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第17話ピアノ教室と茶色い封筒
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「見つけたぞ、“黒ブラウスの女”──その正体は“小泉麻里”、ピアノ講師だ!」
翌日、マヨイが意気揚々と事務所に戻ってきた。
手にはチラシの束と、なぜか“音符柄のマグカップ”。
「なんですか、そのテンション……っていうか、それどこで手に入れたんです?」
「近くの公民館で“子どもピアノ発表会”のポスターを見かけてな。試しにのぞいたら、いたのじゃ! あの女が!」
「無許可で潜入してないですよね?」
「もちろんじゃ。名探偵に不法侵入などありえん」
「ありえなくない顔してます!」
マヨイの話によると彼女、小泉麻里は、近くの音楽教室でピアノを教えている人物で、
地元ではそれなりに知られている存在らしい。
しかも、依頼人・静香の夫、立花司(たちばな・つかさ)と同じ中学の出身で、数年前に再会して以降、ときどき“人生相談”に乗っていたという。
「つまり、旧友ポジションか……でも、静香さんからしたら“不安要素”になるわけですね」
「ふむ。いわば、“ノスタルジックな関係性”じゃな」
「またぼんやりした言い方を……」
そしてマヨイが机の上に置いたのは、茶色の封筒だった。
「これは……?」
「会場の片隅に“忘れ物”として置いてあった封筒じゃ。“たのうえ”という名前が裏書きされておった」
封筒の表には、確かに「立花司」と小さく書かれている。
開けてみると、中から出てきたのは
一枚の紙と、何かの“検査結果”。
「これは……遺伝子検査……?」
ミナが目を通すと、そこには病院名、判定日、そして「陽性」の文字があった。
「……これ、もしかして……」
「うむ。これは、家族性の神経変性疾患のリスクを示す検査じゃ。つまり、夫・司は“自分の家系に病気の可能性がある”ことを知っておるのじゃ」
ミナは、目の前が少し暗くなるのを感じた。
子どもを持つことをためらっていた理由。
そして、“静香に話せなかった理由”。
それが、この封筒の中に詰まっていた。
「……だから、相談してたんだ。小泉さんに……誰にも言えないことを」
「うむ。そして、おそらく……“だったら、どうする?”は、“病気のリスクがあると知ったうえで、子どもを望むか”という問いだったのじゃろう」
それは、重すぎる決断だった。
自分の身体の未来を、そして愛する人の未来を、どう守るか。
ミナは、封筒をそっと閉じた。
「……静香さんに、知らせるべきですよね。誤解したままじゃ、かわいそうです」
「うむ。では名探偵、いざ参る! 真実を届けに!」
「いや、その前にアポ取りましょうよ! 突撃訪問だけはやめてください!」
こうして、物語は静かにクライマックスへと向かっていく。
誤解と沈黙の先に、ほんとうの“夫婦の会話”はあるのだろうか
翌日、マヨイが意気揚々と事務所に戻ってきた。
手にはチラシの束と、なぜか“音符柄のマグカップ”。
「なんですか、そのテンション……っていうか、それどこで手に入れたんです?」
「近くの公民館で“子どもピアノ発表会”のポスターを見かけてな。試しにのぞいたら、いたのじゃ! あの女が!」
「無許可で潜入してないですよね?」
「もちろんじゃ。名探偵に不法侵入などありえん」
「ありえなくない顔してます!」
マヨイの話によると彼女、小泉麻里は、近くの音楽教室でピアノを教えている人物で、
地元ではそれなりに知られている存在らしい。
しかも、依頼人・静香の夫、立花司(たちばな・つかさ)と同じ中学の出身で、数年前に再会して以降、ときどき“人生相談”に乗っていたという。
「つまり、旧友ポジションか……でも、静香さんからしたら“不安要素”になるわけですね」
「ふむ。いわば、“ノスタルジックな関係性”じゃな」
「またぼんやりした言い方を……」
そしてマヨイが机の上に置いたのは、茶色の封筒だった。
「これは……?」
「会場の片隅に“忘れ物”として置いてあった封筒じゃ。“たのうえ”という名前が裏書きされておった」
封筒の表には、確かに「立花司」と小さく書かれている。
開けてみると、中から出てきたのは
一枚の紙と、何かの“検査結果”。
「これは……遺伝子検査……?」
ミナが目を通すと、そこには病院名、判定日、そして「陽性」の文字があった。
「……これ、もしかして……」
「うむ。これは、家族性の神経変性疾患のリスクを示す検査じゃ。つまり、夫・司は“自分の家系に病気の可能性がある”ことを知っておるのじゃ」
ミナは、目の前が少し暗くなるのを感じた。
子どもを持つことをためらっていた理由。
そして、“静香に話せなかった理由”。
それが、この封筒の中に詰まっていた。
「……だから、相談してたんだ。小泉さんに……誰にも言えないことを」
「うむ。そして、おそらく……“だったら、どうする?”は、“病気のリスクがあると知ったうえで、子どもを望むか”という問いだったのじゃろう」
それは、重すぎる決断だった。
自分の身体の未来を、そして愛する人の未来を、どう守るか。
ミナは、封筒をそっと閉じた。
「……静香さんに、知らせるべきですよね。誤解したままじゃ、かわいそうです」
「うむ。では名探偵、いざ参る! 真実を届けに!」
「いや、その前にアポ取りましょうよ! 突撃訪問だけはやめてください!」
こうして、物語は静かにクライマックスへと向かっていく。
誤解と沈黙の先に、ほんとうの“夫婦の会話”はあるのだろうか
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