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日常編
第68話「乳酸菌は目に見えない」
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深夜零時を少し回ったころ、ミッドナイトマートの扉がカランと鳴った。
入ってきたのは、以前スイーツを買っていった魔法使いの少女だ。
長いマントの裾にはまだ夜露が残り、杖の先には淡い光がゆらめいている。
少女はまっすぐドリンクコーナーへ向かい、棚を眺めて足を止めた。
そこには、白い液体が詰まった小さなボトルが並んでいる。ラベルには「飲むヨーグルト」「腸を整える」「乳酸菌」などの言葉が異世界語に変換されて書かれていた。
「……ちょう? 整える? 乳酸菌?」
ぶつぶつ呟きながら、ボトルを手に取り、光に透かして観察する。
やがて、少女は真剣な顔でレンに近づいた。
「これは“乳酸菌”なるものが入っていると書かれているが……見えないではないか」
レンは笑みをこらえつつ説明を試みる。
「乳酸菌は、とても小さい生き物なんです。目では見えません」
「目に見えぬ生き物? ……それは、幻獣の類か?」
「いえ、幻獣ではなくて……」
少女は眉間に皺を寄せる。
「見えぬものを、なぜ“居る”と言えるのだ?」
その問いにレンは少し困った顔になる。
「うーん……難しいけど、そういう存在はこの世界にもあるでしょう? 風や魔力みたいに」
「む……確かに魔力は見えぬが、感じることはできる。だが、この乳酸菌とやらは?」
レンは苦笑して肩をすくめた。
「それは……感じられないけど、毎日続けて飲むと、体の中から変わっていくんですよ。お腹の調子がよくなったり、元気になったり」
少女は腕を組んでうなった。
「ふむ……“目に見えぬが確かに働くもの”か。魔法に似ておるな」
そう言うと、彼女はボトルをカゴに入れた。
「では試してみよう。効果があれば、この乳酸菌なる存在を認めてやる」
会計を済ませた少女は、袋を手に扉の前で振り返る。
「……もし効かなかったら、次は直接その乳酸菌を呼び出してやるからな」
冗談なのか本気なのか分からない笑みを浮かべて、夜の街へと消えていった。
レンは思わずニナに目をやり、二人して小さく笑った。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
入ってきたのは、以前スイーツを買っていった魔法使いの少女だ。
長いマントの裾にはまだ夜露が残り、杖の先には淡い光がゆらめいている。
少女はまっすぐドリンクコーナーへ向かい、棚を眺めて足を止めた。
そこには、白い液体が詰まった小さなボトルが並んでいる。ラベルには「飲むヨーグルト」「腸を整える」「乳酸菌」などの言葉が異世界語に変換されて書かれていた。
「……ちょう? 整える? 乳酸菌?」
ぶつぶつ呟きながら、ボトルを手に取り、光に透かして観察する。
やがて、少女は真剣な顔でレンに近づいた。
「これは“乳酸菌”なるものが入っていると書かれているが……見えないではないか」
レンは笑みをこらえつつ説明を試みる。
「乳酸菌は、とても小さい生き物なんです。目では見えません」
「目に見えぬ生き物? ……それは、幻獣の類か?」
「いえ、幻獣ではなくて……」
少女は眉間に皺を寄せる。
「見えぬものを、なぜ“居る”と言えるのだ?」
その問いにレンは少し困った顔になる。
「うーん……難しいけど、そういう存在はこの世界にもあるでしょう? 風や魔力みたいに」
「む……確かに魔力は見えぬが、感じることはできる。だが、この乳酸菌とやらは?」
レンは苦笑して肩をすくめた。
「それは……感じられないけど、毎日続けて飲むと、体の中から変わっていくんですよ。お腹の調子がよくなったり、元気になったり」
少女は腕を組んでうなった。
「ふむ……“目に見えぬが確かに働くもの”か。魔法に似ておるな」
そう言うと、彼女はボトルをカゴに入れた。
「では試してみよう。効果があれば、この乳酸菌なる存在を認めてやる」
会計を済ませた少女は、袋を手に扉の前で振り返る。
「……もし効かなかったら、次は直接その乳酸菌を呼び出してやるからな」
冗談なのか本気なのか分からない笑みを浮かべて、夜の街へと消えていった。
レンは思わずニナに目をやり、二人して小さく笑った。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
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