賢者転生〜世界最強の賢者、赤ん坊からやり直す〜

KAORUwithAI

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第16話 大人たちの前で

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 魔法の練習を本格的に始めてから、
 さらに半年ほどの月日が流れていた。

 セシリアとミアは、もはや“初めて魔法を触った子供”ではない。
 土を動かし、水を集め、風を起こす――
 どれも安定して行えるようになっていた。

 もっとも、
 それを知っているのは、まだ三人だけだった。

 その日も、村外れの空き地で練習をしていた。

「……じゃあ、つぎは、かぜ」

 ルークの言葉に、ミアが一歩前に出る。

 呼吸を整え、
 体内循環を意識し、
 必要な分だけ魔力を外へ。

 ふわり、と柔らかな風が起こり、
 草が同じ方向へ揺れた。

「……よし」

「やった」

 ミアが小さく笑う。

 その様子を、
 少し離れた場所から――
 “誰か”が見ていたことに、三人は気づいていなかった。



「……今の、見たか?」

「……子供が、魔法を……?」

 村人は、目を疑った。

 確かに見えた。
 詠唱もなしに、風が起きた――ように、見えた。

 だが、何かの見間違いかもしれない。
 そう思いつつも、
 その光景は、強く記憶に残った。

 そして――。

 話は、あっという間に広がった。

 夕方には、
 ルークとセシリアの両親、
 そしてミアの両親の耳にまで届いていた。



 練習を終え、
 三人が家の近くまで戻ってきた時だった。

「……あれ?」

 セシリアが、足を止める。

 家の前に、
 見慣れた大人たちが揃って立っていた。

 ルークの父エドガーと母リリア。
 セシリアの両親。
 そして、ミアの両親。

 全員が、
 三人をまっすぐに見ている。

(……来たな)

 ルークは、内心で小さく息を吐いた。

 いつかは、こうなる。
 それは分かっていた。

「……ルーク」

 最初に口を開いたのは、エドガーだった。

「お前たち……」

 少し言葉を選ぶように、
 それから、はっきりと問う。

「魔法を使っているのか?」

 空気が、張り詰める。

 セシリアとミアは、
 一瞬ルークの方を見た。

 ルークは、静かに頷く。

 ――隠す理由は、もうない。

「……うん」

 ルークが答えると、
 セシリアもミアも続いた。

「……使ってる」

「……練習してた」

 一瞬の沈黙。

 それから。

「……なぜだ」

 セシリアの父が、低い声で聞いた。

「なぜ、そんなことを?」

 三人は、顔を見合わせる。

 そして――
 ルークが、一歩前に出た。

「……はじめは」

 幼い声だが、
 言葉ははっきりしていた。

「畑が……げんき、なかった」

 その言葉に、
 大人たちの表情が微かに変わる。

「パパやママや……むらのひとが、こまってた」

「だから……ぼくが」

 そこで、少しだけ言葉を区切る。

「……まほうで、げんきに、してた」

 ざわり、と空気が動いた。

「……畑を?」

 ミアの母が、思わず聞き返す。

 ミアが頷いた。

「……ほんと」

「うちの畑も、ルークが」

「それで……わたしたちも、しった」

 セシリアが続ける。

「ルークが、ひとりでやってたから」

「……てつだおうって」

「……それで、れんしゅう、はじめた」

 三人の言葉を聞きながら、
 大人たちは、少しずつ記憶を辿っていく。

「……そういえば」

「畑の育ち、急に良くなった時期が……」

「毎年じゃなかった……」

 互いに視線を交わし、
 やがて、一つの結論に行き着く。

「……そういうことか」

 エドガーが、深く息を吐いた。

 だが、次の瞬間――
 彼の表情は、父親のものに変わった。

「だがな」

 声音が、少し厳しくなる。

「子供だけで魔法の練習をするのは、危険だ」

「……」

「怪我をしたらどうする」

「事故が起きたら?」

 正論だった。

 セシリアもミアも、
 思わず俯く。

 だが、その時。

「……だったら」

 リリアが、一歩前に出た。

「私が教えるわ」

 その言葉に、
 全員が彼女を見る。

「リリア……?」

「子供だけでやらせるより、
 大人がついていた方がいいでしょう?」

 穏やかな口調だが、
 その目は真剣だった。

「私も、基礎魔法なら教えられる」

「……」

 ミアの両親が、顔を見合わせる。

「……本当に、いいのか?」

「責任は、重いぞ」

 リリアは、静かに頷いた。

「ええ」

「だからこそよ」

「この子たち……」

 ちらりと、三人を見る。

「ちゃんと、理由があってやってるもの」

「危ないからって、
 全部止めるのは、違うと思うわ」

 しばらくの沈黙。

 やがて――。

「……分かりました」

 ミアの父が、頭を下げた。

「お願いします」

「こちらこそ」

 こうして、
 大人たちの了承が下りた。



 三人は、揃って一歩前に出た。

「……おねがい、します」

「……ちゃんと、いうこと、ききます」

「……がんばります」

 揃って、深く頭を下げる。

 その姿を見て、
 大人たちは小さく苦笑した。

「……まったく」

「しっかりしてるな」

 リリアは、三人を見て微笑む。

「これからは、私も一緒よ」

「勝手にやっちゃ、だめだからね?」

「……うん!」

 三人の声が、重なった。

 ルークは、その様子を見ながら、
 胸の奥で静かに思った。

(……一段階、進んだな)

 秘密は、完全に消えたわけではない。
 だが、
 “子供だけの秘密”ではなくなった。

 それでいい。

 これから先、
 もっと大きな壁が待っている。

 その前に――
 信頼できる大人が、そばにいる。

 それは、賢者だった頃には、
 決して得られなかったものだった。

 夕暮れの中、
 三人は並んで家路についた。

 新しい段階が、
 静かに始まろうとしていた。
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