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第2部:壁 - 国会という名の怪物
第62話 野党からも冷たい視線
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予算委員会での質問から一夜が明けた朝。
坂本健人はまだ重い疲労が残る身体を起こし、鏡に映る自分の顔を見つめた。目の下にはうっすらとクマができていたが、それでもネクタイを締める手は迷わなかった。議員として歩み出した以上、弱音を吐くわけにはいかない。
議員会館を出ると、まだ朝の空気はひんやりとしていた。国会議事堂の白い石造りの姿が朝日を受けて輝き、健人は無意識に立ち止まった。
背後から真田が小さく笑みを見せる。
「昨日の質問で、きっと少しは認めてもらえたはずです」
隣の田島も肩を軽く叩きながら言う。
「今日こそ、誰かが話しかけてくるかもな」
その言葉に小さく頷きつつも、健人の胸には重たい予感があった。昨日の拍手のなさ、無表情な議員たちの顔が頭をよぎる。
国会の廊下に入ると、そこには朝の静かな緊張が漂っていた。
与党議員の集団が一角を占め、何やら真剣に話を交わしている。その向かい側では野党議員たちが数人で集まり、資料をめくりながら談笑していた。健人は軽く会釈をしながら通り過ぎるが、返ってくるのはそっけない視線だけだった。
控室に入ると、野党系の議員たちが既に座って談話に興じていた。
――昨日の質疑について何か話しかけられるかもしれない。
そう期待していたが、彼らの話題は選挙区の支持団体や、次期選挙の候補者調整の話ばかり。健人の存在など、そこにないかのようだった。
昼前の委員会。健人は前室で新人議員に声をかけた。
「昨日の予算委員会、見てくれましたか?」
だが相手は気まずそうに笑い、「すみません、ちょっと今、先輩に呼ばれていて」と足早に去ってしまった。
取り残された健人は苦笑しつつも、胸の奥でひりつくような孤独を感じた。
やがて委員会が始まると、健人は前列に座る野党の議員たちの背中を見つめながら、質問のタイミングをうかがった。しかし理事を務めるベテラン議員と仲間たちの間で、目配せと頷きによって順番が決まっていくのを見て、自分がその輪の外にいることを悟った。
何度も手を挙げようとしたが、議長の視線がこちらを掠めることすらない。
後方の傍聴席に座る真田が、健人の様子をじっと見つめながらメモを取っていた。その表情は硬い。
一方で、廊下に残った田島は腕を組みながら苛立ちを隠せずにいた。
「与党に冷たくされるのは覚悟してたけど、野党まで壁を作ってるなんてな…」
休憩時間。控室に戻った健人は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
「ここでは、派閥に属さないと誰も耳を貸してくれないのかもしれない」
その言葉に田島は拳を握りしめた。
「おかしいよな、市民のために議論してるんじゃないのか、ここは」
午後、委員会を終えて廊下を歩いていると、野党の大物議員とすれ違った。健人は軽く会釈をしたが、相手は一瞥しただけで通り過ぎていった。その冷ややかな目線に、胸の奥がひどく冷え込む。
昼食の時間。健人は国会食堂の隅のテーブルに座り、一人で定食をつついた。
周囲には与党も野党も、それぞれ派閥ごとに集まり、和やかに談笑している。
昨日の質問で得た小さな手応えが、砂のように指の隙間からこぼれ落ちていく気がした。
午後の審議が終わり、夕暮れが迫るころ、健人は議員会館の自室に戻り、ノートを開いた。
そして静かに書き込んだ。
――壁は与党だけではない。国会全体が、派閥の国だ。
やがて真田が帰ってきて、静かに言った。
「時間がかかります。でも、必ず少しずつ聞いてくれる人は増えます」
その声は優しくも、現実を突きつけるようでもあった。
健人は窓辺に立ち、茜色に染まる議事堂を見つめた。
そして胸のバッジにそっと手を触れ、心の中で誓った。
――派閥が築いた壁に屈しない。市民の声を、どの議席にも響かせる。
“壁は一つじゃなかった。
与党の壁も、野党の壁も、
その向こうに市民の声がある限り、
俺はあきらめない。”
坂本健人はまだ重い疲労が残る身体を起こし、鏡に映る自分の顔を見つめた。目の下にはうっすらとクマができていたが、それでもネクタイを締める手は迷わなかった。議員として歩み出した以上、弱音を吐くわけにはいかない。
議員会館を出ると、まだ朝の空気はひんやりとしていた。国会議事堂の白い石造りの姿が朝日を受けて輝き、健人は無意識に立ち止まった。
背後から真田が小さく笑みを見せる。
「昨日の質問で、きっと少しは認めてもらえたはずです」
隣の田島も肩を軽く叩きながら言う。
「今日こそ、誰かが話しかけてくるかもな」
その言葉に小さく頷きつつも、健人の胸には重たい予感があった。昨日の拍手のなさ、無表情な議員たちの顔が頭をよぎる。
国会の廊下に入ると、そこには朝の静かな緊張が漂っていた。
与党議員の集団が一角を占め、何やら真剣に話を交わしている。その向かい側では野党議員たちが数人で集まり、資料をめくりながら談笑していた。健人は軽く会釈をしながら通り過ぎるが、返ってくるのはそっけない視線だけだった。
控室に入ると、野党系の議員たちが既に座って談話に興じていた。
――昨日の質疑について何か話しかけられるかもしれない。
そう期待していたが、彼らの話題は選挙区の支持団体や、次期選挙の候補者調整の話ばかり。健人の存在など、そこにないかのようだった。
昼前の委員会。健人は前室で新人議員に声をかけた。
「昨日の予算委員会、見てくれましたか?」
だが相手は気まずそうに笑い、「すみません、ちょっと今、先輩に呼ばれていて」と足早に去ってしまった。
取り残された健人は苦笑しつつも、胸の奥でひりつくような孤独を感じた。
やがて委員会が始まると、健人は前列に座る野党の議員たちの背中を見つめながら、質問のタイミングをうかがった。しかし理事を務めるベテラン議員と仲間たちの間で、目配せと頷きによって順番が決まっていくのを見て、自分がその輪の外にいることを悟った。
何度も手を挙げようとしたが、議長の視線がこちらを掠めることすらない。
後方の傍聴席に座る真田が、健人の様子をじっと見つめながらメモを取っていた。その表情は硬い。
一方で、廊下に残った田島は腕を組みながら苛立ちを隠せずにいた。
「与党に冷たくされるのは覚悟してたけど、野党まで壁を作ってるなんてな…」
休憩時間。控室に戻った健人は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。
「ここでは、派閥に属さないと誰も耳を貸してくれないのかもしれない」
その言葉に田島は拳を握りしめた。
「おかしいよな、市民のために議論してるんじゃないのか、ここは」
午後、委員会を終えて廊下を歩いていると、野党の大物議員とすれ違った。健人は軽く会釈をしたが、相手は一瞥しただけで通り過ぎていった。その冷ややかな目線に、胸の奥がひどく冷え込む。
昼食の時間。健人は国会食堂の隅のテーブルに座り、一人で定食をつついた。
周囲には与党も野党も、それぞれ派閥ごとに集まり、和やかに談笑している。
昨日の質問で得た小さな手応えが、砂のように指の隙間からこぼれ落ちていく気がした。
午後の審議が終わり、夕暮れが迫るころ、健人は議員会館の自室に戻り、ノートを開いた。
そして静かに書き込んだ。
――壁は与党だけではない。国会全体が、派閥の国だ。
やがて真田が帰ってきて、静かに言った。
「時間がかかります。でも、必ず少しずつ聞いてくれる人は増えます」
その声は優しくも、現実を突きつけるようでもあった。
健人は窓辺に立ち、茜色に染まる議事堂を見つめた。
そして胸のバッジにそっと手を触れ、心の中で誓った。
――派閥が築いた壁に屈しない。市民の声を、どの議席にも響かせる。
“壁は一つじゃなかった。
与党の壁も、野党の壁も、
その向こうに市民の声がある限り、
俺はあきらめない。”
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