29 / 44
第29話アパートの秘密とポチの過去
しおりを挟む
アパート──
その外観は新しく、まだ引っ越し途中の部屋も多いようだった。
「助手殿、ここが現場じゃな。事件の中心にして、愛の巣」
「違う。絶対に“愛の巣”じゃない。やめて、アパートの評判下がるから」
2人が向かったのは、ポチが最後に目撃されたという101号室の前。
インターホンを押すと、若い女性が顔を出した。
30代前半くらい、黒髪で物静かな雰囲気。名札には「堂本」とある。
「ポチ……ですか?」
彼女はその名を聞いた瞬間、目を見開き、手で口元を押さえた。
「やっぱり……」
マヨイの目が光った。
「む、これは完全に“何かを知ってる人のリアクション”!」
「いや、そりゃ名前出されたら誰でも驚きますよ。自意識の暴走ですか」
堂本は、少し戸惑いながら言った。
「……実は、私、昔、草野さんのお父様、先代の家に住んでいたことがあるんです。
ほんの少しだけ、ポチと暮らしていた時期もありました。
父が亡くなった後、引き払って……今はここで一人暮らししています」
「つまり、先代の妹ってことは……ミナ殿の叔母君か。ふむ、いかにも怪しげな立ち位置じゃ」
「いや、“叔母君”って何!? 平安貴族!? それに、私の親戚じゃありませんから!」
「……実は、最近ポチがここに来ていたのを、何度か見ました。
最初は気のせいかと思って……でも、あの子、私の顔をじっと見て……」
「むむ、それはつまり、“再会した旧友の目”……!」
「そういうドラマチックな言い方やめて! しかも旧友じゃなくて元飼い主ね!」
「ここ数日、朝と夕方に、必ずこのアパートの前まで来てたみたいで……。
でも、声をかけても逃げてしまって……」
堂本は少し悲しそうに笑った。
「きっと……前に飼ってたのに、途中で別れてしまったから。
それを覚えてたのかもしれませんね」
マヨイが小さくうなずいた。
「わしの恋愛説、まさかの的中……!」
「いやいやいや! それ、“恋”じゃなくて“犬の記憶”ですよ!
しかも別れた元飼い主って、なんなら悲しいやつ!」
ミナが手帳を閉じながら、堂本に深く頭を下げた。
「情報、ありがとうございました。
……おそらく、ポチはあなたに会いに来てたんだと思います。
でも、誰にも見つからず、どこかへまた行ってしまった」
「それはつまり、“再会のあとに始まった新たな旅”……」
「まだ旅してんの!? 早く探しましょうよ、ポチ!!」
迷探偵と助手は、最後の足あとを追い、
静かなアパートをあとにする。
ポチの心を知る手がかりは、まだ、残っている。
その外観は新しく、まだ引っ越し途中の部屋も多いようだった。
「助手殿、ここが現場じゃな。事件の中心にして、愛の巣」
「違う。絶対に“愛の巣”じゃない。やめて、アパートの評判下がるから」
2人が向かったのは、ポチが最後に目撃されたという101号室の前。
インターホンを押すと、若い女性が顔を出した。
30代前半くらい、黒髪で物静かな雰囲気。名札には「堂本」とある。
「ポチ……ですか?」
彼女はその名を聞いた瞬間、目を見開き、手で口元を押さえた。
「やっぱり……」
マヨイの目が光った。
「む、これは完全に“何かを知ってる人のリアクション”!」
「いや、そりゃ名前出されたら誰でも驚きますよ。自意識の暴走ですか」
堂本は、少し戸惑いながら言った。
「……実は、私、昔、草野さんのお父様、先代の家に住んでいたことがあるんです。
ほんの少しだけ、ポチと暮らしていた時期もありました。
父が亡くなった後、引き払って……今はここで一人暮らししています」
「つまり、先代の妹ってことは……ミナ殿の叔母君か。ふむ、いかにも怪しげな立ち位置じゃ」
「いや、“叔母君”って何!? 平安貴族!? それに、私の親戚じゃありませんから!」
「……実は、最近ポチがここに来ていたのを、何度か見ました。
最初は気のせいかと思って……でも、あの子、私の顔をじっと見て……」
「むむ、それはつまり、“再会した旧友の目”……!」
「そういうドラマチックな言い方やめて! しかも旧友じゃなくて元飼い主ね!」
「ここ数日、朝と夕方に、必ずこのアパートの前まで来てたみたいで……。
でも、声をかけても逃げてしまって……」
堂本は少し悲しそうに笑った。
「きっと……前に飼ってたのに、途中で別れてしまったから。
それを覚えてたのかもしれませんね」
マヨイが小さくうなずいた。
「わしの恋愛説、まさかの的中……!」
「いやいやいや! それ、“恋”じゃなくて“犬の記憶”ですよ!
しかも別れた元飼い主って、なんなら悲しいやつ!」
ミナが手帳を閉じながら、堂本に深く頭を下げた。
「情報、ありがとうございました。
……おそらく、ポチはあなたに会いに来てたんだと思います。
でも、誰にも見つからず、どこかへまた行ってしまった」
「それはつまり、“再会のあとに始まった新たな旅”……」
「まだ旅してんの!? 早く探しましょうよ、ポチ!!」
迷探偵と助手は、最後の足あとを追い、
静かなアパートをあとにする。
ポチの心を知る手がかりは、まだ、残っている。
0
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜
小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。
でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。
就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。
そこには玲央がいる。
それなのに、私は玲央に選ばれない……
そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。
瀬川真冬 25歳
一ノ瀬玲央 25歳
ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。
表紙は簡単表紙メーカーにて作成。
アルファポリス公開日 2024/10/21
作品の無断転載はご遠慮ください。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる