『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』

KAORUwithAI

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決戦編

第88話「闇夜の衝突」

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その夜は、いつもより風が冷たかった。
 レンはレジ台の上に肘をつきながら、閉店の時刻を頭の隅で意識していた。深夜を過ぎ、客足も落ち着いた時間帯。蛍光灯の白い光と冷蔵庫の低い唸りだけが、静かに店内を支配している。

 ニナは雑誌棚の整理をしており、カサカサとページを揃える音がやけに大きく響いた。二人とも口を開かず、それぞれの作業に集中していたが、心のどこかに緊張が張り詰めていた。外の空気が妙にざわついているのを、感覚で分かっていたからだ。

 ――ギィンッ!

 突如として、甲冑と剣がぶつかる金属音が夜を切り裂いた。
 レンは反射的に顔を上げ、ニナも本を抱えたまま硬直する。音は確かに店のすぐ外から聞こえた。

 「ま、まさか……」
 ニナの声が震える。

 続いて、低い唸り声と、複数の兵士の怒号が混じり合う。
 「押し返せ! 囲め!」
 「気を抜くな、奴らは……!」

 レンの喉がひゅっと鳴った。耳を澄ませば、影のようなものが何度も地面を這い、剣で斬りつけられる音が続いている。だが、その直後には「立ち上がった!」という絶望の叫びが響いた。

 (ここまで来たのか……!)

 レンは胸がざわつき、無意識にレジの下の棚に手を伸ばしていた。そこには柏木オーナーが置いた非常用の懐中電灯や、少量の防犯用スプレーがある。だが、それがどこまで役に立つのかは分からない。

 ガシャン、と外で樽か木箱が倒れる音がした。
 すぐそこ、店の前の通りだ。レンは咄嗟に照明を落とそうかと思ったが、蛍光灯の光は変わらず白く店を照らし続けている。

 「レンさん……」
 不安げに視線を寄せるニナ。
 レンは唇に指を当てて「静かに」と示した。

 その瞬間、扉のガラス越しに何か黒い影が横切った。輪郭は曖昧で、人のように見えるが、足音はほとんどしない。まるで闇が凝って形を成したかのようだった。

 二人は息を殺した。
 心臓の鼓動がやけに大きく響く。外では兵士たちが必死に叫び声をあげている。
 「下がれ! 一人倒れた!」
 「しっかりしろ!」

 レンは窓越しに必死で視線を追ったが、影はすでに消えていた。代わりに見えたのは、血に塗れた剣を握りしめる兵士の姿。彼の顔は汗で濡れ、必死に呼吸を繰り返していた。

 やがて、戦いの音は少しずつ遠ざかっていった。
 通りを抜け、別の場所へと移動していったのだろう。

 しばらく沈黙が続いた。蛍光灯の微かな唸りが、再び店を支配する。
 レンは深く息を吐き、硬直していた肩を落とした。

 「……ニナ、大丈夫か?」
 「は、はい……でも……本当に目の前で……」

 ニナの声は震えていた。レンは彼女の肩に軽く手を置き、わずかに笑みを作った。
 「心配するな。俺たちはここでやれることをやるだけだ」

 そう言ったが、その言葉が自分に向けられていることを、レン自身がよく知っていた。

 カラン――。
 ふいに扉の鈴が鳴る。思わず二人とも跳ね上がるように振り返ったが、入ってきたのはただの疲れた兵士だった。彼は軽く頭を下げ、水とパンを手に取って会計を済ませる。
 その何気ない仕草に、レンは少しだけ現実へ引き戻された。

 「ありがとうございました。またお越し下さいませ」

 祈りにも似た声が、今夜も確かに店内に響いた。
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