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第5章:最終降下
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――203X年・5月2日 午前7時10分。
205便、東京湾上空旋回中。
目的地変更に伴い、羽田空港への再着陸が許可された。
機内では、騒ぎはようやく収まり始めていた。
佐伯ミナは通路で深く息を吐き、非常時対応のマニュアルを開き直していた。
桐原翼は、最後の証拠データを送信完了し、端末を切断していた。
そして、座席A-6では、
かつて副大臣だった男――片倉慎吾が、窓の外をじっと見つめていた。
「……あれが、国会議事堂か」
低く呟いた彼の言葉に、玖堂レンが返した。
「そうだ。
かつて、あんたが税金を私物化した“聖域”だ」
片倉は、ひとつだけ小さく笑った。
その表情には、すでに“政治家”としての仮面はなかった。
「昔な、あそこに入った時、思ったんだよ。
“この国を良くしたい”って。……それ、本気だったんだぜ」
「でも、壊したんだ。あんたが。あんたたちが」
レンの声は低く、しかし怒りよりも悲しみに近かった。
「全部自分が悪いとは……思わない。
でも、あの場所はな……沈んでる船だった。
誰もが落ちないように、見て見ぬふりをしてただけだ」
「だから、俺たちはその船を引きずり下ろす。
それが“再起動”だ」
片倉はうなずいた。そしてポケットから一枚の名刺を取り出した。
裏に、手書きの文字。
【高野建設/片倉後援団体】
→裏金の流入口だった企業。
「これが最後の“贖罪”だ。
この名刺の裏に書いたのが、資金洗浄のルート。
自分が証言する。すべて、話す」
レンの目がわずかに見開かれる。
「なぜ……今さら?」
「“誰か”に言い訳できるなら……それだけでも救いになる気がした。
お前みたいなガキに壊されて終わりたくない」
⸻
■ 午前7時35分:羽田空港 滑走路D-5
機体は、無事に着陸した。
包囲する警察車両、特殊部隊、報道クルーの波。
ランプが点灯し、非常階段が展開される。
乗客たちはゆっくりと降機していく。
だが、その目は――誰もが“再起動”の意味を考えていた。
志水京介がタラップの下で立っていた。
最初に降りてきたのは、片倉慎吾。
そして、自らマイクを取り、言った。
「……私は、国を私物化しました。
しかし、その罪を認める機会を、再起動が与えてくれました」
その言葉に、カメラのシャッター音が止まらなかった。
⸻
■ 午前8時00分:国会前広場
レンたちはそのまま公安に身柄を預けた。
だが、不思議なほど抵抗はなかった。
ミナが問うた。
「……これで、何かが変わると思う?」
レンは答えた。
「それは、もう俺たちの問題じゃない。
“見た奴ら”の問題だよ」
その後、片倉慎吾は政界を引退し、証人として国会での特別聴聞会に出席。
裏金ルートは大手建設企業3社を巻き込んでいたことが明らかとなり、
関係する現職議員5名が辞職。うち2名は起訴された。
“空の正義”は、銃弾ではなく、言葉と証言で地上を動かした。
世論調査では、
「再起動の行動に一定の理解を示す」国民は**62.4%**に達した。
そして、玖堂レンは今――
刑務所ではなく、国会公聴会の証人控室に座っている。
その手に、新しい憲法草案があった。
205便、東京湾上空旋回中。
目的地変更に伴い、羽田空港への再着陸が許可された。
機内では、騒ぎはようやく収まり始めていた。
佐伯ミナは通路で深く息を吐き、非常時対応のマニュアルを開き直していた。
桐原翼は、最後の証拠データを送信完了し、端末を切断していた。
そして、座席A-6では、
かつて副大臣だった男――片倉慎吾が、窓の外をじっと見つめていた。
「……あれが、国会議事堂か」
低く呟いた彼の言葉に、玖堂レンが返した。
「そうだ。
かつて、あんたが税金を私物化した“聖域”だ」
片倉は、ひとつだけ小さく笑った。
その表情には、すでに“政治家”としての仮面はなかった。
「昔な、あそこに入った時、思ったんだよ。
“この国を良くしたい”って。……それ、本気だったんだぜ」
「でも、壊したんだ。あんたが。あんたたちが」
レンの声は低く、しかし怒りよりも悲しみに近かった。
「全部自分が悪いとは……思わない。
でも、あの場所はな……沈んでる船だった。
誰もが落ちないように、見て見ぬふりをしてただけだ」
「だから、俺たちはその船を引きずり下ろす。
それが“再起動”だ」
片倉はうなずいた。そしてポケットから一枚の名刺を取り出した。
裏に、手書きの文字。
【高野建設/片倉後援団体】
→裏金の流入口だった企業。
「これが最後の“贖罪”だ。
この名刺の裏に書いたのが、資金洗浄のルート。
自分が証言する。すべて、話す」
レンの目がわずかに見開かれる。
「なぜ……今さら?」
「“誰か”に言い訳できるなら……それだけでも救いになる気がした。
お前みたいなガキに壊されて終わりたくない」
⸻
■ 午前7時35分:羽田空港 滑走路D-5
機体は、無事に着陸した。
包囲する警察車両、特殊部隊、報道クルーの波。
ランプが点灯し、非常階段が展開される。
乗客たちはゆっくりと降機していく。
だが、その目は――誰もが“再起動”の意味を考えていた。
志水京介がタラップの下で立っていた。
最初に降りてきたのは、片倉慎吾。
そして、自らマイクを取り、言った。
「……私は、国を私物化しました。
しかし、その罪を認める機会を、再起動が与えてくれました」
その言葉に、カメラのシャッター音が止まらなかった。
⸻
■ 午前8時00分:国会前広場
レンたちはそのまま公安に身柄を預けた。
だが、不思議なほど抵抗はなかった。
ミナが問うた。
「……これで、何かが変わると思う?」
レンは答えた。
「それは、もう俺たちの問題じゃない。
“見た奴ら”の問題だよ」
その後、片倉慎吾は政界を引退し、証人として国会での特別聴聞会に出席。
裏金ルートは大手建設企業3社を巻き込んでいたことが明らかとなり、
関係する現職議員5名が辞職。うち2名は起訴された。
“空の正義”は、銃弾ではなく、言葉と証言で地上を動かした。
世論調査では、
「再起動の行動に一定の理解を示す」国民は**62.4%**に達した。
そして、玖堂レンは今――
刑務所ではなく、国会公聴会の証人控室に座っている。
その手に、新しい憲法草案があった。
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