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七将編(氷獄の魔女セレナ)
第41話 氷と炎の共鳴を起こす勇者
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北の空気が、再び軋み始めた。
それは吹雪の前兆とは違う。
風が荒れるわけでも、雲が厚くなるわけでもない。
――温度そのものが、揺れている。
「……来るわね」
セレナが足を止め、周囲を見渡した。
雪原の一角。
そこだけ、霧のような白が渦を巻いている。
凍るほど冷たいはずの北の空気の中に、
不自然な熱が混じっていた。
「氷と……熱?」
悠が眉をひそめる。
寒い。
だが、皮膚の奥が、じりじりと焼かれるような感覚もある。
「魔王の影が残した歪みよ」
セレナの声は静かだった。
「氷だけでも、炎だけでもない」
「ぶつかり合って、均衡を失った魔力」
悠は剣に手を掛ける。
「壊すか」
いつも通りの判断だった。
だが――
セレナは首を振った。
「壊せない」
「……は?」
「正確には、“壊しても意味がない”」
セレナは霧の中心を見据える。
「これは装置でも、存在でもない」
「歪んだ“流れ”そのもの」
悠は、舌打ちした。
「面倒なの来たな……」
「ええ」
セレナは、認める。
「私一人じゃ、制御できない」
かつての彼女なら、
それでも無理に押さえ込んだだろう。
だが今は、違う。
悠は一歩前に出る。
「じゃあ、どうする」
「均衡を作るしかない」
セレナは、悠を見る。
「氷と炎を、ぶつけるんじゃない」
「重ねるの」
悠は、一瞬言葉を失った。
「……そんな器用なこと、できると思うか?」
「できるかどうかじゃない」
セレナは、静かに言う。
「やるの」
霧の中で、温度が跳ね上がる。
氷が軋み、空気が歪む。
時間がない。
「炎を……解放して」
セレナが、悠に向かって手を伸ばす。
悠は、息を吐いた。
「……制御、苦手なんだが」
「知ってるわ」
即答だった。
「でも、あなたの炎は――」
セレナは、一歩近づく。
「拒絶しない」
距離が、近い。
魔力が、触れ合う。
悠は、無意識に身構えた。
これまでの戦いでは、
他者の魔力が触れれば、反発が起きるのが普通だった。
だが――
(……弾かれねぇ)
セレナの氷は、
悠の炎を押さえつけない。
包み込むでも、凍らせるでもない。
ただ、そこにある。
「……変な感じだ」
「私もよ」
セレナは、微かに息を乱す。
「でも……嫌じゃない」
悠は、剣から手を離し、
両手で魔力を意識する。
熱が、胸の奥で灯る。
暴れやすい力。
放てば焼き尽くす炎。
だが今は――
「……抑えないで」
セレナの声が、耳元で響く。
「流して」
悠は、歯を食いしばり、
炎を“押し出す”のではなく、流す。
霧の中へ。
そこへ、セレナの氷が重なる。
凍らせるためではない。
形を整えるために。
氷と炎が、触れ合う。
本来なら、相殺か爆発が起きるはずだった。
だが――
何も起きない。
代わりに、
霧の色が変わった。
白でもなく、赤でもない。
淡い、透き通った光。
「……共鳴」
セレナが、息を呑む。
魔力が、争っていない。
互いの欠けた部分を補い合い、
一つの流れになっている。
悠は、感覚として理解した。
(……ああ、そうか)
(戦ってねぇんだ)
(合わせてる)
霧の中心で、歪みがほどけていく。
砕けるのではなく、
溶けるように、消えていく。
気温が、安定する。
刺すような寒さも、焼ける感覚も消えた。
ただ、冷たいが――
自然な寒さだけが残る。
セレナは、ゆっくりと手を下ろした。
「……成功ね」
悠も、深く息を吐く。
「……二度とやりたくねぇ」
その言葉に、セレナが小さく笑う。
「でも、できた」
「ああ……できたな」
二人は、互いを見る。
距離は、まだ近い。
だが、先ほどのような戸惑いはない。
代わりにあるのは、
理解に近い感覚。
「私ね」
セレナが、静かに言う。
「誰かと力を合わせたことが、なかった」
悠は、頷く。
「だろうな」
「でも、今は……」
言葉を切り、
少しだけ視線を逸らす。
「悪くない」
悠は、肩をすくめた。
「そりゃどうも」
だが、その声には、
いつもの突き放す響きはなかった。
北の空は、相変わらず冷たい。
だが、
凍てつく太陽の下で、
一つの歪みが確かに消えた。
氷と炎は、敵ではない。
並べば、均衡になる。
その事実を、
二人は、確かに体で知った。
次に待つのは――
もっと深い呪い。
だが、もう。
独りで向き合う必要は、なかった。
それは吹雪の前兆とは違う。
風が荒れるわけでも、雲が厚くなるわけでもない。
――温度そのものが、揺れている。
「……来るわね」
セレナが足を止め、周囲を見渡した。
雪原の一角。
そこだけ、霧のような白が渦を巻いている。
凍るほど冷たいはずの北の空気の中に、
不自然な熱が混じっていた。
「氷と……熱?」
悠が眉をひそめる。
寒い。
だが、皮膚の奥が、じりじりと焼かれるような感覚もある。
「魔王の影が残した歪みよ」
セレナの声は静かだった。
「氷だけでも、炎だけでもない」
「ぶつかり合って、均衡を失った魔力」
悠は剣に手を掛ける。
「壊すか」
いつも通りの判断だった。
だが――
セレナは首を振った。
「壊せない」
「……は?」
「正確には、“壊しても意味がない”」
セレナは霧の中心を見据える。
「これは装置でも、存在でもない」
「歪んだ“流れ”そのもの」
悠は、舌打ちした。
「面倒なの来たな……」
「ええ」
セレナは、認める。
「私一人じゃ、制御できない」
かつての彼女なら、
それでも無理に押さえ込んだだろう。
だが今は、違う。
悠は一歩前に出る。
「じゃあ、どうする」
「均衡を作るしかない」
セレナは、悠を見る。
「氷と炎を、ぶつけるんじゃない」
「重ねるの」
悠は、一瞬言葉を失った。
「……そんな器用なこと、できると思うか?」
「できるかどうかじゃない」
セレナは、静かに言う。
「やるの」
霧の中で、温度が跳ね上がる。
氷が軋み、空気が歪む。
時間がない。
「炎を……解放して」
セレナが、悠に向かって手を伸ばす。
悠は、息を吐いた。
「……制御、苦手なんだが」
「知ってるわ」
即答だった。
「でも、あなたの炎は――」
セレナは、一歩近づく。
「拒絶しない」
距離が、近い。
魔力が、触れ合う。
悠は、無意識に身構えた。
これまでの戦いでは、
他者の魔力が触れれば、反発が起きるのが普通だった。
だが――
(……弾かれねぇ)
セレナの氷は、
悠の炎を押さえつけない。
包み込むでも、凍らせるでもない。
ただ、そこにある。
「……変な感じだ」
「私もよ」
セレナは、微かに息を乱す。
「でも……嫌じゃない」
悠は、剣から手を離し、
両手で魔力を意識する。
熱が、胸の奥で灯る。
暴れやすい力。
放てば焼き尽くす炎。
だが今は――
「……抑えないで」
セレナの声が、耳元で響く。
「流して」
悠は、歯を食いしばり、
炎を“押し出す”のではなく、流す。
霧の中へ。
そこへ、セレナの氷が重なる。
凍らせるためではない。
形を整えるために。
氷と炎が、触れ合う。
本来なら、相殺か爆発が起きるはずだった。
だが――
何も起きない。
代わりに、
霧の色が変わった。
白でもなく、赤でもない。
淡い、透き通った光。
「……共鳴」
セレナが、息を呑む。
魔力が、争っていない。
互いの欠けた部分を補い合い、
一つの流れになっている。
悠は、感覚として理解した。
(……ああ、そうか)
(戦ってねぇんだ)
(合わせてる)
霧の中心で、歪みがほどけていく。
砕けるのではなく、
溶けるように、消えていく。
気温が、安定する。
刺すような寒さも、焼ける感覚も消えた。
ただ、冷たいが――
自然な寒さだけが残る。
セレナは、ゆっくりと手を下ろした。
「……成功ね」
悠も、深く息を吐く。
「……二度とやりたくねぇ」
その言葉に、セレナが小さく笑う。
「でも、できた」
「ああ……できたな」
二人は、互いを見る。
距離は、まだ近い。
だが、先ほどのような戸惑いはない。
代わりにあるのは、
理解に近い感覚。
「私ね」
セレナが、静かに言う。
「誰かと力を合わせたことが、なかった」
悠は、頷く。
「だろうな」
「でも、今は……」
言葉を切り、
少しだけ視線を逸らす。
「悪くない」
悠は、肩をすくめた。
「そりゃどうも」
だが、その声には、
いつもの突き放す響きはなかった。
北の空は、相変わらず冷たい。
だが、
凍てつく太陽の下で、
一つの歪みが確かに消えた。
氷と炎は、敵ではない。
並べば、均衡になる。
その事実を、
二人は、確かに体で知った。
次に待つのは――
もっと深い呪い。
だが、もう。
独りで向き合う必要は、なかった。
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