『腰は重いけど速攻解決!』 ~異世界最速のめんどくさがり~

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七将編(氷獄の魔女セレナ)

第18話 氷嵐を越えた勇者

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 氷の門をくぐった、その瞬間だった。

 風向きが乱れ、空気が低く唸りを上げる。
 足元の雪が渦を巻き、視界が一気に白へと塗り潰された。

「——来るぞ!」

 悠が声を張り上げた刹那、吹雪が爆発したかのように激化した。
 雪はただの白い粒ではない。
 鋭利な刃のように横殴りに叩きつけられ、肌に当たるたびに痛みが走る。

「氷嵐です!」
 リオネルが叫ぶ。
「自然現象ではありません……城の防衛機構です!」

 数歩先すら見えない。
 風が身体を引き剥がそうとし、踏み出した足は雪に取られて流される。

「エルザ、離れるな!」
 悠は振り返りざまに手を伸ばす。

「は、はいっ……!」

 エルザが足を取られ、よろめいた。
 次の瞬間、悠の手が彼女の腕を掴み、強引に引き寄せる。

 ——ガンッ!

 風に乗って飛来した氷塊が、悠の剣に弾かれた。
 衝撃が腕に伝わり、凍傷の残る左腕が嫌な痛みを訴える。

「っ……くそ……!」

 息を吸うたび、冷気が肺を切り裂くようだった。
 寒い、という感覚を通り越し、身体の内側が凍っていく。

「このままじゃ……散ります!」
 リオネルが必死に声を張る。
「方向を定めなければ!」

 だが、方向感覚はすでに奪われていた。
 上下も左右も分からない。
 城がどちらにあるのかすら、吹雪の向こうへ消えている。

「……待って!」

 エルザが、必死に声を上げた。
 彼女は荷袋を抱えながら、震える手で紐を解いている。

「みんな……これで、繋がりましょう!」

 取り出したのは、簡易用のロープ。
 旅の途中、荷をまとめるために使っていたものだ。

「ロープ……?」
 悠が一瞬、目を見開く。

「離れなければ……風に飛ばされません……!」
 エルザは歯を食いしばりながら言った。
「私が……結びます!」

「……よし、やれ!」

 エルザは震える手で、悠とリオネルの外套にロープを回し、固く結びつけた。
 三人は一本の線で繋がれた。

「これで……大丈夫です……!」

「上出来だ」
 悠は短く言い、前を向く。

 嵐はさらに強まった。
 足元の雪が剥ぎ取られ、下から滑らかな氷床が露出する。

「滑る……!」
 エルザが悲鳴を上げる。

「踏み込むな! 刻め!」
 悠は先頭に立ち、剣先で氷に浅い溝を刻みながら進む。
 一歩ずつ、確実に。

 リオネルが風を読み、声を張る。
「風が……周期的に弱まっています! 城は一定の間隔で圧を変えている……!」

「分かるか!?」
「はい! 次に緩むのは……今から——三、二……!」

 ——一。

「今です!」

 三人は一気に前へ出た。
 嵐が一瞬だけ牙を引っ込める。

 だが、その隙を縫うように、最後の抵抗が来た。

 突風。
 身体ごと吹き飛ばすほどの圧。

「きゃっ……!」

 エルザの足が浮いた。
 ロープが張り、身体が後ろへ引かれる。

「——エルザ!」

 悠は即座に振り返り、彼女を抱え込むように腕を回した。
 凍傷の腕が悲鳴を上げるが、構わない。

「離すかよ……!」

 悠は歯を食いしばり、地面へ剣を突き立てる。
 刃が氷に深く食い込み、身体を固定する。

 リオネルも踏みとどまり、全力でロープを引いた。

「勇者様……今です、あと少し……!」

 突風が、嘘のように弱まった。

 ——ふっと、音が消える。

 三人は、氷嵐の縁に立っていた。

 振り返ると、そこには狂ったように吹き荒れる白の壁。
 一歩戻れば、再び飲み込まれるだろう。

 前を向く。

 そこには——
 城壁があった。

 氷で形作られた巨大な壁が、すぐ目の前に迫っている。
 吹雪はここへ届かず、空気は張り詰めているが、静かだった。

「……越えた、のか……?」
 エルザが呆然と呟く。

 悠は膝に手をつき、大きく息を吐いた。

「……ああ」
「歓迎はされてねぇが……入場はできたな」

 リオネルが周囲を確認し、頷く。
「城の外周です。ここからは……内部への侵入ルートを探る必要があります」

 悠は城壁を見上げた。
 氷の城は、なおも冷たく、無言で立ちはだかっている。

「拒絶は終わりじゃねぇ」
 悠は呟く。
「……本番は、ここからだ」

 三人はロープを解き、互いの無事を確かめ合う。
 エルザの手はまだ震えていたが、その瞳には確かな光があった。

「……行きましょう、勇者様」

「ああ」

 氷嵐を越えた先。
 そこに待つのは、氷獄の城の“内側”。

 勇者一行は、ついに――
 氷の城の影へと足を踏み入れた。
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