『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第19話 氷の塔に踏み込む勇者

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 氷嵐を抜けた先、城の外周は不気味なほど静まり返っていた。
 風は止み、雪も降っていない。それなのに、空気だけが張り詰め、耳鳴りがするほどだった。

「……静かすぎるな」
 悠が呟く。

「ええ。外敵を排除する役目は嵐が担っていたのでしょう」
 リオネルは城壁を見上げながら続けた。
「ここから先は、“内部用”の防衛です」

 城壁に沿って進むと、やがて一際高くそびえる構造物が見えてきた。
 城と一体化したような、細く鋭い塔。
 氷の塔だった。

 表面は半透明の氷で覆われ、内部に青白い光が脈打つように走っている。
 まるで、生き物の血管のようだった。

「見張り……いや、それだけじゃねぇな」
 悠が目を細める。

「はい」
 リオネルが頷く。
「魔力の中継点です。この塔を通じて、城全体に魔力が行き渡っている」

 塔の入口は、分厚い氷に半ば塞がれていた。
 内部から冷気が溢れ、吐く息が白く揺れる。

「壊すしかねぇか」
 悠は剣を抜き、氷へ叩きつけた。

 ——ガンッ!

 鈍い音とともに、氷にひびが走る。
 もう一撃、さらに一撃。

 氷が砕け、入口が開いた瞬間、冷たい空気が噴き出した。

「静かに行くぞ」
 悠が低く告げる。

 三人は慎重に塔の中へ足を踏み入れた。

 内部は螺旋状の構造だった。
 床も壁も天井も氷でできており、足音が不自然に反響する。

「……嫌な感じです」
 エルザが小さく呟く。

「音が響きすぎます。気を抜くとすぐ察知される」
 リオネルは声を潜めた。

 数歩進んだ、その時だった。

 ——キィン。

 足元の氷が淡く光り、円状の模様が浮かび上がる。

「魔法陣……!」
 リオネルが叫ぶ。

 次の瞬間、塔全体が低く鳴動した。

「くそっ、踏んだか……!」
 悠が舌打ちする。

「完全な停止は無理です!」
 リオネルは即座に膝をつき、魔法陣へ干渉する。
「ですが……一部なら!」

 光の一部が消え、魔法陣は歪んだまま残った。

 ——ズズズ……。

 氷の床が盛り上がり、人の形を作り始める。
 氷でできた人形――ゴーレム型の警備兵だった。

「出たな……!」
 悠が前へ出る。

 氷の人形は無言で腕を振り上げ、鈍重な一撃を放つ。
 悠はそれを受け流し、剣で胴を斬り裂く。

 ——ガキン!

 だが、砕けた氷はすぐに再生を始めた。

「再生……かよ!」
「長引かせると不利です!」
 リオネルが叫ぶ。

 次々と氷の人形が床から現れる。
 狭い塔内では回避もままならず、悠は押され気味になる。

「エルザ、下がれ!」
「は、はい!」

 エルザは戦闘に加われない。
 だが、彼女は荷袋をしっかり抱え、周囲を警戒していた。

「……この塔、天井が高い」
 悠が一瞬、上を見上げる。

 そこには無数の氷柱が垂れ下がっていた。

「リオネル……上だ」
「……なるほど」

 二人は視線を交わし、すぐに意図を共有する。

「まとめて叩く!」
 悠が叫ぶ。

 悠がわざと後退し、敵を螺旋階段の中央へ引き寄せる。
 氷の人形たちは無感情に追いかけ、密集する。

「今です!」
 リオネルが魔力を解放した。

 ——バキバキバキッ!!

 天井の氷柱が一斉に崩れ落ちる。
 巨大な氷の槍となって、氷の人形たちを貫いた。

 凄まじい衝撃。
 床が砕け、塔全体が揺れる。

 氷の人形は再生する間もなく、完全に砕け散った。

「……よし」
 悠は大きく息を吐いた。

 静寂が戻る。

 しばらく待っても、追加の反応はなかった。

「……止まりました」
 リオネルが立ち上がる。
「この塔の防衛は、ひとまず沈黙しました」

 螺旋階段を上ると、上階に細長い回廊が続いているのが見えた。
 その先は、明らかに城の内部だ。

「……やっと、中か」
 悠が呟く。

 エルザは不安そうにしながらも、強く頷いた。

「行きましょう、勇者様」

「ああ」

 悠は剣を握り直し、回廊へ足を踏み出した。

 氷の塔は越えた。
 だがそれは、城の核心へ至る“入口”に過ぎない。

 この先に待つのは、
 氷獄の魔女セレナ――。

 勇者一行は、ついにその領域へと踏み込んだ。
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