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第195話 真実、胸に残る痛み
応接の間に、重い沈黙が横たわっていた。
先ほどまで語られていたアルフの言葉が、空気の中に残滓のように漂っている。
村を築いた経緯。
人と共に生きてきた日々。
それらは誇張も飾りもない、事実の積み重ねだった。
アルフは、ゆっくりと息を吐いた。
「……追放された時」
静かな声だった。
「俺は、絶望しました」
その言葉に、ルナがわずかに肩を震わせる。
レクターは目を伏せ、レオポルトの指先が強く組み合わされた。
「何もできないと、役に立たないと、そう言われて……
守るべき家も、帰る場所も、すべて失った」
アルフの視線は、父を真っ直ぐに捉えている。
「その時の俺には、誇りも未来もありませんでした」
事実を語る声に、怒りはない。
だが、痛みは確かに滲んでいた。
「……」
レオポルトの喉が、小さく鳴った。
「ただ歩いて、辿り着いたこの地で……
偶然出会った人たちが、俺を拾ってくれた」
ルカが歯を食いしばる。
「力があるとか、貴族の血だとか、そんなものは関係なかった。
『生きるなら一緒に生きよう』って、それだけだった」
アルフは、少しだけ視線を落とした。
「……それが、どれほど救いだったか」
レオポルトの拳が、微かに震える。
息子の言葉は、責めるための刃ではなかった。
それでも、胸の奥に深く突き刺さる。
「畑を耕して、作物が育って。
酒を造って、人が笑って。
学び舎ができて、子どもたちが文字を覚えて。
診療所ができて、命が救われた」
アルフは、一つひとつを確かめるように言葉にする。
「俺は……
この村で、人として生き直したんです」
ルナは俯いたまま、拳を握り締めていた。
ルカの目は潤み、しかし強く父を睨みつけている。
「だから」
アルフは、再び父を見た。
「恨んでいないとは、言えません」
その言葉は、静かだが、逃げのない真実だった。
「……当然よ」
思わず、ルカが声を上げた。
「そんな言葉で済む話じゃない。
あの日、アルフは――」
「ルー姉」
アルフは、穏やかに制した。
しかし、その表情は揺れている。
「……恨みはある」
自分自身に言い聞かせるように、アルフは続けた。
「追放された夜のことも、
門を閉ざされた時の冷たさも、忘れていない」
レオポルトの肩が、目に見えて落ちる。
「でも……」
アルフは、そこで言葉を区切った。
「追放がなければ、今の俺はありませんでした」
空気が、張り詰める。
ルカが息を呑み、ルナが顔を上げる。
「それは、許したという意味ではありません」
はっきりとした声だった。
「結果として、俺はここに立っている。
それだけの話です」
レクターが、小さく頷いた。
兄の言葉の意味を、誰よりも理解している。
「……」
レオポルトは、唇を噛み締めた。
胸の奥で、何かが崩れていく音がした。
誤りだった。
間違いだった。
だが、それを口にする資格が、自分にあるのか――
その問いが、喉を塞ぐ。
「……私は」
声を出そうとして、止まる。
何を言えばいい。
謝罪か。
正当化か。
どれも、息子の前では空虚に思えた。
応接の間に、重苦しい沈黙が広がる。
精霊の気配が、窓辺で揺れた。
それは、慰めでも裁きでもない、ただの存在の証。
アルフは、その沈黙を受け止める。
責めるつもりはなかった。
赦す準備も、まだできていない。
ただ、真実を語っただけだ。
「……」
レオポルトは、苦悶の表情を浮かべたまま、俯いた。
拳は固く握られ、震えが止まらない。
この沈黙は、終わりではない。
始まりでもない。
ただ、
父と子が“同じ現実”を見た瞬間だった。
重く、深く、逃げ場のない――
真実と葛藤の、只中で。
先ほどまで語られていたアルフの言葉が、空気の中に残滓のように漂っている。
村を築いた経緯。
人と共に生きてきた日々。
それらは誇張も飾りもない、事実の積み重ねだった。
アルフは、ゆっくりと息を吐いた。
「……追放された時」
静かな声だった。
「俺は、絶望しました」
その言葉に、ルナがわずかに肩を震わせる。
レクターは目を伏せ、レオポルトの指先が強く組み合わされた。
「何もできないと、役に立たないと、そう言われて……
守るべき家も、帰る場所も、すべて失った」
アルフの視線は、父を真っ直ぐに捉えている。
「その時の俺には、誇りも未来もありませんでした」
事実を語る声に、怒りはない。
だが、痛みは確かに滲んでいた。
「……」
レオポルトの喉が、小さく鳴った。
「ただ歩いて、辿り着いたこの地で……
偶然出会った人たちが、俺を拾ってくれた」
ルカが歯を食いしばる。
「力があるとか、貴族の血だとか、そんなものは関係なかった。
『生きるなら一緒に生きよう』って、それだけだった」
アルフは、少しだけ視線を落とした。
「……それが、どれほど救いだったか」
レオポルトの拳が、微かに震える。
息子の言葉は、責めるための刃ではなかった。
それでも、胸の奥に深く突き刺さる。
「畑を耕して、作物が育って。
酒を造って、人が笑って。
学び舎ができて、子どもたちが文字を覚えて。
診療所ができて、命が救われた」
アルフは、一つひとつを確かめるように言葉にする。
「俺は……
この村で、人として生き直したんです」
ルナは俯いたまま、拳を握り締めていた。
ルカの目は潤み、しかし強く父を睨みつけている。
「だから」
アルフは、再び父を見た。
「恨んでいないとは、言えません」
その言葉は、静かだが、逃げのない真実だった。
「……当然よ」
思わず、ルカが声を上げた。
「そんな言葉で済む話じゃない。
あの日、アルフは――」
「ルー姉」
アルフは、穏やかに制した。
しかし、その表情は揺れている。
「……恨みはある」
自分自身に言い聞かせるように、アルフは続けた。
「追放された夜のことも、
門を閉ざされた時の冷たさも、忘れていない」
レオポルトの肩が、目に見えて落ちる。
「でも……」
アルフは、そこで言葉を区切った。
「追放がなければ、今の俺はありませんでした」
空気が、張り詰める。
ルカが息を呑み、ルナが顔を上げる。
「それは、許したという意味ではありません」
はっきりとした声だった。
「結果として、俺はここに立っている。
それだけの話です」
レクターが、小さく頷いた。
兄の言葉の意味を、誰よりも理解している。
「……」
レオポルトは、唇を噛み締めた。
胸の奥で、何かが崩れていく音がした。
誤りだった。
間違いだった。
だが、それを口にする資格が、自分にあるのか――
その問いが、喉を塞ぐ。
「……私は」
声を出そうとして、止まる。
何を言えばいい。
謝罪か。
正当化か。
どれも、息子の前では空虚に思えた。
応接の間に、重苦しい沈黙が広がる。
精霊の気配が、窓辺で揺れた。
それは、慰めでも裁きでもない、ただの存在の証。
アルフは、その沈黙を受け止める。
責めるつもりはなかった。
赦す準備も、まだできていない。
ただ、真実を語っただけだ。
「……」
レオポルトは、苦悶の表情を浮かべたまま、俯いた。
拳は固く握られ、震えが止まらない。
この沈黙は、終わりではない。
始まりでもない。
ただ、
父と子が“同じ現実”を見た瞬間だった。
重く、深く、逃げ場のない――
真実と葛藤の、只中で。
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