『召喚ニートの異世界草原記』

KAORUwithAI

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第141章揺らぐ静寂

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執務室の扉を開けると、ハーモンドは書類に目を通していた。だが、二郎の表情を見てすぐに手を止める。

「何かあったのか?」

二郎は無言で頷き、一つ一つ丁寧にアスナから聞き取った内容を伝えた。

暗い建物。
怪物へと変貌させられる人間たち。
暴力。
神官服を着た人物。

それを聞いたハーモンドの表情が徐々に険しくなり、やがて拳を強く握りしめ、机を叩きつけた。

「……なんという非道な……!」

重苦しい沈黙が部屋に広がる。

「直ちに、公王陛下に報告する。これは、もはや見過ごせる事態ではない」

「その後、どう動く?」二郎が尋ねた。

ハーモンドは唸るように言葉を搾り出す。

「分からぬ……だが、このままにはしておかぬだろう。陛下もきっと、この行いに目を瞑る方ではない」



執務室を後にした二郎は、ゆっくりとアスナの部屋へ向かった。

扉を静かに開けると、室内にはあたたかな灯がともり、ベッドのそばにはクレアが座っていた。
その膝には、眠るアスナの小さな身体。

クレアがそっと顔を上げて、微笑む。

「……怖い話をして、疲れたんでしょうね」

二郎は少しだけ目を細めて、小さく頷いた。

「そうだな。ありがとう、クレア。しばらく、頼む」

「ええ、もちろんですわ」

クレアがそう答えると、二郎は部屋を後にした。



客室へ戻ると、そこにはレンがいた。
ソファの端に座り、うつむきがちに手を組んでいる。

「どうした? まだアスナの部屋にいるのかと思ってた」

二郎がそう声をかけると、レンはぱっと顔を上げ、少しだけ首を横に振った。

「……何でもないよ」

けれど、その表情はどこか曇っていて──
まるで、胸の奥に「近づく何か」を察知しているようだった。

いつもは屈託なく笑う少女の目が、今はどこか遠くを見つめている。

(レン……)

声をかけるべきか、そっとしておくべきか。
そんな迷いを飲み込んだまま、二郎は隣の椅子に腰を下ろした。

数分の沈黙が続いて二郎が口を開いた

「レン……察しの良いお前のことだ。もう気づいてるだろ?」

そう問いかける二郎の声は、どこか寂しげだった。

レンは少しだけ視線を落とし、それでもはっきりと頷いた。

「うん。……もうすぐ、大きな戦いがあるんだよね?」

レンは、不安気な顔をしていた──けれど、その目は真剣だった。

「ああ。でも、必ず帰ってくる。……約束するよ」

その言葉に、レンの目が少し潤む。
それでも、彼女はしっかりと頷いた。

「うん。……信じてる」

そして、レンは振り返り、静かに部屋を後にした。

その先にあるのは、まだ眠るアスナの部屋。

扉の向こうへと消えていく少女の背に、
二郎はそっと視線を送りながら、心の奥で再び誓った。

──絶対に、守り抜く。

レンも、アスナも、この世界も。
決して、あの男に蹂躙させはしない。

やがて部屋の中には、沈黙だけが残った。
だがその沈黙の裏には、確かに始まりの鼓動が鳴っていた。




その頃、遠くルーノ聖国の地下では、重苦しい空気が流れていた。

ユリウスは、部下たちに怒気を孕んだ声で命じていた。

「逃げた少女を、何としても見つけ出せ」

「もし情報が漏れれば、この計画は水泡に帰す。……いや、国家そのものが崩壊しかねん」

部下たちは緊迫した面持ちで頷き、一人また一人と地下施設を後にする。

その目は皆、焦燥と恐怖に満ちていた。

ユリウスの背後で、まだ完成していない「次の兵器」が、鉄の枷に繋がれたまま、不気味な呻き声を漏らしていた。

静けさの中に忍び寄る、不穏な胎動。
やがて迫りくる嵐を、誰もが本能で感じ始めていた。


数日後──

ハーモンドからの書状が、公都の王城に届けられた。

玉座の間でその書状を読み終えた瞬間、
公王クレイの顔から微笑が消えた。

「……なんという暴挙だ」

低く、だが震えるような怒りの声が漏れる。

それは、王としてではなく、一人の人間としての憤りだった。

「こんなものを……許してはならん。全国に通達を。貴族、領主、すべての守護者へ伝えよ。今この時より、厳戒態勢に入る──と!」

「はっ!」

公王の気迫に、臣下たちは一斉にひざまずき、御意と声を揃えた。

そのまま玉座の間を飛び出していく臣下たちの足音が、まるで迫りくる嵐の号令のように響き渡った。
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