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第2部:壁 - 国会という名の怪物
第83話 週刊誌に載った“理想主義”
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その週の木曜日。朝のコンビニの棚に、健人の名前が印刷された週刊誌がずらりと並んでいた。
表紙の見出しには、赤い文字でこうあった。
――「無所属議員・坂本健人“理想主義の危うさ”」
通勤途中の人々がその表紙を横目に眺めていく。
事務所のドアが開く音がして、田島が雑誌を何冊も抱えて戻ってきた。
「健人……やられたぞ。今週の『政治ステージ』、一面だ」
机の上に叩きつけられた週刊誌を、健人は静かに見下ろした。
表紙には、街頭演説の時の写真。マイクを握り、必死に訴えるその姿は、まるで“理想だけで突っ走る若者”の象徴のように切り取られていた。
見出しの下には、さらに挑発的な一文が添えられている。
――「若者人気に酔う“無所属のヒーロー”、現実を知らぬ危うい理想」
ページを開くと、そこには見覚えのある言葉が並んでいた。
「政治は理想から始まる」
――あの、街頭での演説の一節だった。だが、文脈を切り取られ、まるで“理想だけを掲げて現実を無視している”かのように編集されていた。
「……完全に歪められてる」
真田が記事を読みながら眉をひそめる。
「“感情先行のポピュリズム”だってさ。こっちは真面目にやってるのに、こんな書かれ方ってあるかよ!」
田島の拳が机を叩いた。
健人は一言も発せず、記事の末尾まで目を通した。
最後の段落には、学生団体〈VOICE JAPAN〉の名前まで登場していた。
“若者を政治に巻き込む危険な試み”“利用される学生たち”――そんな言葉が躍っている。
「宮田たちまで巻き込まれてる……」
健人はページを閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
昼前、〈VOICE JAPAN〉の代表・宮田莉子から電話があった。
「先生……ごめんなさい。私たちのせいで、また炎上してしまって」
電話の向こうで、泣き出しそうな声。
「何も悪くないよ。君たちが叩かれてるのは、それだけ彼らが恐れてるってことだ」
「恐れてる?」
「“理想を語る若者”が増えることを、だよ」
沈黙があったあと、宮田は小さく「私たちは引きません」と答えた。
午後になると、報道陣が事務所前に押し寄せた。
「理想だけで政治は動かないんじゃないですか?」
「若者を利用してるという批判にどう答えますか?」
マイクとカメラが押し寄せる。
健人は立ち止まり、穏やかな口調で言った。
「理想がなければ、政治はただの取引です。
批判は受け止めますが、理想を語ることを恥じる気はありません」
その映像はすぐにニュース番組で流れた。
SNSでは「理想主義すぎる」「現実を見てない」と再び批判の声が上がる一方で、
「この人、ブレないな」「こういう政治家、もっと増えてほしい」というコメントも増えていた。
夜。事務所の明かりが残る中、田島が吐き捨てるように言った。
「訴えた方がいいんじゃねぇの? 名誉毀損とかで」
真田は静かに首を振る。
「マスコミを敵に回すのは得策じゃありません。ここは、健人さんの言葉で正面から答えるべきです」
健人はしばらく考え、「……会見を開こう」と答えた。
翌日。
急きょ記者会見が設定された。
全国メディアが集まり、会場は熱気と緊張に包まれている。
フラッシュの光が何度も健人の顔を照らした。
「理想主義と批判されていますが、現実をどう見ていますか?」
「学生を政治に巻き込むのは危険では?」
矢継ぎ早の質問に、健人はマイクを握り直した。
「理想は現実を無視した幻想ではありません。
理想こそが、現実を動かす原動力です。
現実を見て諦めるのではなく、理想を信じて進む――
それが政治家として、私が守りたい姿勢です」
短い沈黙のあと、記者席の一部から拍手が起きた。
会見の映像はその夜のニュースで放送され、SNS上では再び議論が巻き起こった。
だが、前回とは違う。
「真っ直ぐすぎる」「偽善じゃない、誠実だ」と肯定的なコメントが圧倒的に増えていた。
翌日、ある新聞社の政治部記者がTwitterにこう書いた。
> 理想を語る政治家を“危うい”と言う社会の方が、
> よほど危ういのではないか。
その投稿は瞬く間に拡散された。
週刊誌が作り上げた“理想主義の危険性”というイメージは、少しずつ剥がれ落ちていった。
夜。
事務所の机の上に、健人は週刊誌を置いた。
その上に、ボールペンで一言書き込む。
「理想を笑う者がいてもいい。
理想を失った瞬間、政治は死ぬ。」
田島が肩越しに覗き込み、「それ、記事よりもよっぽど響くな」と笑った。
真田は静かに頷く。
「誠実な政治家は、どんな見出しよりも強いんです」
窓の外では、雨が上がりかけていた。
健人は週刊誌を閉じ、椅子にもたれた。
――理想を貫くということは、笑われることでもある。
それでも、笑われながら歩く方を選びたい。
「理想主義で構わない。
理想を恐れる政治より、ずっと健全だ」
夜の国会議事堂が、遠くの闇の中に浮かんでいた。
その白い光を見つめながら、健人は静かに拳を握った。
“理想を笑う者がいてもいい。
だが、理想を失った瞬間、
政治はただの取引になる。”
表紙の見出しには、赤い文字でこうあった。
――「無所属議員・坂本健人“理想主義の危うさ”」
通勤途中の人々がその表紙を横目に眺めていく。
事務所のドアが開く音がして、田島が雑誌を何冊も抱えて戻ってきた。
「健人……やられたぞ。今週の『政治ステージ』、一面だ」
机の上に叩きつけられた週刊誌を、健人は静かに見下ろした。
表紙には、街頭演説の時の写真。マイクを握り、必死に訴えるその姿は、まるで“理想だけで突っ走る若者”の象徴のように切り取られていた。
見出しの下には、さらに挑発的な一文が添えられている。
――「若者人気に酔う“無所属のヒーロー”、現実を知らぬ危うい理想」
ページを開くと、そこには見覚えのある言葉が並んでいた。
「政治は理想から始まる」
――あの、街頭での演説の一節だった。だが、文脈を切り取られ、まるで“理想だけを掲げて現実を無視している”かのように編集されていた。
「……完全に歪められてる」
真田が記事を読みながら眉をひそめる。
「“感情先行のポピュリズム”だってさ。こっちは真面目にやってるのに、こんな書かれ方ってあるかよ!」
田島の拳が机を叩いた。
健人は一言も発せず、記事の末尾まで目を通した。
最後の段落には、学生団体〈VOICE JAPAN〉の名前まで登場していた。
“若者を政治に巻き込む危険な試み”“利用される学生たち”――そんな言葉が躍っている。
「宮田たちまで巻き込まれてる……」
健人はページを閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
昼前、〈VOICE JAPAN〉の代表・宮田莉子から電話があった。
「先生……ごめんなさい。私たちのせいで、また炎上してしまって」
電話の向こうで、泣き出しそうな声。
「何も悪くないよ。君たちが叩かれてるのは、それだけ彼らが恐れてるってことだ」
「恐れてる?」
「“理想を語る若者”が増えることを、だよ」
沈黙があったあと、宮田は小さく「私たちは引きません」と答えた。
午後になると、報道陣が事務所前に押し寄せた。
「理想だけで政治は動かないんじゃないですか?」
「若者を利用してるという批判にどう答えますか?」
マイクとカメラが押し寄せる。
健人は立ち止まり、穏やかな口調で言った。
「理想がなければ、政治はただの取引です。
批判は受け止めますが、理想を語ることを恥じる気はありません」
その映像はすぐにニュース番組で流れた。
SNSでは「理想主義すぎる」「現実を見てない」と再び批判の声が上がる一方で、
「この人、ブレないな」「こういう政治家、もっと増えてほしい」というコメントも増えていた。
夜。事務所の明かりが残る中、田島が吐き捨てるように言った。
「訴えた方がいいんじゃねぇの? 名誉毀損とかで」
真田は静かに首を振る。
「マスコミを敵に回すのは得策じゃありません。ここは、健人さんの言葉で正面から答えるべきです」
健人はしばらく考え、「……会見を開こう」と答えた。
翌日。
急きょ記者会見が設定された。
全国メディアが集まり、会場は熱気と緊張に包まれている。
フラッシュの光が何度も健人の顔を照らした。
「理想主義と批判されていますが、現実をどう見ていますか?」
「学生を政治に巻き込むのは危険では?」
矢継ぎ早の質問に、健人はマイクを握り直した。
「理想は現実を無視した幻想ではありません。
理想こそが、現実を動かす原動力です。
現実を見て諦めるのではなく、理想を信じて進む――
それが政治家として、私が守りたい姿勢です」
短い沈黙のあと、記者席の一部から拍手が起きた。
会見の映像はその夜のニュースで放送され、SNS上では再び議論が巻き起こった。
だが、前回とは違う。
「真っ直ぐすぎる」「偽善じゃない、誠実だ」と肯定的なコメントが圧倒的に増えていた。
翌日、ある新聞社の政治部記者がTwitterにこう書いた。
> 理想を語る政治家を“危うい”と言う社会の方が、
> よほど危ういのではないか。
その投稿は瞬く間に拡散された。
週刊誌が作り上げた“理想主義の危険性”というイメージは、少しずつ剥がれ落ちていった。
夜。
事務所の机の上に、健人は週刊誌を置いた。
その上に、ボールペンで一言書き込む。
「理想を笑う者がいてもいい。
理想を失った瞬間、政治は死ぬ。」
田島が肩越しに覗き込み、「それ、記事よりもよっぽど響くな」と笑った。
真田は静かに頷く。
「誠実な政治家は、どんな見出しよりも強いんです」
窓の外では、雨が上がりかけていた。
健人は週刊誌を閉じ、椅子にもたれた。
――理想を貫くということは、笑われることでもある。
それでも、笑われながら歩く方を選びたい。
「理想主義で構わない。
理想を恐れる政治より、ずっと健全だ」
夜の国会議事堂が、遠くの闇の中に浮かんでいた。
その白い光を見つめながら、健人は静かに拳を握った。
“理想を笑う者がいてもいい。
だが、理想を失った瞬間、
政治はただの取引になる。”
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