『迷探偵 探田マヨイの事件ファイル』

KAORUwithAI

文字の大きさ
16 / 44

第16話二人の影と、一枚のレシート

しおりを挟む
カフェ・アレグロを出て、ミナはふと振り返った。
そこには、背筋をしゃんと伸ばした黒髪の女性が立っていた。
年は三十代後半くらい。上品な雰囲気に、黒いブラウス。

「あ……」

 
それは、まさに静香の言っていた“その女”に酷似していた。
ミナが一瞬声をかけようとしたそのとき

「よう、助手殿。調査資料を忘れておったぞ!」

背後からマヨイの声が響き、ミナの肩にファイルがトンと置かれる。
振り返った瞬間、あの女性の姿はすでに人波に紛れていた。

「……いま、あの人……」

「ん? あの黒ブラウスの女か? 確かに、怪しげな雰囲気じゃったな……。お主、尾行しないのか?」

「しないですし、今ので完全にタイミング逃しました!」

 
ミナは深く息を吐いてから、手に持ったレシートを見つめた。

「でも、この日付と時間、席の位置は一致してる。つまり、あの人が間違いなく“その時の女性”」

「ふむ、では容疑者として名前を書いておこう」

「やめなさい」

 
その夜、事務所に戻ったふたりは、再び調査の整理を始めていた。
ミナがレシートを拡大コピーし、時刻の部分を指差す。

「この注文、午後3時26分。“アイスティー2つ”。この時間帯、周囲の席は比較的空いてたはずだから……会話も周りに聞かれにくかったと思います」

「つまり、“わざわざここを選んだ”可能性がある、ということじゃな」

 
マヨイはごそごそと、ポケットから小さなスケッチブックを取り出す。
例によって、自作の“事件現場図”である。見た目はだいぶ雑だ。

「……窓際に座ったふたり、店員の視線は背後から。つまり、“人目を避けつつ話せる”場所じゃ」

「マヨイさん、たまに鋭いのが悔しいです」

 
そして次の瞬間、ミナがふと気づいたように言った。

「でも、“だったらどうする?”って言葉……」

「うむ」

「あれ、実は“相談”だったんじゃないでしょうか。浮気の言い訳とかじゃなくて、何か、“重大な悩み”の」

 
マヨイが目を細めて、頷いた。

「ふむ。つまり、浮気の現場ではなく、
“迷い”の現場だったという仮説じゃな」

 
ミナは、静香の表情を思い出していた。
あの“微笑み”に込められた意味を、彼女はまだ知らない。
でも、それを“裏切り”と決めつけるには、どこか……引っかかるものがある。

 

「やっぱり、一度直接この女性に話を聞かないと」

「うむ。では、再び張り込みじゃな!」

「今度は店員のフリしないでくださいね?」

「うむ、今週末はもう本物のシフトが入っておる」

「ほんとに働くつもりなんですか!!?」

 

こうして次なる調査ターゲットは、「黒いブラウスの女性」となった。

その正体が、“ただの知人”か、“密会相手”か、
あるいは──とても大切な“誰か”なのか。

物語は、少しずつその核心へと歩み出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...