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第16話 大人たちの前で
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魔法の練習を本格的に始めてから、
さらに半年ほどの月日が流れていた。
セシリアとミアは、もはや“初めて魔法を触った子供”ではない。
土を動かし、水を集め、風を起こす――
どれも安定して行えるようになっていた。
もっとも、
それを知っているのは、まだ三人だけだった。
その日も、村外れの空き地で練習をしていた。
「……じゃあ、つぎは、かぜ」
ルークの言葉に、ミアが一歩前に出る。
呼吸を整え、
体内循環を意識し、
必要な分だけ魔力を外へ。
ふわり、と柔らかな風が起こり、
草が同じ方向へ揺れた。
「……よし」
「やった」
ミアが小さく笑う。
その様子を、
少し離れた場所から――
“誰か”が見ていたことに、三人は気づいていなかった。
*
「……今の、見たか?」
「……子供が、魔法を……?」
村人は、目を疑った。
確かに見えた。
詠唱もなしに、風が起きた――ように、見えた。
だが、何かの見間違いかもしれない。
そう思いつつも、
その光景は、強く記憶に残った。
そして――。
話は、あっという間に広がった。
夕方には、
ルークとセシリアの両親、
そしてミアの両親の耳にまで届いていた。
*
練習を終え、
三人が家の近くまで戻ってきた時だった。
「……あれ?」
セシリアが、足を止める。
家の前に、
見慣れた大人たちが揃って立っていた。
ルークの父エドガーと母リリア。
セシリアの両親。
そして、ミアの両親。
全員が、
三人をまっすぐに見ている。
(……来たな)
ルークは、内心で小さく息を吐いた。
いつかは、こうなる。
それは分かっていた。
「……ルーク」
最初に口を開いたのは、エドガーだった。
「お前たち……」
少し言葉を選ぶように、
それから、はっきりと問う。
「魔法を使っているのか?」
空気が、張り詰める。
セシリアとミアは、
一瞬ルークの方を見た。
ルークは、静かに頷く。
――隠す理由は、もうない。
「……うん」
ルークが答えると、
セシリアもミアも続いた。
「……使ってる」
「……練習してた」
一瞬の沈黙。
それから。
「……なぜだ」
セシリアの父が、低い声で聞いた。
「なぜ、そんなことを?」
三人は、顔を見合わせる。
そして――
ルークが、一歩前に出た。
「……はじめは」
幼い声だが、
言葉ははっきりしていた。
「畑が……げんき、なかった」
その言葉に、
大人たちの表情が微かに変わる。
「パパやママや……むらのひとが、こまってた」
「だから……ぼくが」
そこで、少しだけ言葉を区切る。
「……まほうで、げんきに、してた」
ざわり、と空気が動いた。
「……畑を?」
ミアの母が、思わず聞き返す。
ミアが頷いた。
「……ほんと」
「うちの畑も、ルークが」
「それで……わたしたちも、しった」
セシリアが続ける。
「ルークが、ひとりでやってたから」
「……てつだおうって」
「……それで、れんしゅう、はじめた」
三人の言葉を聞きながら、
大人たちは、少しずつ記憶を辿っていく。
「……そういえば」
「畑の育ち、急に良くなった時期が……」
「毎年じゃなかった……」
互いに視線を交わし、
やがて、一つの結論に行き着く。
「……そういうことか」
エドガーが、深く息を吐いた。
だが、次の瞬間――
彼の表情は、父親のものに変わった。
「だがな」
声音が、少し厳しくなる。
「子供だけで魔法の練習をするのは、危険だ」
「……」
「怪我をしたらどうする」
「事故が起きたら?」
正論だった。
セシリアもミアも、
思わず俯く。
だが、その時。
「……だったら」
リリアが、一歩前に出た。
「私が教えるわ」
その言葉に、
全員が彼女を見る。
「リリア……?」
「子供だけでやらせるより、
大人がついていた方がいいでしょう?」
穏やかな口調だが、
その目は真剣だった。
「私も、基礎魔法なら教えられる」
「……」
ミアの両親が、顔を見合わせる。
「……本当に、いいのか?」
「責任は、重いぞ」
リリアは、静かに頷いた。
「ええ」
「だからこそよ」
「この子たち……」
ちらりと、三人を見る。
「ちゃんと、理由があってやってるもの」
「危ないからって、
全部止めるのは、違うと思うわ」
しばらくの沈黙。
やがて――。
「……分かりました」
ミアの父が、頭を下げた。
「お願いします」
「こちらこそ」
こうして、
大人たちの了承が下りた。
*
三人は、揃って一歩前に出た。
「……おねがい、します」
「……ちゃんと、いうこと、ききます」
「……がんばります」
揃って、深く頭を下げる。
その姿を見て、
大人たちは小さく苦笑した。
「……まったく」
「しっかりしてるな」
リリアは、三人を見て微笑む。
「これからは、私も一緒よ」
「勝手にやっちゃ、だめだからね?」
「……うん!」
三人の声が、重なった。
ルークは、その様子を見ながら、
胸の奥で静かに思った。
(……一段階、進んだな)
秘密は、完全に消えたわけではない。
だが、
“子供だけの秘密”ではなくなった。
それでいい。
これから先、
もっと大きな壁が待っている。
その前に――
信頼できる大人が、そばにいる。
それは、賢者だった頃には、
決して得られなかったものだった。
夕暮れの中、
三人は並んで家路についた。
新しい段階が、
静かに始まろうとしていた。
さらに半年ほどの月日が流れていた。
セシリアとミアは、もはや“初めて魔法を触った子供”ではない。
土を動かし、水を集め、風を起こす――
どれも安定して行えるようになっていた。
もっとも、
それを知っているのは、まだ三人だけだった。
その日も、村外れの空き地で練習をしていた。
「……じゃあ、つぎは、かぜ」
ルークの言葉に、ミアが一歩前に出る。
呼吸を整え、
体内循環を意識し、
必要な分だけ魔力を外へ。
ふわり、と柔らかな風が起こり、
草が同じ方向へ揺れた。
「……よし」
「やった」
ミアが小さく笑う。
その様子を、
少し離れた場所から――
“誰か”が見ていたことに、三人は気づいていなかった。
*
「……今の、見たか?」
「……子供が、魔法を……?」
村人は、目を疑った。
確かに見えた。
詠唱もなしに、風が起きた――ように、見えた。
だが、何かの見間違いかもしれない。
そう思いつつも、
その光景は、強く記憶に残った。
そして――。
話は、あっという間に広がった。
夕方には、
ルークとセシリアの両親、
そしてミアの両親の耳にまで届いていた。
*
練習を終え、
三人が家の近くまで戻ってきた時だった。
「……あれ?」
セシリアが、足を止める。
家の前に、
見慣れた大人たちが揃って立っていた。
ルークの父エドガーと母リリア。
セシリアの両親。
そして、ミアの両親。
全員が、
三人をまっすぐに見ている。
(……来たな)
ルークは、内心で小さく息を吐いた。
いつかは、こうなる。
それは分かっていた。
「……ルーク」
最初に口を開いたのは、エドガーだった。
「お前たち……」
少し言葉を選ぶように、
それから、はっきりと問う。
「魔法を使っているのか?」
空気が、張り詰める。
セシリアとミアは、
一瞬ルークの方を見た。
ルークは、静かに頷く。
――隠す理由は、もうない。
「……うん」
ルークが答えると、
セシリアもミアも続いた。
「……使ってる」
「……練習してた」
一瞬の沈黙。
それから。
「……なぜだ」
セシリアの父が、低い声で聞いた。
「なぜ、そんなことを?」
三人は、顔を見合わせる。
そして――
ルークが、一歩前に出た。
「……はじめは」
幼い声だが、
言葉ははっきりしていた。
「畑が……げんき、なかった」
その言葉に、
大人たちの表情が微かに変わる。
「パパやママや……むらのひとが、こまってた」
「だから……ぼくが」
そこで、少しだけ言葉を区切る。
「……まほうで、げんきに、してた」
ざわり、と空気が動いた。
「……畑を?」
ミアの母が、思わず聞き返す。
ミアが頷いた。
「……ほんと」
「うちの畑も、ルークが」
「それで……わたしたちも、しった」
セシリアが続ける。
「ルークが、ひとりでやってたから」
「……てつだおうって」
「……それで、れんしゅう、はじめた」
三人の言葉を聞きながら、
大人たちは、少しずつ記憶を辿っていく。
「……そういえば」
「畑の育ち、急に良くなった時期が……」
「毎年じゃなかった……」
互いに視線を交わし、
やがて、一つの結論に行き着く。
「……そういうことか」
エドガーが、深く息を吐いた。
だが、次の瞬間――
彼の表情は、父親のものに変わった。
「だがな」
声音が、少し厳しくなる。
「子供だけで魔法の練習をするのは、危険だ」
「……」
「怪我をしたらどうする」
「事故が起きたら?」
正論だった。
セシリアもミアも、
思わず俯く。
だが、その時。
「……だったら」
リリアが、一歩前に出た。
「私が教えるわ」
その言葉に、
全員が彼女を見る。
「リリア……?」
「子供だけでやらせるより、
大人がついていた方がいいでしょう?」
穏やかな口調だが、
その目は真剣だった。
「私も、基礎魔法なら教えられる」
「……」
ミアの両親が、顔を見合わせる。
「……本当に、いいのか?」
「責任は、重いぞ」
リリアは、静かに頷いた。
「ええ」
「だからこそよ」
「この子たち……」
ちらりと、三人を見る。
「ちゃんと、理由があってやってるもの」
「危ないからって、
全部止めるのは、違うと思うわ」
しばらくの沈黙。
やがて――。
「……分かりました」
ミアの父が、頭を下げた。
「お願いします」
「こちらこそ」
こうして、
大人たちの了承が下りた。
*
三人は、揃って一歩前に出た。
「……おねがい、します」
「……ちゃんと、いうこと、ききます」
「……がんばります」
揃って、深く頭を下げる。
その姿を見て、
大人たちは小さく苦笑した。
「……まったく」
「しっかりしてるな」
リリアは、三人を見て微笑む。
「これからは、私も一緒よ」
「勝手にやっちゃ、だめだからね?」
「……うん!」
三人の声が、重なった。
ルークは、その様子を見ながら、
胸の奥で静かに思った。
(……一段階、進んだな)
秘密は、完全に消えたわけではない。
だが、
“子供だけの秘密”ではなくなった。
それでいい。
これから先、
もっと大きな壁が待っている。
その前に――
信頼できる大人が、そばにいる。
それは、賢者だった頃には、
決して得られなかったものだった。
夕暮れの中、
三人は並んで家路についた。
新しい段階が、
静かに始まろうとしていた。
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