『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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日常編

第71話「ホワイトデーのお返しの意味」

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冬の冷え込みもようやく和らぎ、夜の風が少し柔らかくなってきた頃。
 コンビニのガラス戸がからん、と鳴り、鎧のこすれる金属音が響く。
 入ってきたのは常連の騎士。だが今日は、いつもより落ち着かない様子で店内を見回していた。

「いらっしゃいませ」
 レンが声を掛けると、騎士はゆっくり歩み寄ってきて、まるで相談でもするように声を低くした。

「……レン殿。少し、聞きたいことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「先月、“バレンタイン”という日に菓子をもらった。その後、“ホワイトデー”なる日にお返しをせねばならんと聞いたのだが……本当なのか?」

 レンはにっこりと頷く。
「はい、本当ですよ。3月14日がその日で、もらった相手に感謝や気持ちを伝えるために贈り物をします」

「ふむ……では、何を贈ればいいのだ?」
 騎士は腕を組み、商品棚をちらりと見たが、すぐに首をひねった。

 レンはレジ横の特設コーナーを指差す。そこには、色とりどりのラッピングが施されたキャンディ、可愛らしい缶入りのクッキー、そして上品な小箱のマカロンが並んでいた。

「実は、お返しには意味があるんです。好意を伝えたいならキャンディ。友人としてならクッキー。特別な想いを込めるならマカロン、っていう具合に」

「ほう……そんな文化まであるのか」
 騎士は驚いたように目を瞬かせ、それから深く考え込む。

「自分の気持ちを素直に考えて選ぶのが、一番ですよ」
 レンが促すと、騎士はしばし黙り、やがてひとつの箱に手を伸ばした。

「……これにしよう」
 手にしたのは、赤いリボンで飾られた透明な袋入りのキャンディだった。小さな飴玉が、まるで宝石のようにきらめいている。

 会計の間、騎士は袋をじっと見つめていた。
「この色と甘さなら……きっと、あの人も喜んでくれるだろう」

 支払いを終え、騎士はキャンディを大事そうに懐へしまい、少し照れた笑みを浮かべて頭を下げた。
「助言、感謝する。……さて、私の想いが届くかどうか、楽しみにしておこう」

「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 鎧の音が遠ざかっていく。
 レンとニナは、しばしその背中を見送っていたが、やがてニナがぽつりと呟いた。
「……うまくいくといいですね」

 レンは小さく笑って、ニナと目を合わせた。
「きっと大丈夫ですよ。あの人、真剣でしたから」

 二人は顔を見合わせ、言葉にせずとも同じ気持ちで頷き合う。
 夜の静けさの中、コンビニの明かりがひときわ温かく灯っていた。

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