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第2部:壁 - 国会という名の怪物
第72話 事務所に嫌がらせの封筒
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朝の議員会館は、いつもより張り詰めた空気が漂っていた。
廊下を歩く議員や秘書の足取りが慌ただしく、コピー機の紙を送る音が絶え間なく響く。
坂本健人はまだ薄暗い朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、自分の事務室のドアを開けた。
「おはようございます」
机に向かっていた真田が、軽く頭を下げた。
その手元には、分厚い郵便物の束。議員のもとには、毎日膨大な手紙や陳情が届く。
だが、その日の真田の表情は、いつもの穏やかさとは少し違っていた。
「どうした?」
健人が上着を脱ぎながら尋ねると、真田は郵便物の束の中から数通を抜き取り、慎重に差し出した。
「これ……普通じゃないですね」
差し出されたのは、無地の白い封筒。
差出人の名前はない。封も乱雑に貼られている。
健人は眉をひそめながら封を切り、中の紙を取り出した。
そこには黒々としたマジックで大きく書かれた文字。
『田舎に帰れ』
『無所属は国会の邪魔だ』
『消えてしまえ』
太く、乱れた筆跡。見ただけで怒りと敵意が伝わってくる。
手がわずかに震えた。だが、健人は奥歯を噛みしめ、表情を変えないように努めた。
「こんなものに振り回されてたら、前に進めない」
自分に言い聞かせるように呟いた。
そのとき、奥の机で書類を整理していた田島が振り向いた。
封筒に書かれた言葉を目にした瞬間、顔がみるみる赤くなる。
「なんだよ、これ……!」
田島は机をドンと叩き、低い声で続けた。
「こんな卑怯なことをする奴が、政治を語るなんて笑わせるな!」
重苦しい空気が事務所に広がった。
ボランティア出身の若いスタッフたちも、顔を見合わせて沈黙する。
そんな中で、真田が落ち着いた声を出した。
「まず、警備担当に報告しましょう。記録を残すことが大事です」
「そうだな」
健人は頷き、封筒をそっと机に戻した。
しかし、別の封筒を開けたとき、さらに心がざわついた。
そこには、切り刻まれた新聞記事が入っており、赤いインクで太く書かれていた。
『裏切り者』
そう書かれた文字を見つめると、胸の奥に冷たいものが落ちていくような感覚があった。
それでも、健人はスタッフたちに向かって微笑みを作った。
「君たちに怖い思いをさせてしまって、すまない。
でも、これに負けるわけにはいかないんだ」
スタッフたちの緊張した顔が少しだけ和らいだ。
だが、田島はまだ怒りを抑えきれずに拳を握っていた。
「こんな嫌がらせで気持ちを揺さぶろうなんて、卑怯すぎる。俺は絶対に許せない」
「気持ちは分かる。でも感情的になったら相手の思うつぼだ」
健人は静かに言った。
午後、議員控室に移動すると、健人はこの件を隣の議員に話してみた。
だが、その返答はあっけなかった。
「そんなの気にしてたらやっていけないよ」
そう言って、相手は書類に目を戻した。
その言葉に、胸が少しだけ締め付けられた。
無所属だから標的にされやすいのか――健人は現実を悟った。
夜。
一日の業務を終え、事務所に残っていた健人は、机の引き出しから別の封筒を取り出した。
それは地元から届いた応援の手紙。
「がんばれ」「信じています」「あなたの声を国会に」――そんな温かい言葉が並んでいる。
その一枚一枚を読むたびに、胸の奥がじんわりと熱くなった。
真田が帰り際に声をかけてきた。
「こういう時こそ、態度を崩さないでください。弱気は相手の思うつぼです」
健人は静かに頷いた。
「分かってる。支えてくれる人がいる限り、恐怖ではなく信念で進む」
その夜、健人は嫌がらせの封筒を引き出しにしまい、深く息を吐いた。
そしてペンを手に取り、ノートの端にこう書き込んだ。
『恐れない。声を届け続ける。』
窓の外には、夜の議事堂の灯りが遠くに輝いていた。
その光は、恐怖よりもはるかに強いものに見えた。
“卑怯な言葉は脅しではない。
それは、変わることを恐れる
誰かの叫びだ。
恐怖に屈した瞬間、未来は止まる。”
廊下を歩く議員や秘書の足取りが慌ただしく、コピー機の紙を送る音が絶え間なく響く。
坂本健人はまだ薄暗い朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、自分の事務室のドアを開けた。
「おはようございます」
机に向かっていた真田が、軽く頭を下げた。
その手元には、分厚い郵便物の束。議員のもとには、毎日膨大な手紙や陳情が届く。
だが、その日の真田の表情は、いつもの穏やかさとは少し違っていた。
「どうした?」
健人が上着を脱ぎながら尋ねると、真田は郵便物の束の中から数通を抜き取り、慎重に差し出した。
「これ……普通じゃないですね」
差し出されたのは、無地の白い封筒。
差出人の名前はない。封も乱雑に貼られている。
健人は眉をひそめながら封を切り、中の紙を取り出した。
そこには黒々としたマジックで大きく書かれた文字。
『田舎に帰れ』
『無所属は国会の邪魔だ』
『消えてしまえ』
太く、乱れた筆跡。見ただけで怒りと敵意が伝わってくる。
手がわずかに震えた。だが、健人は奥歯を噛みしめ、表情を変えないように努めた。
「こんなものに振り回されてたら、前に進めない」
自分に言い聞かせるように呟いた。
そのとき、奥の机で書類を整理していた田島が振り向いた。
封筒に書かれた言葉を目にした瞬間、顔がみるみる赤くなる。
「なんだよ、これ……!」
田島は机をドンと叩き、低い声で続けた。
「こんな卑怯なことをする奴が、政治を語るなんて笑わせるな!」
重苦しい空気が事務所に広がった。
ボランティア出身の若いスタッフたちも、顔を見合わせて沈黙する。
そんな中で、真田が落ち着いた声を出した。
「まず、警備担当に報告しましょう。記録を残すことが大事です」
「そうだな」
健人は頷き、封筒をそっと机に戻した。
しかし、別の封筒を開けたとき、さらに心がざわついた。
そこには、切り刻まれた新聞記事が入っており、赤いインクで太く書かれていた。
『裏切り者』
そう書かれた文字を見つめると、胸の奥に冷たいものが落ちていくような感覚があった。
それでも、健人はスタッフたちに向かって微笑みを作った。
「君たちに怖い思いをさせてしまって、すまない。
でも、これに負けるわけにはいかないんだ」
スタッフたちの緊張した顔が少しだけ和らいだ。
だが、田島はまだ怒りを抑えきれずに拳を握っていた。
「こんな嫌がらせで気持ちを揺さぶろうなんて、卑怯すぎる。俺は絶対に許せない」
「気持ちは分かる。でも感情的になったら相手の思うつぼだ」
健人は静かに言った。
午後、議員控室に移動すると、健人はこの件を隣の議員に話してみた。
だが、その返答はあっけなかった。
「そんなの気にしてたらやっていけないよ」
そう言って、相手は書類に目を戻した。
その言葉に、胸が少しだけ締め付けられた。
無所属だから標的にされやすいのか――健人は現実を悟った。
夜。
一日の業務を終え、事務所に残っていた健人は、机の引き出しから別の封筒を取り出した。
それは地元から届いた応援の手紙。
「がんばれ」「信じています」「あなたの声を国会に」――そんな温かい言葉が並んでいる。
その一枚一枚を読むたびに、胸の奥がじんわりと熱くなった。
真田が帰り際に声をかけてきた。
「こういう時こそ、態度を崩さないでください。弱気は相手の思うつぼです」
健人は静かに頷いた。
「分かってる。支えてくれる人がいる限り、恐怖ではなく信念で進む」
その夜、健人は嫌がらせの封筒を引き出しにしまい、深く息を吐いた。
そしてペンを手に取り、ノートの端にこう書き込んだ。
『恐れない。声を届け続ける。』
窓の外には、夜の議事堂の灯りが遠くに輝いていた。
その光は、恐怖よりもはるかに強いものに見えた。
“卑怯な言葉は脅しではない。
それは、変わることを恐れる
誰かの叫びだ。
恐怖に屈した瞬間、未来は止まる。”
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