段差の先、王座の位置に、影があった。
「……よく来たわね、勇者」
声は、澄んでいて、冷たい。
それでいて、不思議と耳に残る。
影が、立ち上がる。
氷が、音を立てて形を変えた。
王座と一体化していた氷がほどけ、女性の姿を形作る。
白銀の髪。
氷を削り出したかのような肌。
蒼い瞳は、光を宿しながらも感情を映さない。
氷の杖を携え、彼女はゆっくりと歩み出た。
氷獄の魔女――セレナ。
その存在感は、これまでの敵とは次元が違った。
リオネルの喉が、かすかに鳴る。
無意識のうちに、膝が折れかけていた。
「……っ」
エルザは息を呑み、言葉を失う。
恐怖、というより――
“触れてはいけないものを前にした”本能的な感覚だった。
だが。
悠だけが、一歩、前に出た。
「……あんたが、セレナか」
剣は抜かない。
だが、腰から離しもしない。
「随分、寒そうな城だな。住むには向いてねぇ」
場違いなほど、軽い口調。
だが、それは虚勢ではなかった。
セレナの唇が、わずかに歪む。
「噂通り……変わった勇者ね」
蒼い瞳が、悠を値踏みするように見つめる。
「恐れない。跪かない。
……面白いわ」
「褒め言葉として受け取っとく」
悠は肩をすくめた。
「で? 歓迎はこれで終わりか?」
セレナは、ゆっくりと歩みを止める。
「この城は、私の意思そのもの」
淡々と、しかし断言する声。
「この地を凍らせているのは、私よ」
悠の目が、わずかに細くなる。
「その意思のせいで、凍ってる人間がいる」
セレナの表情が、ほんの一瞬だけ、冷たくなる。
「知っているわ」
「なら――」
「それでも、止めるつもりはない」
はっきりとした拒絶。
言い訳も、弁明もない。
セレナは氷の杖を、軽く床に突いた。
キン……
音は小さい。
だが、次の瞬間――
床が、一気に凍りついた。
いや、もともと凍ってはいた。
だが、それは“次元が違う”。
魔力の奔流が、空間を満たす。
氷の圧力が、三人を包み込み、立っているだけで精一杯になる。
「……っ!」
リオネルが歯を食いしばる。
「勇者様……!」
エルザは膝をつきそうになり、必死に床に手をついた。
悠は――
踏みとどまっていた。
剣に手をかける。
だが、抜かない。
(……勝てねぇ)
直感が、はっきりと告げていた。
ここで斬りかかれば、確実に負ける。
セレナは、その様子を見逃さない。
「戦う気なら……次は、氷にしてあげる」
氷の杖が、ほんの少しだけ、傾く。
それだけで、この場の全員が理解した。
次は警告ではない、と。
悠は、ゆっくりと息を吐いた。
そして――
剣を、下ろさなかった。
だが、構えも解いた。
「……分かった」
その声は、落ち着いていた。
「今日は、戦いに来たわけじゃねぇ」
セレナの眉が、わずかに動く。
「話をしに来た」
一瞬。
空気が、止まった。
やがて、セレナは小さく笑う。
「……勇者が、私と?」
「そうだ」
悠は視線を逸らさない。
「凍らせる理由があるなら、聞く。
止められねぇ理由があるなら、考える」
セレナは、しばらく黙っていた。
蒼い瞳が、悠の奥を探るように揺れる。
「……愚かな選択ね」
そう言いながらも――
杖を、下ろした。
「いいわ」
「……?」
「話をしましょう、勇者」
その言葉に、リオネルとエルザが息を呑む。
「ただし――」
セレナの視線が、鋭くなる。
「私の意思を否定する覚悟があるなら」
悠は、短く笑った。
「否定するかどうかは、聞いてから決める」
その答えに、セレナは目を細めた。
氷の城の中心で、
勇者と魔女は、ついに向かい合った。
剣ではなく、
言葉で。
氷獄の第一幕は、ここで幕を閉じる。
だが、物語は――
ここから、さらに深く、冷たい場所へ進んでいく。
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