『迷探偵 探田マヨイの事件ファイル』

KAORUwithAI

文字の大きさ
18 / 44

第18話静香、真実に触れる

しおりを挟む
午後の陽ざしが、事務所の和紙のブラインド越しにやわらかく差し込んでいた。

その明かりの中、静香は少し緊張した面持ちで
座っていた。
向かいのソファには、探田マヨイと佐伯ミナ。

テーブルの上には、あの茶色い封筒が静かに置かれていた。

 
「……司が、その、検査を……?」

 
ミナが頷いた。

「はい。病院名と日付、それにご主人の名前……すべて一致しています。中身は、ご主人が受けた遺伝性の病気のリスク検査でした」

 
静香は封筒に触れようとして、途中で手を止めた。
そっと胸元に手を当て、震える声で言う。

「……それで、あの人……あんなに、よそよそしかったんですね」

 
「おそらく、ご自身でも悩まれていたと思います。
あなたに伝えることで、悲しませたくない。
でも、伝えなければ……一緒に未来を語れない。
その間で、ずっと迷っておられたんじゃないでしょうか」

 
静香の目元に、うっすらと涙が浮かんでいた。

「……馬鹿ですね、私。
笑ってるのを見ただけで、浮気かもって決めつけて……
ほんとは、ずっと誰にも言えずに苦しんでたのに」

 
その横で、マヨイがうんうんと頷いた。

「わしも最初は“完全にクロ”じゃと思っておったがな。
“浮気の証拠”だと鼻息荒くレシートを集めておった。
でも……大事なのは、“証拠”より“背景”じゃ。
どんな想いでそこに至ったか、それを探るのが、探偵の仕事じゃ」

 
静香はふっと笑った。泣き笑いのような、優しい表情だった。

「……ありがとう、ございます。
ちゃんと、話します。司と……ちゃんと、向き合ってみます」

 
「うむ! そうこなくては!」

「でも絶対マヨイさんに直接言われたくなかったセリフですね」

「むっ、助手殿、ツッコミの鋭さが増しておるな!」

 
そして、静香は封筒を胸に抱え、立ち上がった。

「……あの人が、私のことを考えてくれてたって、わかっただけでも、うれしかったです。
“微笑み”って、隠しごとにも、やさしさにも見えるんですね」

 
ミナは静かに頷いた。

「そのどちらでもあるから……ややこしくて、愛おしいんですよ」

 
帰り際、静香がふと振り返って言った。

「……お二人、すごくいいコンビですね。
とても、迷探偵には見えませんでした」

 
マヨイが胸を張った。

「ほほう、それは光栄。助手が優秀でな、わしの名探偵っぷりがますます輝くというものじゃ」

「はいはい、自分で言っちゃったー」

 
静香が笑ったまま、事務所のドアを閉めた。

そしてそのあと、事務所に静寂が訪れた瞬間

 
「……マヨイさん、今の、すっごく名推理っぽかったですね」

「おう、どうじゃ。名探偵・探田マヨイ、健在じゃろ?」

「でも最初、“絶対浮気”って決めつけてましたよね」

「うっ……助手殿、そのツッコミは心に刺さる……!」

 
だがその刺さり具合が、ふたりの“今の距離感”を物語っていた。

迷って、遠回りして、けれどちゃんとたどり着く。
このコンビなら、どんな真実も、笑って迎えられる気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

別れし夫婦の御定書(おさだめがき)

佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★ 嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。 離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。 月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。 おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。 されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて—— ※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。

処理中です...