『総理になった男』

KAORUwithAI

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第1部:序章 - 無名の挑戦

第35話 秘書として共に歩む

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初登院を終えた翌日。
健人は、議員会館の一角にある割り当てられた部屋へと向かった。長い廊下を歩き、プレートに刻まれた自分の名前を目にしたとき、ほんの一瞬、足が止まった。
「……坂本健人議員室」
まだ見慣れないその四文字に、胸の奥がじんわりと熱を帯びた。

扉を押して中に入ると、そこには机と椅子がぽつんと置かれているだけだった。白い壁、剥き出しの床、蛍光灯の光が無機質に照り返す。
「これが……俺の執務室か」
呟いた声は、がらんどうの空間に反響し、妙に頼りなかった。選挙戦の熱気と喧騒を潜り抜けてここに辿り着いたはずなのに、この静けさはむしろ現実を強烈に突きつけてきた。

その時、扉が開き、コピー用紙やペン立てを抱えた真田が入ってきた。
「とりあえず、これで最低限の事務用品は揃います」
笑いながら机に置く。ガサリと音が響き、ようやく部屋に人の気配が宿ったような気がした。

続いて田島が大きな段ボールを抱えて現れた。
「健人! コピー用紙より先にコーヒーだろ!」
冗談を飛ばしながら、段ボールを床に下ろす。中には紙コップやインスタントのコーヒー、そして差し入れの菓子がぎっしり詰まっていた。
「……なんか引っ越しみたいだな」
彼の笑い声に、部屋の空気が柔らかくなる。

健人は二人を見つめ、ふと心の底から言葉をこぼした。
「お前たちがいなかったら、俺はここまで来れなかった」

真田は目を細め、少しだけ伏し目になった。
「私は政治を志したことなんて一度もありません。ただ……あなたの言葉を信じただけです」

田島は肩をすくめ、にやりと笑った。
「俺なんかクラスの人気者で終わると思ってたけど……今は違うな。お前と一緒に勝負する方がよっぽど面白い」

健人は深く息を吸い込み、意を決したように二人を見た。
「……正式に頼みたい。二人に秘書をお願いしたい。これからも、支えてほしい」
そう言って頭を下げた。

真田は一瞬驚いた表情を浮かべたが、やがて小さく笑った。
「秘書なんて肩書き、私には似合いませんけど……全力でやります」

田島は腕を組み、わざとらしく唸ってみせる。
「スーツ姿で秘書なんて柄じゃねえけどな。……でも健人と一緒ならやる。最後までついていく」

三人の言葉が重なった瞬間、殺風景だった部屋に温かな空気が流れ込んだ。まだ机と椅子しかない空間が、一気に「仲間たちの拠点」へと変わっていく。

外の廊下では、他の議員秘書たちが大量の書類を抱えて慌ただしく行き交っていた。老舗の政党に属する新人議員の部屋からは、既に電話のベルや打ち合わせの声が響いてくる。それに比べてこの部屋はまだ何もない。けれど、健人には不思議な確信があった。ここから何かが始まる、と。

「俺たちも、この場所で戦うんだな」
健人が呟くと、真田と田島も静かに頷いた。

健人は机に腰を下ろし、ペンを握った。
「まずは、国会質問の準備だ」

真田はパソコンを立ち上げ、画面に次々と資料を表示する。
「質問の優先順位を決めましょう。全部は無理ですから」

田島は段ボールを開け、プリントを並べていく。
「なあ健人、これ、ビラ配りの時より地味だな」
そう言いながらも手は止めない。

昼を過ぎる頃、選挙戦を支えたボランティアが顔を覗かせた。
「何か手伝いますよ」
紙コップを手にした彼女が笑顔で言う。その一言に、部屋がさらに温かさを増す。人の流れが少しずつできていく。

夕方、健人は一息つき、胸元の小さなバッジにそっと触れた。
「秘書が二人。仲間がいる。……ここからが本当のスタートだ」
心の中でそう誓った。

夜になり、机の上に散らばった資料を片付けると、三人で缶ジュースを掲げた。
「俺たちの戦いは、これからだ」
缶がぶつかり合い、カチンと軽い音が響く。小さな音は、この小さな部屋を確かに満たした。

三人の笑い声が夜の議員会館にこだまし、外の街灯が窓に淡く映る。
ここから始まる戦いは、きっと長く険しい。けれど、孤独ではない。


”肩書きなんて関係ない。
信じて共に歩む仲間こそ、
政治を動かす力になる。“
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