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日常編
第73話「春の香りは桜餅」
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夜の帳が降りた異世界の街道に、ぽつりと灯る暖色の光。
深夜零時を過ぎ、今日もミッドナイトマートの扉が異世界へとつながる時間が訪れた。店内は、つい先日から春らしい新商品が並び始めている。
自動ドアが開き、コツ、コツと落ち着いた足音を響かせて入ってきたのは、常連の一人――「菓子三銃士」の異名を取る和菓子好きの女性だ。
ニナがいつも通り「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えると、女性は軽く会釈を返し、そのままゆっくりと棚を巡っていく。
饅頭や羊羹、最中といった和菓子コーナーに目を通し、お茶の棚にも一瞥をくれたあと、女性は「さて、今日は何にしようかしら」と呟きながらレジ方向へと歩きかけ――ふと足を止めた。
冷蔵ショーケースの一角に、見慣れない淡い桃色の菓子が整然と並んでいたのだ。
外側には緑色の葉が巻かれ、透き通るパック越しにも、どこか柔らかそうな質感が伝わってくる。近づいた瞬間、鼻先をふわりとくすぐる爽やかな香り。
「……これは何かしら?」
ちょうど近くで品出しをしていたレンが顔を上げ、女性の視線を追う。
「それは『桜餅』っていうんです。春を代表する和菓子なんです。」
「桜……餅? この香りは……しそ?」
「似てますけど、これは桜の葉を塩漬けにした香りなんです。桜の花の時期だけ出回る、ちょっと特別なものですよ」
女性はパックを手に取り、さらに香りを確かめる。
「葉っぱごと食べるの?」
「はい。そのまま包んで食べると、葉の塩気と中のあんこの甘みが合わさって、すごくおいしいんです」
「……あんこ?」
「こしあんです。なめらかな舌触りで、桜の香りとよく合うんですよ」
女性はしばらく考え込んだあと、小さく笑った。
「面白いわね。春の香りを食べる、というわけね。じゃあ、これをいただくわ」
迷いのない手つきで桜餅のパックをカゴに入れる。
レジに向かう途中、女性はふと「そういえば、ナイポは使えるの?」と尋ねた。
「はい、もちろん。今月は桜柄の小皿と交換できます」
「まあ、それも春らしいわね。じゃあ、ポイントもお願い」
会計を済ませ、ニナが桜餅と交換した小皿を袋に入れる。
「初めて召し上がりますか?」
「ええ。この世界では見たことも聞いたこともないお菓子だもの。食べるのが楽しみだわ」
女性は袋を大事そうに抱え、柔らかな足取りで出口へ向かう。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その背を見送りながら、レンはほんのりと漂う桜の香りに、自分の世界の春を思い出していた。
深夜零時を過ぎ、今日もミッドナイトマートの扉が異世界へとつながる時間が訪れた。店内は、つい先日から春らしい新商品が並び始めている。
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ニナがいつも通り「いらっしゃいませ」と笑顔で迎えると、女性は軽く会釈を返し、そのままゆっくりと棚を巡っていく。
饅頭や羊羹、最中といった和菓子コーナーに目を通し、お茶の棚にも一瞥をくれたあと、女性は「さて、今日は何にしようかしら」と呟きながらレジ方向へと歩きかけ――ふと足を止めた。
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「……これは何かしら?」
ちょうど近くで品出しをしていたレンが顔を上げ、女性の視線を追う。
「それは『桜餅』っていうんです。春を代表する和菓子なんです。」
「桜……餅? この香りは……しそ?」
「似てますけど、これは桜の葉を塩漬けにした香りなんです。桜の花の時期だけ出回る、ちょっと特別なものですよ」
女性はパックを手に取り、さらに香りを確かめる。
「葉っぱごと食べるの?」
「はい。そのまま包んで食べると、葉の塩気と中のあんこの甘みが合わさって、すごくおいしいんです」
「……あんこ?」
「こしあんです。なめらかな舌触りで、桜の香りとよく合うんですよ」
女性はしばらく考え込んだあと、小さく笑った。
「面白いわね。春の香りを食べる、というわけね。じゃあ、これをいただくわ」
迷いのない手つきで桜餅のパックをカゴに入れる。
レジに向かう途中、女性はふと「そういえば、ナイポは使えるの?」と尋ねた。
「はい、もちろん。今月は桜柄の小皿と交換できます」
「まあ、それも春らしいわね。じゃあ、ポイントもお願い」
会計を済ませ、ニナが桜餅と交換した小皿を袋に入れる。
「初めて召し上がりますか?」
「ええ。この世界では見たことも聞いたこともないお菓子だもの。食べるのが楽しみだわ」
女性は袋を大事そうに抱え、柔らかな足取りで出口へ向かう。
「ありがとうございました。またお越し下さいませ」
その背を見送りながら、レンはほんのりと漂う桜の香りに、自分の世界の春を思い出していた。
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