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第4話白手袋の執事
しおりを挟む「ふむ……やはり怪しい。完璧すぎるのじゃ」
食堂の隅、紅茶を飲みながらじっと執事・東堂を見つめるマヨイの目は、完全に“犯人確定”モードだった。
「何が怪しいって、見よ、この手袋じゃ」
「それ、まだ言いますか……?」
ミナは呆れ気味だった。
たしかに東堂の白手袋は不自然なほどぴっちりと装着され、指先まで清潔そのものだった。だが、それで犯人呼ばわりは早計だ。
「わしの推理では、あの手袋の下に“極秘のメモ”が隠されておる」
「どんな推理ですかそれ……」
「あるいは、手袋を外したら“別人”だったりしてな。執事は双子だった、とか!」
「その発想は斜め上すぎます!」
「ふふふ、斜め上こそ真実への階段よ」
マヨイは小声でミナにささやいた。
「第一、この屋敷で一番自由に動けて、かつ一番金庫に近づけたのは執事。間違いあるまい!」
そのとき、東堂が静かに口を開いた。
「……探偵殿。わたくしが疑われていることは承知しておりますが、一つお聞きしてよろしいでしょうか?」
「うむ、なんじゃ?」
「仮に私が封筒を盗んだとして、どこに隠すというのです?」
「ふっ……それを探すのが、わしの役目じゃ!」
「つまり、証拠はまだ何もないと」
「……うむ」
東堂はほのかにため息をついた。
「誤解を解くために申し上げますが、手袋は先代の看病の際、薬品で肌荒れして以来ずっと着用しているものでして。いわば、制服の一部なのです」
「……む。つまり、その下には“傷跡”がある……!」
「まあ、手荒れの跡くらいは」
「……ふむ。それもまた“心の傷”の象徴かもしれぬのう……」
マヨイは難しげに紅茶をすすりながら、思い切り見当違いの方向に納得していた。
「ともあれ、手袋は置いといて……あの日、先代が金庫を開けた場面を誰か見てませんか?」
「私が給湯室におりました際、先代が金庫の前で“ナポレオン、ダメだ”とおっしゃっていたのは耳にしました」
「……猫、やはり犯人か……」
「またそれですか」
東堂は続けた。
「ただ、その直後にお茶をお持ちしましたとき、先代は金庫を閉じる様子もなく、非常に穏やかなご様子でした。何かを“終えた”ような表情でした」
「終えた……つまり、“封印を完了した顔”かもしれぬ」
「それ、また決めつけてますよね」
一見冷静なようで、地味に話をややこしくするマヨイの推理。
東堂は無表情のまま、そっと紅茶を淹れ直してくれた。
推理は振り出しに戻った
ように見えたが、この会話の中にも、真相への“ほつれ”がほんの少しだけ見え始めていた。
……たぶん。
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